その他  グローバルエコノミー  2024.06.10

【山下 in 東大】第6回「食料安全保障と農業政策」講義資料_2024

農業・ゲノム

6回目は、農業や食料についての国際規律を学びます。

第二次世界大戦後ガットが出来上がった経緯について説明します。同じように戦後経済の運営のため必要だとされたIMFと異なり、ガットはかわいそうな運命をたどりました。それはアメリカでは通商交渉の権限は議会にあり、議会がそれを国際機関に譲ることを嫌ったからでした。ガットやWTOの通商交渉でアメリカは重要な役割を果たしてきました。しかし、通商の面では、アメリカは特殊な国です。

ガットの最恵国待遇や内外無差別といった基本原則を学びます。これがWTOも貫く基本原則だからです。現在農業や食料政策を規律しているのは、ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の結果出来上がったWTO農業協定です。私は、この交渉、特にWTO農業協定の最終ドラフティング交渉に参加しました。今日本の関税に200%を超える高関税があるのは、同交渉の関税化というプロセスを経た結果です。これでできた米の輸入制度を説明します。

ガットやWTOは貿易の側面だけを規律しているようですが、国内の補助金や価格支持政策についても規律しています。いくら関税や輸出入の数量制限を規律しても、国内政策で農家に保護を与えれば、しり抜けになってしまうからです。

輸出制限について規律したWTO農業協定第12条があります。日本が提案した規定で、私もこの実現に努力しました。しかし、穀物の輸出国であるアメリカなどの先進国は輸出制限をしません。他方でインドのような国に輸出制限を止めろとは言えません。残念ながら、この規定は機能しないものとなっています。なぜでしょうか?

FTA(自由貿易協定または経済連携協定)について説明します。国際経済学からは、FTAは常に望ましいわけではありません。農産物に関しては、アメリカやオーストラリアなどとのFTAは望ましいのですが、これらほど競争力のない例えばメキシコとのFTAは必ずしも望ましいとはいえません。TPPを攻撃する研究者の中には、この違いが判らない人もいます。さらに、FTAの問題点とされる原産地規則のスパゲッティボウル効果について説明し、メガFTAになるとその問題が軽減されることを指摘します。

FTAの本質は差別です。TPPのような大きなFTAについては、入らなければ差別されるので、入ろうとするインセンティブが生じます。TPPから脱退したアメリカがTPP11の妥結であわてて日米の貿易協定を結ぼうとしたのは、日本の農産物市場で差別され、トランプ再選に不都合が生じることを恐れたためです。では、なぜトランプ政権は日本に対して米の市場開放を要求しなかったのでしょうか?日本の交渉成果でしょうか?

WTOが機能不全に陥っている中で、新しいルールを作る場としてTPPには大きな役割が期待されます。ここではWTO再生のための、PlanA PlanBPlanCを提示します。

教科書第8章を読んでください。より詳しく勉強したい人は、小著「TPPが日本農業を強くする」をお読みください。


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