コラム  国際交流  2021.12.17

埋まらない米国の分断と分断を深める政治戦略:コロナ対策の大きな妨げ|米国コロナ最前線と合衆国の本質(15)

国際政治・外交 経済政策 米国

前回のコラムは202116日の米国議事堂襲撃後の緊急コラムだったが、それから11ヶ月以上が経ち、米国では様々なことが起こった。ワクチンが驚くべき速さで一般に出回り、受けたい人はほぼ全員、5月頃までには接種可能となった。バイデン政権も滑り出し良好で、多くの国民は安堵した。毎日、朝起きたらトランプ前大統領が新しい問題発言や米国の国益に反する行動をして慌てるという日課から解放されて安心したのである。バイデン大統領は11月のCOP26にも参加して前政権の突然のパリ協定やTPP脱退から転換し、米国が国際社会に復帰したことを象徴した。

シリコンバレーの様子だが、5月に入ってワクチン接種が進むと屋外でのマスク着用義務が解除され、店の中は間引きであったが屋内のレストランなどがオープンした。スーパーや量販店などは全て店内のマスク着用義務が続き、ドアなどに貼り付けてある案内にはワクチン接種状況に関係なく、店内はマスク着用義務があると書いてあるものがほとんどだった。

シリコンバレーでは子供たちも5歳から11歳までのワクチン接種が11月に認可され、認可されたその週に早速公立の学校を会場として任意のワクチン接種ができた。周りの家族は全員、幼稚園児から小学生も受け、3週間後の先週、2回目も受けた。周りの大人たちも10月や11月に3度目のブースター接種を受けている人が多く、年末前には受けたい人はほとんど受けられる。

しかし、これはシリコンバレーの話であり、米国の他の地域ではまるで異なる状況である。

選挙の敗者は消えるわけではない政治力学と米国の長期化する分断

これまでに紹介してきた米国の数多くの深い分断はそれから様々なところでの影響が明らかになった。そして政治学の基本的な力学には「選挙の敗者は消えるわけではない」というものがあり、トランプ前大統領支持層を取り込もうとする現在の共和党はこれ以上民主党に票を取られないためには分断を深めるのが効果的だという戦略に出た。そのために共和党は分断をさらに深める努力をしている。

外から見れば、「分断された米国ではどのように分断を修復するべきか」というのが重要な課題に見えるわけだが、上記の政治力学が邪魔して分断の溝は一向に埋まらない。しかも民主党の真ん中寄りの議員は旧来の共和党の支持層を取り込んだため、インフラのための財政支出や社会保障策をサポートしすぎると議席を失うことを危惧して消極的になり、また民主党支持者が求める政策を通すことの妨げにもなり、バイデン政権への失望も多少現れている。

この米国の分断はコロナ対策の大きな妨げとなっている。

米国の分断とコロナ対策

例えば8月末までの時点でのワクチン接種率を見ると、シリコンバレーと呼ばれる地域に属する複数の市では接種率が高く、中でもサンマテオ市は接種可能人口の9割を超えていた。[1]そして10月中旬に5歳から12歳の子供のワクチン接種が可能になった時点ですぐに学校の体育館がワクチン接種センターとなり、希望する家族は全員、すぐに受けられる状況となり、実際に大多数の人が受けた。スタンフォード大学などは9月に始まった秋学期からキャンパスを物理的にオープンして学生を迎え入れ、学生も教員も全員、ワクチン接種が基本的に義務化されている。

その一方で、テキサスとフロリダは州知事がなんと学校でのマスク着用義務を違法とする条例を作り、現在法廷などで戦っている。ワクチン接種義務ではなく、マスクすら義務化することを禁止しているので、ワクチン未接種の人がどんどん感染するのは当たり前である。9月の上旬にテキサス州のワコ市である学校の教師が同じ週に2人もコロナで亡くなり、その週は学校が閉鎖となったがアメリカンフットボールの対抗試合は続行された。[2]同時期にフロリダのマイアミの学区で教師やバスドライバー、及び食堂スタッフ13人もの従業員が亡くなった。同州ではワクチン接種の有無を尋ねることすら禁じられている。[3]これとは対照的に、シリコンバレーの大手I T企業では1月上旬までにワクチン接種をしていない人は解雇するという通達すら来ているので、この価値観のギャップと州単位での制度のばらつきは驚くほど大きい。

910日のコロナ件数と死者数を人口10万人辺りで比較すると、カリフォルニアが28件(死者数0.2人)、フロリダが63件(死者数1.2人)、テキサスが86件(死者数1.2人)となった。実数を見るとカリフォルニアはそれでも1万件以上、死者数百人以上でフロリダが18万件、死者数350人でテキサスが28万件、死者数264人だった。[4]

地図で見るとワクチン接種に対して反対意見が強い地域は2020年の大統領選挙マップと綺麗に重なる。

11月末の時点でのワクチン接種率、州別

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Source: Washington Post [5]

国全体としての平均ワクチン接種率が60%であり、到達が世界的に見ても早かったのにもかかわらず、そこからなかなか上がらない。しかも11月末の時点で3回目のブースター接種をしている人口が2割もいたので、ワクチンを受けたい約6割の人がさっさと受け、反対派の人は断固として反対するので一向に接種率が上がらない。

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Source: 2020 United States presidential election - Wikipedia

パッと見ただけでバイデン氏に票を入れた州はワクチン接種率が高く、トランプ支持だったところが低い傾向があるのが分かる。

チャートで見る、州別のワクチン接種の度合いと死者数の移行

ワクチン接種とコロナ件数、そして死者数の移行を州別に、時間軸を追って見ると分かりやすい。 

カリフォルニアのワクチン接種状況を見ると、まずは医療従事者と高齢者が接種を始め、一般に開放された4月のタイミングで一気に接種する人が増え、その後はそれまで受けていなかった人が安定期にうけ、10月に入って医療従事者や高齢者がブースターを受けられるようになったタイミングでまた増加した。

カリフォルニア州のワクチン接種状況(20211月から11月末)
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Source: Washington Post [6]

カリフォルニアでの感染者数を見ると、2020年末から2021年の初頭にかけて最も深刻なコロナの波が押し寄せ、ワクチン接種が進んだ3月以降は急速に減少した。そして8月からデルタ株で感染者数がまた増加したが、これは主にワクチンを受けていない人が大多数だった。

カリフォルニアのコロナ感染件数(20203月から202111月末)
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Source: Washington Post[7]

 カリフォルニア州での死者数はコロナ件数と似たような傾向だが、多くの人がワクチンを接種した後の2021年秋の件数増加に伴う死者数の増加が限定的であることが一目で分かる。そして亡くなった人のほとんどがワクチン未接種の人だった。

カリフォルニア州のコロナ感染死者数(20203月から202111月末)
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Source: Washington Post[8]

カリフォルニアの状況と鮮明なコントラストなのがアラバマ州である。アラバマ州は特にワクチン接種率が低い州であり、ワクチン接種の移行を見ると、受けられるようになったタイミングでカリフォルニアのような大きな波はなく、徐々に浸透するという形である。州の平均としては46%にとどまり、最も多い市では6割で、最も少ない市ではたった2割である。

アラバマ州のワクチン接種状況(20211月から11月末)

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Source: Washington Post[9]

こういうワクチン接種のパターンだと、2021年秋のデルタ株の波は深刻で、コロナ件数が2020年末からのピークよりもちょっと高いピークとなった。カリフォルニアとの違いが鮮明である。マスクすら反対する人が多く、マスク義務はほとんど無い状態なので尚更である。

アラバマ州のコロナ感染件数(20203月から202111月末)

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Source: Washington Post[10]

また、死者数も、2021年秋のデルタ株の波がとても深刻であり、最初の大きなピークと同じくらいになっている。

アラバマ州のコロナ感染死者数(20203月から202111月末)
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Source: Washington Post[11]

コロナで直接亡くなる人の他に、医療崩壊状態になって他の急病や怪我を診察してもらえずに亡くなる人もいる。2020年末から2021年の2月までの全米での大きなコロナの波はあちらこちらで医療崩壊状態を招いた。緊急病棟とベッドはコロナ患者で溢れかえり、病院のギフトショップやチャペルにも緊急医療の器具を持ち込み、廊下もベッドで溢れかえる状態を数多くの病院が経験した。

幸い、カリフォルニアやニューヨークなどでは2021年秋のコロナの波は医療崩壊状態には至らなかった。ワクチンが普及した後だったのでワクチン済みの人がデルタ株にかかっても重症化せず、病院で集中治療ベッド(ICU)を必要としたのはほぼ全員、ワクチンを受けていなかった人たちである。

カリフォルニアでのコロナ入院患者とICUベッド数(10万人のうち)

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Source: Washington Post[12]

しかし、ワクチン接種が進まなかったアラバマ州などはまるで異なる世界だった。2021年の秋の波は2020年末から2021年初頭の波とほとんど変わらない状態で、再び医療崩壊状態となった。しかもやはりI C Uや入院する患者のほとんどがワクチン未接種であり、アラバマやミシシッピーの医者には、ワクチンを打たない「自分勝手な人たち」を受け入れるのはもううんざりで、断るところすら出てきた。

アラバマ州でのコロナ入院患者とICUベッド数(10万人のうち)
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Source: Washington Post[13]

ワクチン接種さえしていれば救えるコロナでの死者はもちろんのこと、コロナ以外の患者も大勢いたとなると、ワクチン接種は「個人の自由」を通り越えて「人命尊重」の策であり、政府は人命尊重を選ぶことが国益のためでもあると言えるはずである。

しかし、残念ながら過去のコラムで紹介したように情報の分断と情報源の違いによる異なる「現実」の理解が共通認識を作り上げることの妨げとなっている。

そこで政治的な競争が極めて危険な方法で展開されている。トランプ支持層を取り込みたい現在の共和党は民主党とバイデン政権に徹底的に反対することを最優先としているため、ワクチン接種やマスク着用義務への反対を煽っているのだ。その影響もあり、2020年の大統領選の投票動向がコロナ感染とコロナによる死亡率、そしてワクチン接種率と非常に高い相関関係が現れている。

バイデン氏が大勝したところに比べるとトランプ氏が大勝したところではコロナ感染率、死亡率、そしてワクチン接種率が大きく異なるのである。

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Source: Washington Post

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Source: Washington Post

下記のグラフの青いプラスマークがバイデン氏を支持したカウンティーの中心地、赤がトランプ氏、そして全体の中心地が黒のプラスである。左のグラフがワクチン接種率で右が10万人単位の死者数である。

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Source: NPR[14]

政治における永遠のテーマである、「政治家は有権者の要望を忠実に政策に反映されるために選ばれている」という思想なのか、或いは「政治家は有権者たちを代表して、有権者自身の短期的な希望にかかわらず、有権者にとってベストな政策を作ることを任命されている」という考えなのかというジレンマにも直面する。現在は共和党が強い州では個人の自由としてマスク義務すら個人の自由の侵害である考える人が多く、州知事や州の議会は彼らの要望を代表していると言える。同時に、民主党支持者が多く、都市部が多い州はコロナ拡散防止の最優先する視座から、マスク着用義務やワクチン接種義務を支持する有権者が多い。ただ、国のレベルとしては州によっては政策のプレファレンスが真逆なところを抱えているので、地元の有権者の要望に応えるバラバラに政策を任せるだけでは死者や急増するばかりである。政権交代で共和党から民主党の大統領と議会構成にシフトしたことも要因であり、バイデン政権は共和党支持の州を敵に回しても連邦政府としてワクチン接種義務の導入を試みている。

全体で見ると米国でコロナによる死者数は11月末には約78万人に上り、米国史上最大の犠牲者を出した南北戦争の75万人を超えてしまった。第二次世界大戦(40万人)、第一次世界大戦(12万人)、ベトナム戦争(約6万人)、アフガンやイラク戦争など、その他の全ての米国が外国との戦争で亡くなった人の合計を超えてしまった。[15]その死者の9割以上がワクチン未接種である。1918年から世界中で猛威を振るったH1N1ウイルスのパンデミック、通称スペイン風邪で亡くなった米国人約67万人をも上回った。人口比率にすると0.24%だが、これは約400人に一人である。しかも地域的にばらつきがあるので、死亡率が高いところでは相当な数となっている。

感覚としては、親戚、友人や知り合いには必ずコロナに感染した人がいる。そして、友達や知り合いの家族や近い人まで輪を広げると、必ず誰かがコロナで亡くなっている、という感じである。例えば妻の友人の母親が別の急病で入院したら院内感染で亡くなったケースや、知人の医者の同僚が数名、ワクチン開発前に感染して亡くなったケースなどがある。

これほどまでに死者数が高いにもかかわらず、4月以降から米国国内でワクチンが足りないということではなく、絶対に受けないという人が多い地区が打撃を受けているのだ。そしてこの地域は共和党支持者が多いところなのである。

マスク着用すら反対した結果、分断が引き起こした犠牲者の増加である。この分断は、時にはバイオレンスにエスカレートするほど強固に反対する人たちが「公共医療」ではなく「個人の自由」という名の元、秋に入ったらワクチンが手に入るにもかかわらず、未接種率が最も高い南部の州を中心に医療崩壊が進むところまで至った。他の病気や心臓発作などの患者が相次いでパンク状態の病院の待合室で亡くなった。

以前のコラムで紹介した通り、支持政党によって人々の情報ソースがかなり異なり、現在の共和党寄りの人の多くはFox Newsを主な情報源とすることが多い。このFox Newsは陰謀説を説くことで視聴率を稼いでいる側面があり、下記のような項目を出す。

下記のセグメントのタイトルが「マスク着用の裏の真実」であり、「あなたに語られないこと」という、政府の陰謀を伺わせる語り方である。

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Source: Fox News

下記のものは、「マスクに付着していた11の危険な病原体」というものをリストアップし、マスク着用がいかに危険なのかを訴えている。

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Source: Fox News

ここで疑問に思われるかもしれないが、ここまでアンチ・マスクやアンチ・ワクチンのスタンスをとってわざわざ支持層内でのコロナ感染や死者数増加を招くのが効果的な戦略なのか、ということである。これは推測だが、これらの価値観を持つ人たちに対し「我々は政府からも攻撃を受けている。信じられるのは自分たちと、自分たちの価値観を共有した人たちのみである」という心情を促し、支持者たちの危機感を煽ることで結束を強め、選挙での投票率を引き揚げて絶対に民主党寄りにならないようにする戦略ではないかと推測する。この場合、残念ながら分断は埋まらず、コロナ対策の大きな足かせとなってしまう。

大統領選の選挙結果が不正だったという「政治戦略」に走った共和党

これまでのコラムで幾度かデータを用いて述べてきたが、現在の共和党は、昔から日本の保守のカウンターパートとしての自民党とも共鳴制が高かった旧来の共和党とは別物であると考えた方が良い。支持層の所得、教育水準、価値観や世界観はもはや日本の多くの人からはかけ離れているのだ。米国国内でも過半数は取れないが、選挙制度の様々なマイノリティーの声や票を重視する側面や、ルールとインプリメンテーションの隙を突いた選挙権の弾圧を使って過半数が取れなくても大きな影響力を得ることに多大なエネルギーを費やしてきた。

その大きな柱の一つが「大統領選は不正だった」という共和党の「政治戦略」である。

議会議事堂制圧直後の16日から7日の早朝まで行われた議会では選挙人団の結果を承認しないと粘った共和党議員が147名に上り、制圧事件後に承認する方に替わった議員はわずか4人だった。[16]もちろん、全員共和党員で、前代未聞である。

その後、5月に議会が成立させようとした独立調査委員会を作る法案が上院では、共和党議員が牛歩に持ち込んで不成立となった。これは2001911日の同時多発テロ事件を調査した委員会がモデルで、コミッショナーには民主党、共和党それぞれ5人ずつ置くという構想で、コミッショナーは罰則付召喚令状を出すことができ、民主党と共和党それぞれの副議長が招集する人を承認するというものだった。下院は252-175票で通ったが、上院では54-35票で成立に必要な60票には届かなかったのである。反対票は全員共和党員だった。[17]

このように、様々な制度によって過半数を取得していても、強固な反対意見を持つ少数勢力によって成立できないことが数多くあるのである。これは少数のグループを守るという意図で設計されているわけだが、分断を深めるという作戦にも使用できる。

この他に、例えばカリフォルニアは9月に州知事のリコール選挙が行われた。リコール選挙とは、現職の知事を任期終了前に解任する直接選挙のことで、カリフォルニアは1911年にリコール制度を導入した。現在、米国では19の州がリコール選挙制度を設けている。カリフォルニアは米国国内で最もリコール選挙を開催する敷居が低く、「前回知事選の票数の12%の署名」さえあればリコール選挙は成立する。このため、カリフォルニは実に179回ものリコール選挙を行なっている。この中で成立したのは一度だけで、2003年に民主党のグレー・デービス知事がリコールされて当時共和党の俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏が当選した。

ここでリコール選挙の細かいルールが問題になってくる。リコール選挙で「現職知事をリコールする」という質問に対して50%以上の投票者が「イエス」と答えると、得票率が最も高い人が知事に選ばれる。そのため、現職ではない立候補者が複数人、それぞれ物凄く低い数の票を獲得しても当選してしまうのである。例えばリコールが成立した場合、15%程度の得票率の人が当選しうるので、相当少数の人の意向で政権が取れてしまう可能性もある。

これはここしばらく米国を見る上のテーマで、どこまで少数の票で政権全体を取ることが可能で、これは民主主義としてフェアなのかどうか、という問いに繋がる。決して「民主主義=多数決」という簡単なものでは無いことは本シリーズを読んでくださっている人には十二分に伝わっているだろう。

米国がまだ世界経済のトップで、世界政治の上でも影響力が多大で、日本は米国との国防協定関係にあるので、「どの米国の少数派がどのようにして米国の政治と政策全体を動かすか」は他人事では無い。

しかも政治学的な原理で、大企業の社内制度にも当てはまる力学には「ルールを後で変える方が、ルールを最初に作ることに比べて政治的な権力を必要とする」ものがある。カリフォルニアのケースはまさしくこの通りで、1911年以降のリコール制度のハードルを上げるための法改正は、リコールを好む現在の共和党の支持がなければ成立できない。

というわけでカリフォルニアのリコール選挙は現在の米国の分断を象徴している。

リコールに賛成した地域と大統領選のトランプ支持の地域を地図で見比べると非常にわかりやすい。都市部では無い内陸の方が支持しているのだ。リコール選挙のコストは276ミリオンドルから450ミリオンドルとも推定され、[18]州知事はコロナ対策や他の案件に比べてリコール選挙のための活動にエネルギーと時間を費やしたため、これは大きな無駄であり、機会損失も大きい。特に大きな政策の方向転換をしていないのにこのようなリコール選挙を行うのは、定期的に行われる選挙まで待たずに現政権を邪魔する政治的な戦い方ともいえる。

左の地図がカウンティー別のリコール選挙の投票結果で、右の地図がカウンティー別の2020年の大統領選の結果であり、リコールと支持とトランプ支持の地域がほぼ完全に一致している。

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Source: California Recall Election Results: Live Map - The New York Times (nytimes.com)

2020 United States presidential election in California - Wikipedia

このように、今後、米国での分断は埋まるどころか、こうした政治戦略によって深まる一方であり、コロナ対応や2022年に行われる議会の中間選挙で色々な混乱を招きそうである。

次のコラムでも述べるが、こんな状況でもシリコンバレーでは次々に新しい価値が生まれている。オミクロン株への水際対応として鎖国状態に入った日本からは現状が把握しにくくなっており、気付いたら新しいディスラプションが黒船のようにやってくる可能性もあり、外の状況を国内のみの情報ソースに頼らずに集めることが大事である。


[1] https://www.almanacnews.com/news/2021/08/31/nearly-all-bay-area-counties-outpace-state-on-covid-19-vaccination-rates

[2] https://www.npr.org/2021/09/01/1033293779/texas-school-system-closes-teachers-die-covid-waco

[3] https://www.npr.org/2021/09/01/1033293779/texas-school-system-closes-teachers-die-covid-waco

[4] C D C data via Google

[5] https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/health/covid-vaccine-states-distribution-doses/

[6] https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/health/covid-vaccine-states-distribution-doses/

[7] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[8] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[9] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[10] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[11] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[12] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[13] https://www.washingtonpost.com/2020/national/coronavirus-us-cases-deaths/

[14] https://www.dropbox.com/s/59u6j602o8t2n3h/Screen%20Shot%202021-12-09%20at%209.44.18%20AM.png?dl=0

[15] https://www.facinghistory.org/resource-library/statistics-civil-war

John W. Chambers, II, ed. in chief, The Oxford Companion to American Military History. (Oxford University Press, 1999,

https://www.archives.gov/research/military/vietnam-war/casualty-statistics

[16] https://www.nytimes.com/2021/01/07/us/politics/republicans-against-certification.html

[17] https://www.npr.org/2021/05/28/1000524897/senate-republicans-block-plan-for-independent-commission-on-jan-6-capitol-riot

[18] https://www.nytimes.com/2021/09/15/us/calfornia-recall-election-cost-money.html


<CIGS International Research Fellow 櫛田健児 シリーズ連載>

米国コロナ最前線と合衆国の本質
(1) 残念ながら日本にとって他人事ではない、パンデミックを通して明らかにするアメリカの構造と力学(2020年6月9日公開)
(2) 米国のデモや暴動の裏にある分断 複数の社会ロジック(2020年6月11日公開)
(3) 連邦政府vs州の権力争いの今と歴史背景:合衆国は「大いなる実験」の視座(2020年6月25日公開)
(4) アメリカにおける複数の「国」とも言える文化圏の共存と闘争:合衆国の歴史背景を踏まえて(2020年7月1日公開)
(5) メディアが拍車をかける「全く異なる事実認識」:アメリカのメディア統合による政治経済と大統領支持地域のディープストーリー(2020年7月8日公開)
(6) コロナを取り巻く情報の分断:日本には伝わっていない独立記念日前後のニュースの詳細および事実認識の分断の上に成り立つ政治戦略と企業戦略(2020年7月22日公開)
(7) 「国の存続」と「国内発展」のロジックにみる数々の妥協と黒人の犠牲(2020年7月29日公開)
(8) Black Lives Matterの裏にある黒人社会の驚くべき格差を示す様々な角度からのデータ、証言、そしてフロイド氏殺害の詳細を紹介(2020年8月7日公開)
(9) 投票弾圧の歴史の政治力学(2020年9月3日公開)
(10)AIの劇的な進展と政治利用の恐怖(2020年10月1日公開)
(11)大統領選直前に当たり、日本にはあまり伝わっていない投票権に関する動きとその裏にある合衆国の本質的な力学(2020年11月2日公開)
(12)日本に伝えたい選挙後の分析、近況と本質的な力学(2020年11月20日公開)
(13)深刻化するコロナ、拡散する陰謀説とその裏にあるソーシャルメディアの本質(上)(2021年1月6日公開)
(緊急コラム/14)米国連邦議会議事堂制圧事件の衝撃と合衆国の本質:これまでのコラムの要素に基づく解説(2021年1月12日公開)
(15)埋まらない米国の分断と分断を深める政治戦略:コロナ対策の大きな妨げ(2021年12月17日公開)
*続編は順次、近日公開の予定