コラム  国際交流  2025.09.19

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第197号 (2025年9月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

世界政治経済に関する最新情報に関し、酷暑の日本を訪れた海外の友人達と意見交換を楽しんだ。

酷暑の日本を訪れた海外の友人達と政治経済そして技術に関し情報交換を行う機会に恵まれた。この夏、筆者は出来るだけ外出を控え、殆どonlineの会合に絞っていた。だが、実際にface-to-faceの意見交換をしてみて、質量両面で情報交換の価値の差を感じている。

7月30日に米Fortune誌が発表した“Fortune Global 500”を巡って議論した。上位500社の企業数に関して、①2年連続して米国が首位を維持し、中国が数を減らした事や②日本は38社がGlobal 500になった事が議論の中心であった(PDF版の表1参照)。シンガポールの友人が「コロナ危機後、中国の“圧倒的破壊力(economic juggernaut)”が陰りを若干見せている。だが未だ健在だ。21世紀に入ってからは、中国が日本を圧倒しており、それがアジアにとって不安材料の一つだ」と語った。彼の“日本寄り”の言葉を嬉しく思ったものの、日本の相対的低迷は否定しがたい事実だ。日本企業の中で検討するトヨタ自動車も2021年を最後に“Best 10”から脱落してしまった(PDF版の表2参照)。

筆者は茂木友三郎キッコーマン名誉会長や岩田卓也岩田商会社長を同誌が取り上げた点を友人に伝えた。茂木氏が自らの経験に基づき、若き日本のビジネスパーソンに対して著した英語の“指南書(Tips for Being a Lifetime Challenger)”に触れ、そして表題(“Business beyond Borders”)の下で、長い歴史を持つ岩田商会の国際展開に触れている。友人が指南書をAmazonで購入したいが、「未だ購入不可能だ」と訴えてきた。筆者が調べたところ(恐らく原本である)『挑み続けるヒント』が4月に発売されており、筆者も間もなく入手出来ると思っている。

グローバル時代の新たな国際標準の主導権争いについて議論している。

8月後半に日本規格協会(JSA)の朝日弘理事長のオフィスを訪れて、今後の国際標準化に関する日本の戦略について議論させて頂いた。6月3日に政府が「新たな国際標準戦略」を公表したが、環境・エネルギーや防災、デジタル・AIや情報通信、更には介護・福祉や宇宙といった広範囲にわたる国際標準戦略がその中で記されている。周知の通り、現在、米中欧の間で、国際標準の主導権を巡る静かな争いが展開中である。こうした中、米国think tank (Center for Strategic and International Studies (CSIS))が、7月16日に小論(“The United States Needs a National Standards Strategy”)を公表し、また別のthink tank (American Enterprise Institute (AEI)とFoundation for American Innovation)の2人の研究者が8月12日付米Wall Street Journal紙に小論(“If the U.S. Doesn’t Set Global Tech Standards, China Will”)を掲載した(PDF版の2参照)。

弊所主催の6月2日のセミナー「AI・ロボットを実装した日本社会: ワァークプレイス・ウェルビーイングと生産性向上に向けた標準化戦略」では、朝日理事長に「日本の標準化戦略-世界標準を目指して-」と題してご講演をして頂いた(小誌6月号参照)。朝日理事長は7月16日に大阪の万博会場で開催された安全・健康・ウェルビーイングに関する会合(“International Standardization Forum for Safety, Health and Well-being”)で司会役を務められた。この会合で、国際標準化機構(ISO)のチョ・ソンファン(조성환)会長や国際電気標準会議(IEC)のジョー・コップス会長が約260名の聴衆に向かって「人と機械との間の協調安全(collaboration safety)」の国際標準化の重要性を語りかけた。

国際会議は7月16~19日にわたり数多くの会合が同時開催された会議であった。産業技術総合研究所の谷川民生ウェルビーイング実装研究センター長をはじめ日本の優秀な研究者や海外からの専門家達が登壇した。弊研究所は、大阪での会合の総括を10月10日、東京でセミナーとして開催する予定だ。国際標準化にご関心のある方に参加して頂きたいと考えている。尚、6月の会合に関しては次のwebsiteを参照されたい(https://cigs.canon/event/report/20250612_8963.html)。

8月は敗戦80周年。悲惨な戦争の記録に関して数多くの文献を読み、またそれらについて議論した。

8月6日、石破首相は平和記念式典で歌人の正田篠枝さんの歌「太き骨は先生ならむ / そのそばに / ちいさきあたまの骨 / あつまれり」に触れた。この歌をイェール大学のトリート名誉教授が英訳している(The large bones / Might be the teacher’s / Nearby are gathered / The smaller skulls)。

8月9日、筆者はルーズヴェルト大統領夫人であるエレノアさんが80年前の8月10日に公表した小論(“The Atomic Bombing of Nagasaki”)を読んでいた。彼女は原爆の恐ろしさを知っていたのだ。彼女は日米開戦直後の日系移民の強制収容に反対したが賛成を得られなかった。また1943年4月、強制収容所を訪問し、その3日後にはLos Angeles Times紙に、収容所の劣悪な生活環境と強制収容自体を批判する意見をインタビューの中で述べている。日米双方に彼女のような気高い道徳心と冷静な情勢判断力を具えた人が多ければ、日米開戦の悲劇は避けられたのでは?、などと空想に耽っていた。

80年前の8月7日、物理学者の仁科芳雄先生は若き日の玉木英彦東大名誉教授に向け「米英の研究者は日本の研究者…に対して大勝利を得た」と記した手紙を送った。また帝国海軍の三井再男大佐は8月7日からの現地調査を基に8日には「八月九日広島空襲被害状況報告概要」を作成し、「日本に於ては東大(理研)仁科、(陸軍)、京大荒勝研究室(海軍)にて行ひあるも純学理の範囲を出でず。米国にては…研究陣も強力なる故研究促進せられしやと想像す」と記した。即ち日米戦争は、米国の“科学技術力・工業力”と日本の“大和魂”との戦いだったのだ!!!

緊迫する西太平洋。台湾情勢を巡る議論を日米韓の友人達と議論している。

7月に日本政府が公表した『防衛白書』を巡り友人達と議論した(PDF版の図参照)。8月に酷暑の日本を訪れたフラヴェルMIT教授とは、彼が7月18日にForeign Affairs誌websiteで発表した小論(“Is China’s Military Ready for War?”)や南シナ海でのPLAの基地について議論した。また田中康博東京大学教授による7月発売の本(『中国と台湾: 危機と均衡の政治学』)は、「習主席は台湾攻略をいつ考えるか?」という問題に触れている。筆者は特に“Not Today(今日はやめておこう)Theory”に興味を惹かれた。即ち台湾の在米外交官である俞大㵢氏が昨年6月、Bloomberg TVのインタビューの中で“When Xi Jinping wakes up and looks at the mirror before he shaves, he goes, ‘Not today’”と、習主席に常に思いとどまらせる事が重要と語ったのだ。我々は中国の指導者や軍関係者の冷静な対応を祈るしか方法はないかもしれない。こうした中、MIT Technology Review誌の8月15日付記事(“Taiwan’s ‘Silicon Shield’ Could Be Weakening”)ついても語り合った。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第197号 (2025年9月)