コラム  国際交流  2020.11.20

日本に伝えたい選挙後の分析、近況と本質的な力学|米国コロナ最前線と合衆国の本質(12)

国際政治・外交 経済政策 米国

<CIGS International Research Fellow 櫛田健児 シリーズ連載>

米国コロナ最前線と合衆国の本質
(1) 残念ながら日本にとって他人事ではない、パンデミックを通して明らかにするアメリカの構造と力学(2020年6月9日公開)
(2) 米国のデモや暴動の裏にある分断 複数の社会ロジック(2020年6月11日公開)
(3) 連邦政府vs州の権力争いの今と歴史背景:合衆国は「大いなる実験」の視座(2020年6月25日公開)
(4) アメリカにおける複数の「国」とも言える文化圏の共存と闘争:合衆国の歴史背景を踏まえて(2020年7月1日公開)
(5) メディアが拍車をかける「全く異なる事実認識」:アメリカのメディア統合による政治経済と大統領支持地域のディープストーリー(2020年7月8日公開)
(6) コロナを取り巻く情報の分断:日本には伝わっていない独立記念日前後のニュースの詳細および事実認識の分断の上に成り立つ政治戦略と企業戦略(2020年7月22日公開)
(7) 「国の存続」と「国内発展」のロジックにみる数々の妥協と黒人の犠牲(2020年7月29日公開)
(8) Black Lives Matterの裏にある黒人社会の驚くべき格差を示す様々な角度からのデータ、証言、そしてフロイド氏殺害の詳細を紹介(2020年8月7日公開)
(9)投票弾圧の歴史の政治力学(2020年9月3日公開)
(10)AIの劇的な進展と政治利用の恐怖(2020年10月1日公開)
(11)大統領選直前に当たり、日本にはあまり伝わっていない投票権に関する動きとその裏にある合衆国の本質的な力学(2020年11月2日公開)
(12)日本に伝えたい選挙後の分析、近況と本質的な力学(2020年11月20日公開)
(13)深刻化するコロナ、拡散する陰謀説とその裏にあるソーシャルメディアの本質(上)(2021年1月6日公開)
(緊急コラム)米国連邦議会議事堂制圧事件の衝撃と合衆国の本質:これまでのコラムの要素に基づく解説(2021年1月12日公開)
*続編は順次、近日公開の予定


大統領選挙後、アメリカのコロナ感染は最悪な状況に突入

大統領選後、アメリカのコロナ感染状況がワースト記録を数多く塗り替えてしまった。11月10日には新たに15万人が感染し、11月初めに比べて二週間で感染者が全国で7割増となった。一週間で378人に一人がコロナに感染した事になる。ファイザーが効果がかなり期待できる特効薬ができそうだと発表したのと同じ週である1。 11月13日、ハワイ州以外の49の州全てがホットスポットの定義に到達してしまった。過去14日で件数が5%以上増加、毎日の新規件数が100万人に対して100以上といった項目を含む定義である。選挙結果を間違えてしまったかのように見えるが、コロナホットスポットを示す地図が真っ赤に染まった2

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Source: https://foreignpolicy.com/2020/11/13/us-states-covid-coronavirus-hot-spot-pandemic-catastrophe/

ウイスコンシン州では連邦政府のDepartment of Health Servicesが新たな感染度合いの高いカテゴリーを作らなくてはならない状態となった。それまでの最高(最悪)値だった「Very high」は過去二週間に10万人中350人という感染者割合が定義だったが、全てのカウンティ(郡)でその倍以上になってしまった。最も低いカウンティが10万人中770人だった。そこで新たに10万人中1000人という「Critically high」というカテゴリーを作ったのだが、それでもそれを下回るカウンティは全72のうち7つしかなかった3。問題は感染者数の記録的な増加だけではなく、全国の入院患者数もこれまでにない増加が見られる。もはや多くの地域では医療崩壊状態で、「コロナ以外の心臓発作や交通事故などで集中治療室が必要な患者は行くところがない」と焦る医療関係者が警鐘を鳴らしている。

ホワイトハウスでも大統領参謀長官がコロナに感染したが、これは選挙当日のホワイトハウスでの観戦会が例の如くマスク無しの3密の集会だったため、感染クラスターになったと見られている。また、大統領や要人の護衛にあたるシークレットサービスも130人以上が隔離されていると報道された。大統領が投票日前に1日に最高で5箇所も飛行機などで周り、大勢の人がマスクを着用しない密集した集会での大規模な演説に付いて護衛していたこともあり、非常に感染リスクが高い行動を共にしていたためである4。 アラスカの下院議員で、コロナをバカにしていた議員も感染した5。 ビリオネアでトランプ大統領に最も多く政治献金を行っていた人たちのリストに含まれ、コロナの深刻さを公に軽視していた実業家夫婦も感染した6。 大統領参謀長官があろうことか10月下旬に「我々はパンデミックをコントロールしない(できない)」とCNNで語ってから間もなく、このような状況になってしまった7

このタイミングでの週末、大統領は就任後300回目以上となるゴルフに出かけ、 選挙後10日経過してもなお自分の勝利を訴えるツイートを繰り返した8


ポスト大統領選、選挙結果で新しい流れも明らかに

大統領選が終わり、懸念していた当日の投票所での大混乱は起こらなかった。これは素直にグッドニュースだった。前回の世論調査では、共和党支持者の大多数は投票日当日に投票し、民主党支持者の過半数は事前投票を行うと答えていたので、当日に混乱が起こると共和党にとって不利になるので、混乱を起こさなかったとも解釈できる。

多くの人が驚くほどのトランプ大統領を支持したことにより、著者が予想していた以上のギリギリの接戦となった。これを書いている時点で既に正式な結果は出ているが、依然としてトランプ大統領は敗戦を認めていない。予想通り、当日開票で有利だったトランプ氏に対して、事前投票と郵便投票で大きく得票したバイデン氏が、複数の州であくまで見た目は後日逆転するような展開となった。もちろん逆転に見えただけで、最初から投票結果は変わってはいない。

これに対し、トランプ大統領は以前から発言していた通り、自分にとって不利な選挙結果はあくまで不正だとの見方を強め、11月3日の選挙日の夜、日付が変わった午前2時過ぎに記者会見を開き、「私は勝った」と宣言した。複数の州でまだ開票が終わっていないにもかかわらず、自らが勝利したと宣言し、大きな不正が行われているとアピールし、集計作業を終わらせるべきだと主張した。

ここまでは政局の話だが、ここからいくつもの本質的な力学が見えてくる。

まずは有権者たちの情報源がどこなのかによって、彼らが見える「事実」「真実」が大きく異なるという点である。これは、以前のメディアに関するコラムで述べてきた通りで、SNSを取り上る予定の次のコラムでも述べるが、トランプ支持者の行動に大きく影響している。

特に興味深かったのは、投票日翌日にトランプ大統領がその時点で得票を上回っていたミシガン州では「票を数えるのをやめろ!」という大統領のTwitterでの発言通り、集計所の前で「票の集計を止めろ!」と叫んでいた集会があったのと同時に、アリゾナ州ではトランプ氏がその時点では得票を下回っていたので、「票を数えろ!」と真逆のことを叫んでいるデモもあったことである9。 「投票日後に集計される票は無効だ!」と大統領はTwitterで大文字を使って発言したが、本当に集計を止めたら、自らの方が得票数も州の選挙人数も少なくなり負けてしまうので、ロジカルに考えたらどう頭を捻ってもおかしい。しかし、そこでバカにしてしまうと危険なのである。トランプ支持者は本当に選挙を不正に民主党に奪われているという感情に煽られているのだ。集計に関するデモは幸いなことに武装集団によるものではなかったが、今後そのような人たちが「合衆国を救う」と心の底から考えて立ち上がる可能性はまだある。そして、客観的に見て大事なことは、彼らの世界観と価値観はどこから来るもので、どうしてそのように考えているのかということである。

著者も含めて多くの人が驚いたのは、やはりトランプ支持者の数と熱意だが、いくつかの力学を復習しながら新しい領域も紹介したい。


「数字は嘘をつかない」というウソとCritical Thinkingの必要性

これらのほとんどは、私が率いる企業研修でも頻繁に行っている「Critical thinking」のスキルが重要であるということを示している。Critical thinking(クリティカル・シンキング)は日本語で「批判的思考」と訳されることがあるが、この訳だと多少ネガティブなニュアンスが含まれているような気がする。むしろ「分析的思考」の方が当てははまるだろう。何事も「批判」すれば良いというものではなく、その裏にある前提条件やコンテクスト、それに対する良い質問や疑問を考えながら、常に建設的に分析しながら考えていくことである。アメリカの大学では自立した思考を教えるという意味で、critical thinkingというスキルを身につけるよう努力している。

「数字は嘘をつかない」というのはもちろん嘘で、コンテクストが足りないと事実であっても、そこに述べられている事実と捉えたい事実が異なることが多く、あえてミスリードする方向でデータを並べることはいくらでもできる。経営においてデータを活用するといっても、どの数字が本当に意味あるのか見極めなくてはならず、数字だけではわからないことが多い。今流行っているデジタルトランスフォメーション(DX)の話と繋がるが、それはまた別の機会に述べたい。

要するに有権者は、その情報が本当なのか嘘なのかということだけではなく、事実である数字やデータが実際には何を意味するのかも判断しなくてはならない。それには、ある程度のCritical thinkingが必要である。あえて教育水準を低く保つことで、このようなcritical thinkingをあまりさせず、自らの発言を鵜呑みしてくれる有権者を作り出すとことも一つの政治戦略として成り立っている。

今回の選挙では、大統領以外にも上院と下院の議員、州により様々な政策が決定された。そこで一つ興味深かったのは、トランプ支持者が反対しそうな候補者や政策がトランプ氏が勝った州でも数多く通ったということである。


マイノリティー、LGBT当選者の伸び

まず、数多くのマイノリティーが当選し、その多くは前例が無いものだった。アメリカの多様性への対応が進んでいる証拠にも見える。

次に、過去最高数の先住民が当選した。6人である。これでは少ないという見方もできるが、このうち二人は2018年に初めて当選し、女性の先住民として初の下院議員となった。そこに今回の選挙で新たに4人が加わり、下院で6人となった。今までいかに先住民が政治の世界に進出できていなかったかが分かる10

更に、アメリカで公に初のゲイの黒人下院議員が誕生した。ニューヨーク州からである11

そして、デラウエア州の上院議員にはアメリカ初のトランスジェンダー女性の議員が当選した。年齢は30歳で、共和党の競争相手を73%対27%の得票率で圧勝した。投票日に勝利が決まり、その夜に彼女は「今夜、我々の民主主義がLGBTQの若者を受け入れる器があることを証明した」と語った。彼女は2012年にオバマ政権下のホワイトハウスでインターンを経験しており、ホワイトハウスで初のトランスジェンダーの人材となっていた12

ネバダ州では、州憲法で同性結婚を権利として守る改定が可決された。連邦政府レベルでは違法とみなされても、州では可能だという措置だ。しかし、連邦最高裁判所の新しい判事は非常に保守的なバックグランドを持っており、アメリカの保守派は同性結婚を認めないという価値観を持っているので、連邦最高裁判所で争われると州憲法では決められないという判決となることもあり得る。したがって、争いの場は州レベルの民意から法定の場に移る可能性があり、こういった価値観の違いが連邦最高裁所の新判事を前代未聞の早さで決定する動きに繋がったのである13

同時に、今後心配な人も当選した。

ツイッターやFacebookが投稿を禁止した、陰謀説を説くQ Anonのフォロワーが当選した。ジョージア州議会である。Q Anonは様々な陰謀説を説くムーブメントで、その説によるとアメリカ政府はディープステートという人たちが実権を握っており、彼らは悪魔を崇拝し、児童の人身売買などを行っているグループだという。FacebookなどのSNSからは、このQ Anon関連の動画や投稿、グループなどが削除されている。しかし、その陰謀説はネットの様々なところに根強く残り、トランプ大統領もこのQ Anonを支持しているようにも取れる発言をしてきた14。 日本のメディアのNewspicks(ニューズピックス)の記者が、Q Anonムーブメントにおいて中心的な本を書いた人物の取材に成功している15

不思議な当選者といえば、コロナ件数が爆発的に増えているノースダコタ州で立候補し、投票日前にコロナで亡くなった候補者も当選してしまった。共和党のトランプ支持派だった。本人が亡くなってしまったので、勝利した共和党から別の人が任命されて議員となる16

では、ここで改めて問うべきなのは、今回の選挙は、アメリカの選挙制度が上手く働いたから僅差だったのか、それとも上手く働かなかったからここまで僅差だったのかという点である。以前、紹介した選挙人団などの話しも交えて少し検証したい。


選挙人団はやはり都市部ではなく、地方の政治力を増幅させている

非常にわかりやすい地図やdata visualizationが出てきたので紹介したい。

まず、普通のアメリカ地図に共和党、民主党のどちらが勝ったかを記載すると面積では共和党が圧倒的である。

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Source: 11月11日時点 Bing検索

しかし、これはアメリカの極端な都市部への人口の集中を捉えていない。

そこで、選挙人団の数を州ごとに大きさで示した可変地図を紹介したい (ネバダ州、ペンシルバニア州、ノースカロライナ州、ジョージア、アラスカ州の集計結果が出る前の時点での地図だが、大きさは変わらない)。

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Source: 米国連邦政府統計局のデータをもとにネットユーザー/u/guspolly3が作成
https://i.redd.it/ellvw0lsdgx51.png

最も分かりやすい図はフランスのLe Mondeが作ったものだろう。

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Source: https://www.lemonde.fr/international/article/2020/11/04/elections-americaines-2020-suivez-la-carte-des-resultats-en-direct_6058394_3210.html

選挙人団の仕組みは、以前紹介した通り、きっちり人口に比例した数ではない。合計538の席があるので、最新の人口から割ると42.5万人に1席という計算になる。この計算によると、各州がどれだけ人口に比べて実際の席が多いか少ないかを示すと下図のようになる。

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Source: https://usafacts.org/visualizations/electoral-college-states-representation/
(マルは著者が記入)

人口が最も多いカリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州、ニューヨーク州は人口に対して席の数が少ない。ニューヨークは3席で、カリフォルニア州は10席も少ない。人口に比べて席がかなり多いのは、最も面積が小さい州であるロードアイランド州に加えて、広大な土地の割りに人口が少ないワイオミング州、ノースダコタ州、ウエストバージニア州、アーカンソー州、サウスダコタ州、ニューメキシコ州などが並んでいる。共和党の堅い支持基盤である州とかなり重なる。

人口ではなくて有権者でみると、そこまで極端ではないが似たような図になる。

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Source: https://usafacts.org/visualizations/electoral-college-states-representation/

これ程までに人口に比例していなくて良いのだろうか?

Winner takes allという選挙人団の制度は、ここ最近の大統領選挙結果に大きな影響を及ぼしている。以前のコラムでも述べた通り、都市部を圧倒的な得票数で制するよりも、多くの地方のエリアでギリギリ勝利した方が、遥に少ない得票数で選挙人団の票を取ることができるのである。これを州単位のwinner takes allではなく、得票数に比例した選挙人の得票とした場合、下記のような図になる。

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Source: https://i.redd.it/by0kkga8nhx51.png
ネットユーザーu/bladey25作成。New York Timesの選挙結果(11月3日時点)、Wikipediaのデータ使用

この集計方法の方がフェアなのだろうか?そもそも何が(誰にとって)フェアなのか?この集計方法だと、前回のようにトランプ大統領が国民投票の得票数を下回りながら大統領選に勝利するという力学は起こり難くなる。

下記の人口構成を忘れてはならない。ロサンゼルスカウンティ(ピンク色)という一つの郡の人口は、緑色の面積914カウンティ合計の人口と同じなのである。選挙人団での得票数を考えると、1票の格差はとてつもなく大きい。

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Source: https://imgur.com/a/oxv8Q6D
ネットユーザーu/Lumett作成 国勢調査、census.govのデータ使用


コロナ感染者数の急増地域とトランプ支持の相関関係

場合によっては驚きだったのか、あるいは見方によっては想定内のことだったのか、コロナ感染者数が劇的に多い地域での根強いトランプ支持である。カウンティ単位で見ると、コロナ感染者数が高い地域とトランプ支持の強い地域との相関関係が見える17

それでは、因果関係はどうだろうか?科学的には証明できていないので推測レベルだが、トランプ氏の発言を主な情報源としている人たちは、コロナはあまり大したことなく、感染者数や死者数も人為的な情報操作で高く見積もられたものであり、トランプ支持者の世界観を攻撃するために過大に取り上げられているというメッセージを真実として受け止め、感染予防のためマスク着用などせずどんどん感染しているという力学である。実際にトランプ氏は選挙戦直前の三日間に14もの集会を開いて自ら登壇した18。 それらの会場は屋外だったものの、ほとんどの参加者はマスク無しで密集しており、この最後の数日間だけで数万人以上もの人が集会に参加したと見られている。大統領が広めている価値観に沿って行動すると、メガクラスターが発生するし、日々の行動でもコロナを過小評価するのだ。実際に大統領は入院後の回復も早かったので、「やはり大したこと無いじゃないか」と考えてしまうような人たちなのかもしれない。実際には、大統領には普通の人では到底受けられないような病院施設や医師団が付き、実験中の先端治療まで施されていたのである(ちなみに、大統領自らが推薦していたマラリアに対して効力があってもコロナに対して有効でない薬は、その効果が科学的に否定された後でも大統領は執拗に勧めており、5月には自らも投与していたと明かした19が、その薬の話は全く出なかった)。

因果関係が逆であるという仮説も立てられる。トランプ支持者のインタビューを聞くと、特に人口密度が低い地方や低所得層の白人の支持者は、共通して「タフ」なことは良いことだという価値観を持っていることに気づく。例えば、農業や工場で働いている場合、危険を伴う仕事なので、リスクに対する考え方が異なる。作業中に大怪我を追っても、そのまま自分で病院に運転していくようなメンタリティーである。週末はライフルや弓矢で鹿や森に住む他の動物の狩りを趣味とする人や、家に何丁もの拳銃、しかも大きめのセミオートの兵器を持っている人は、根本的に何がリスクなのかということやどのようなリスクを受け入れるかという価値観が、都会や郊外に住んでいる多くのオフィスワーカーとは異なるのかもしれない。そのような人たちは、そもそもそのような価値観を持っているからこそ、大統領が「これはただの風邪だ」と言ったり、マスク姿の下院議長ナンシー・ペロシー氏やバイデン氏を馬鹿にして臆病であるというニュアンスで会場を沸かせるにはちょうど良いわけである。

もちろん、トランプ大統領を支持するからコロナに罹りやすいということと、コロナをさほどリスクと考えないような人たちがトランプ大統領の支持者になりやすいということの両方の力学により、互いを強めていくフィードバックのループになっているのが現実だろう。

そう考えると、このような結果は驚くべきことではないが、複数存在する社会と価値観の分断を深めているのは間違いない。そして、コロナ感染の爆発的な伸びは、トランプ大統領の根強い支持層が多い地域から全国に広まってしまう。


郵便局はやはりスローダウンしていた

ガーディアン紙がテストしたところ、やはりアメリカの郵便局の配達は遅くなっていた。150通ほどの郵便物を郵便投票と同様のルートで送った際、都市部のデトロイトでは3割強が3日以上遅れたという結果となった。

郵便局が公開しているデータによると、デトロイトでは一時期約5割もの郵便物に遅れが生じた。郵政長官のデジョイ氏が政策変更の中止を命令する直前にガクッと落ちたのが分かる。

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Source: https://www.theguardian.com/us-news/2020/oct/31/us-election-mail-delays-swing-states

本コラムを書いている時点では、到着が遅すぎて投票としてカウントされなかった票数がどのくらいの規模だったのかは分かっていない。しかし、選挙日当日から数日経ってからバイデン氏がトランプ大統領を大きく引き放した州がいくつもあるので、郵便配達がスローダウンしていなかったら更に差は開いていたかもしれない。


バイデン支持の地域がアメリカのGDPの7割を創出

下記の図も興味深い。ブルッキングス研究所によると、大統領選でバイデン氏に投票したカウンティの数は500以下だが、トランプ支持の2400以上のカウンティに比べてアメリカのGDPへの貢献度合いが圧倒的に高く、7割にも達しているのである。少ない数の都市部が最もGDPに貢献し民主党に投票する一方で、GDPにさほど貢献していない数多くの地方のエリアでの投票との対比が際立つ。これは、都会と地方の投票パターンとその裏にある情報の流れ、世界観・価値観などの分断を表している。

カウンティ別のGDP貢献度合(2018年時点)と2020年の選挙結果

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Source: https://www.brookings.edu/blog/the-avenue/2020/11/09/biden-voting-counties-equal-70-of-americas-economy-what-does-this-mean-for-the-nations-political-economic-divide/

興味深いことに、共和党のリーダーは何年も前から、共和党支持の州(赤)が民主党支持の州(青)の予算を補填していると幾度となくアピールしている。「我々が必死に働いて稼いでいる分は都市部の生活補助などに使われ、ろくに働かない人たちが楽して生活している」という感情を煽るためである。そもそも上記のGDPはどこから作り出されているのかという情報については、以前にも紹介した共和党支持者が圧倒的に視聴しているFox Newsではもちろん紹介されない。AP通信のファクトチェックによると、様々な切り口でみても、実態は青の州が赤の州を補填しているという構図なのである20。 この「異なる真実」の情報空間はSNSとも繋がっているので、次のコラムで掘り下げて紹介したい。


教育レベル別のバイデン、トランプ支持

下図は、大学を卒業した投票者が住んでいる割合を支持政党別にカウンティ単位で分けて示したものである。簡単な回帰分析で線を引いているが、大学卒業率と支持政党がかなり綺麗な相関関係となっている。地域として教育水準が高い方が民主党で、低い方が共和党でトランプ支持となっていることが分かる。

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Source: https://i.redd.it/v46ajhc78ty51.png 製作者ユーザー名:u/heresacorrection
カウンティー単位の選挙結果データ元:https://www.kaggle.com/unanimad/us-election-2020,
カウンティー単位の教育水準データ元:US Department of Agriculture Economic Research Service, https://www.ers.usda.gov/data-products/county-level-data-sets/download-data/


農業地域への補助金と票の取引

基本的な政治学入門の授業で教わることの一つに、当選したリーダーはその支持基盤に対して恩恵をもたらすということがある。もちろん旧来の米国も長期スパンで見た日本も例外ではないが、トランプ政権の後半ではこの動きが極端なものとなっていた。

中国との対立がエスカレートして農産物や工業製品に輸入関税をかけたため報復に会い、アメリカの農産品が中国の関税の対象となり輸出が減った。そこで、経済的ダメージを軽減するため、トランプ政権は農業に対する補填を大幅に増やしたのである。

2018年にトランプ大統領を支持したカウンティとそれ以外を比べると、支持したカウンティに210億ドル、支持しなかったカウンティに21億ドルを、アメリカ合衆国農務省(United States Department of Agriculture)のMarket Facilitation Programという制度により支給した。その結果、2020年の合計農業収入の約3分の1が政府からの直接的な補填で構成されることとなり、劇的な増加がうかがえる。しかも、大統領は中国に払わせたと主張していたが、これはファクトチェックとしては嘘であり、関税の仕組み上アメリカの消費者が払っていることになる21

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Source: https://www.washingtonpost.com/politics/2020/10/20/trumps-farmer-bailout-has-given-21-billion-red-counties-21-billion-blue-ones/

これは相関関係であり、因果関係ではないと主張ができるかもしれない。農業は経済にとって重要なので、中国との貿易摩擦が深刻化するにつれてダメージを軽減する策を取ることはあり得る。もっとも共和党が主張する「小さな政府」のイデオロギーに反するが、そこは良いとしても、ここからさらにトランプ政権は極端な行動に走った。

農務省のトップが演説でトランプ政権に投票したおかげで多額の補助金が農業に割り当てられたと述べ、その演説には2020年もトランプ大統領に投票するように促す内容も含まれていた。これは政府の役職を政治利用することを禁止するHatch Actに反するものだと法務省の特別参与(特別検察官とも訳される)が公言した22。 このHatch Actは直接の罰則を伴わないので、これまでの政権はこの法律に触れないように気を付けてきたが、トランプ政権は無視しても罰則が無いということで、平気でホワイトハウスを選挙活動などに使い続けてきた。


選挙結果と選挙制度自体への不信感、トランプ支持者は想定内に極端な過半数

最後に、選挙結果だけではなく選挙制度に関する考えについても、The EconomistとYouGovによる世論調査での結果では、社会に深刻な分断があることを表している。選挙自体の混乱を避けられたのは嬉しい限りだが、今後の統治への不安が残る。同時に、敗者は消えるわけではないので、今後の政権運営と制度変更への影響もあるだろう。

ここまで紹介してきたメディアの分断や世界観の分断を踏まえると、想定内とも言えるがやはりショッキングな選挙結果であり、全ての州の集計が終わって敗退が確実となった選挙十日後になっても、一向に負けを認めず不正を訴えているトランプ大統領の姿勢は支持者に対して大きな影響を与えているのは間違いないだろう。

まず、トランプ支持者のなんと86%が「バイデン氏は正当に選挙に勝った」ということに反対意見を示している。不当に勝ったと考えているのである。そして、トランプ氏は負けを認めてバイデン氏の勝利を容認すべきではないという意見のトランプ支持者は4分の3以上に上っている。

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Source: https://www.washingtonpost.com/politics/2020/11/11/more-than-8-in-10-trump-voters-think-bidens-win-is-not-legitimate/?utm_source=reddit.com

また、トランプ支持者の約85%が今回の選挙結果を法廷で争うべきだと考えており、その結果で選挙結果が覆されるだろうと考えているトランプ支持者は6割以上もいるのだ。

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これまでミシガン州、ネバダ州、ペンシルバニア州やアリゾナ州でトランプの選挙団体に携わる弁護士たちが訴訟を起こそうとしたが、あっさりと州の法廷に却下されている。不正が行われたという証拠が何一つないだけではなく、裁判官の「不正があったと主張しているのか?」という直接的な問いに対して、「不正があったと主張しているわけではない」と尻込む弁護士が複数いたことが確認されている23

次に、トランプ支持者の8割近くが今回の選挙で結果に影響が出るほどの不正が行われたと考えているという調査結果である。これは非常に深刻で、アメリカの選挙制度そのものを疑っていることになり、当選した相手に対する敵対心よりも深刻である。自らの候補者が勝てば選挙制度には問題がなく、負けた時のみに問題があるという考えは、民主主義そのものが本当に機能しているのかという信用に絡んでくる。アメリカはその憲法と民主主義制度によって、世界一の経済を維持できており、世界中にある軍事拠点数もダントツに多いという考えが成立し難くなる。

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この調査結果で二番目に心配なのは、バイデン支持者の6割以上の人ですら不正があっただろうと考えていることである。結果に影響するほどではないという回答だが、それでも非常に多い。

最後は、集計のやり直しに対する考えで、トランプ支持者の7割近くが再集計を行った方が選挙結果を信用できると答えている。そして、その次の質問が特に心配である。「我々はこの選挙の本当の結果を知ることは無いだろう」と答えているトランプ支持者が7割以上もいるのである。これは選挙制度に対する不信感が非常に強いことの現れである。同時に、このように考える人たちの情報・メディア環境も非常に気になるところである。そこで、次回のコラムはようやくSNSについて少し深掘りしたい。

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ちなみに、アメリカ合衆国国土安全保障省(United States Department of Homeland Security)は、今回の選挙は過去に比べると、外国からの直接的な介入による影響はほぼなかったと発表している24

11月15日、宇宙飛行士の野口聡一氏を乗せた民間宇宙企業SpaceXのクルードラゴンの打ち上げが成功した。前日、創業者でCEOのイーロン・マスク氏はコロナ感染の疑いで隔離中となった。1日4回、同じ機関で受けた検査のうち2回が陽性、2回が陰性となったが、本人は数日前から風邪の症状と微熱があったようである。

これらは、正に現在のアメリカを表している。再利用可能な新しく設計されたロケットで人類のフロンティアを推し進めると同時に、政治力学として国策がないコロナで自らの首を絞めている。

このコラムシリーズはそんな現状とその背景にある本質的な力学を紹介し続けており、まだ続く予定である。


1  https://www.npr.org/sections/health-shots/2020/11/13/934566781/the-pandemic-this-week-8-things-to-know-about-the-surge

2  https://foreignpolicy.com/2020/11/13/us-states-covid-coronavirus-hot-spot-pandemic-catastrophe/

3  https://www.nbc15.com/2020/11/12/covid-19-is-so-bad-in-wisconsin-dhs-needed-a-whole-new-category/

4 https://www.washingtonpost.com/politics/secret-service-coronavirus-outbreak/2020/11/13/610eebcc-2539-11eb-8672-c281c7a2c96e_story.html

5 https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-usa-congressman/alaska-congressman-who-ridiculed-coronavirus-now-says-he-has-covid-19-idUSKBN27T0BD?il=0&utm_source=reddit.com

6 https://www.theguardian.com/world/2020/nov/12/billionaire-trump-donors-covid-19-richard-liz-uihlein

7 https://www.cnn.com/2020/10/25/politics/mark-meadows-controlling-coronavirus-pandemic-cnntv/index.html

8 https://www.newsweek.com/trump-golf-300-sterling-1545846

9 https://www.businessinsider.com/videos-trump-protesters-michigan-arizona-vote-count-2020-11?utm_source=reddit.com

10 https://www.huffpost.com/entry/native-american-members-congress-2020_n_5fa2fb8cc5b6b35537e34fee

11 https://www.cbsnews.com/news/ritchie-torres-mondaire-jones-new-york-congress-first-openly-gay-black-man-congress/

12 https://abcnews.go.com/Politics/sarah-mcbride-makes-history-1st-transgender-state-senator/story?id=74006694

13 https://www.huffpost.com/entry/nevada-same-sex-marriage-state-constitution-amendment_n_5fa55efec5b623bfac4eb349

14 https://www.washingtonpost.com/nation/2020/11/04/marjorie-greene-qanon-georgia-congress-election/

15 https://newspicks.com/news/5328367/body/

16 https://www.washingtonpost.com/nation/2020/11/04/covid-candidate-north-dakota-election/

17 https://www.nature.com/articles/s41562-020-00977-7
https://www.huffpost.com/entry/trump-2020-election-covid-death-rates_n_5fa2e0fcc5b660630aeda7e0

18 https://thehill.com/homenews/administration/523595-trump-to-hold-14-rallies-in-final-three-days-of-campaign

19 https://www.foxnews.com/politics/trump-reveals-taking-hydroxychloroquine-coronavirus

20 https://apnews.com/article/2f83c72de1bd440d92cdbc0d3b6bc08c

21 https://www.washingtonpost.com/politics/2020/10/20/trumps-farmer-bailout-has-given-21-billion-red-counties-21-billion-blue-ones/

22 https://www.citizensforethics.org/wp-content/uploads/2020/10/HA-20-000394-Closure-Letter-to-CREW.pdf

23 https://time.com/5908505/trump-lawsuits-biden-wins/
https://lawandcrime.com/awkward/georgia-judge-throws-out-trump-campaign-lawsuit-that-produced-exactly-zero-evidence-of-fraud/

24 https://www.cnn.com/videos/politics/2020/11/13/dhs-election-most-secure-history-trump-biden-burnett-opening-ebof-vpx.cnn