メディア掲載  エネルギー・環境  2021.03.15

中国の台頭に抗する⽇本のエネルギーミックスとは

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2021年2月26日)

エネルギー・環境 中国

いま進行中のエネルギー基本計画の改定において2030年のエネルギーミックスが再検討されている。本稿では地政学から説き起こし、日本の国益を論じ、原子力と石炭火力の堅持を主張する。


1.中国

中国が強大化している。のみならず、数多くの権威主義の国々の支持を得ている。香港弾圧では53カ国が「内政干渉すべきでない」と主張する中国を支持した新彊の弾圧でも54カ国が中国を支持した。権威主義の国々の指導者たちは中国からの経済的恩恵を受けている。また中国は欧米と違い、人権等で口煩いことも言わない。巧みな中国の外交により、アセアン、太平洋島嶼国、東欧の何れも親中と反中で割れている。 

温暖化問題については、中国はいま戦略的に積極姿勢を見せている

欧州は温暖化が国民の重大な関心事である。そこでメルケル・マクロン等の指導者は、温暖化に関して中国と積極的に協力すべきだとしている。これは「米国と欧州で協調して中国に圧力を掛けよう」と呼び掛けているバイデン大統領率いる米国とは一線を画している(新華社報道)。

メルケルらの狙いは、温暖化に関する協力を隠れ蓑にする格好で、投資・貿易の拡大を図ることだと見られる。この過程で、人権侵害・領土侵犯等が不問にされるのではないか、という危惧が広がっている(Express報道Politico報道)。

バイデン政権は米国単独ではなく国際協調によって中国に対抗するとしているが、トランプ政権と比べると宥和的であり、前述のように欧州とすら国際協調の足並みはなかなか揃わない。ロシアについては、バイデン政権は対決姿勢を強めており、ますます中国陣営に追いやる結果になりそうだ。

今後、中国はどう出るか。尖閣諸島、台湾などでは小競り合いが続き、隙を見せれば中国は実効支配を進めるだろう。また香港や新彊での弾圧は続くだろう。

だがいま中国は自信をつけており、「時勢は我にあり」と見ているので、無謀な軍事行動はせず、また弾圧も国際世論を刺激しすぎない程度に加減する、というのが基調になるだろう。コロナを早々に克服し、ICT等の先進技術を手にした中国の経済力は今後もますます強大になる。他方で、欧米はコロナを克服するのにまだ時間がかかり、開発途上国はもっと先が見えない。アジアにも南米にも、経済破綻の瀬戸際にある国がいくつもある。

民主主義国における混乱、分断、経済停滞は深刻になる一方で改善の兆しがない。中国やロシアはSNSなどを駆使してこの混乱を助長し、赫々とした成果を挙げている。

以上の帰結として、これからの世界においては、中国と、緩やかな事実上の同盟関係にある権威主義の国々が、民主主義諸国に対して優勢に立つと見込まれる。


2.中東

中東の国際政治地図はここ1年で激変した。サウジ、UAEが宿敵であったイスラエルと国交を樹立した。他のアラブ諸国も相次いでこの列に加わった。これはイランとトルコに対抗するためだ。両国は周辺諸国への干渉を続けており、昔のペルシャ帝国とオスマン帝国を彷彿とさせる。イランとサウジはイエメン内戦に介入して戦っているが、しばしばペルシャ湾にもこれが飛び火して、製油施設やタンカーへの攻撃などが行われている。これがエスカレートしてペルシャ湾からの石油・ガス供給が途絶する危険がある。これは石油の9割とLNGの2割をペルシャ湾に依存する日本にとっては重大なリスクである。

3.CO2

CO2は奇妙な問題である。CO2濃度が1850年に比べて1.5倍になり、気温が0.8度上昇したのは本当である。しかし台風、ハリケーン、豪雨等の災害の激甚化なるものは全く起きていない。これは統計で簡単に確認できる。シンプルな理論では更に0.8度上昇するのはCO2が更に1.5倍になったときだが、そうなるには現在のまま特に対策強化をしなくてもあと70年もかかる。これだけゆっくりした温暖化ならば何ら問題はない。科学的にはCO2は喫緊の課題などではない(拙著拙稿)。

だが政治的にはCO2は大問題になっている。環境運動が新興宗教となり、西欧のリベラルのアジェンダに入り込み、政治を乗っ取ることに成功したからだ。いまやCO2ゼロは神聖な教義であり異論は許されない。メディアも行政も、災害の映像を見せ、悔い改めてCO2をゼロにせよ、と説教する(ただし災害が増えていないという統計は完全に無視する)。米国の民主党もこれと同じである。

但し米国の共和党は、「気候危機」説はリベラルのフェイクであると理解していて、極端な温暖化対策など支持しない。のみならず米国は世界最大の産油国であり、天然ガスも多く産出する。民主党議員であってもエネルギー産出州の議員は、州の利益を損なう温暖化対策に関しては造反する。このため、以前書いたように、バイデン政権が温暖化対策を進めるに当たっては大きな制約がある。米国は石油・ガス大国でありつづけ、輸出先をたえず探すことになる。


4.日本のエネルギー政策

さて日本はどうすべきか。

第1に、中国に対抗するためには、日本は経済力が強くなければならない。また、

第2に、有事に対するエネルギー安全保障は万全でなければならない。そして、

第3に、2050年CO2実質ゼロという目標に対しても整合性がある絵を描かねばならない。

経済力を高めるためにはエネルギーコストを高めてはならない。原子力、石炭火力は必須である。

また再生可能エネルギーとLNGに頼った電源構成では脆弱なことは今年初めの電力危機ではっきり露呈した。再生可能エネルギーはいざというときに天候が悪ければ使い物にならない。LNGは気化するので長期の貯蔵に向かない。対照的に、いちど燃料を装荷すれば1年持つ原子力、石炭を貯蔵しておける石炭火力の重要性が明らかになった。

石油については、イランとアラブ諸国の紛争などによって、中東からの供給がいつ止まるか分からない。その際には中国との石油の争奪競争も勃発することなる。

エネルギー供給源を多様化すること、とりわけ友好国からの輸入を維持したり増やしたりすることは、これまで以上に重要になる。政策的に、石油・ガスは北米等からの調達を増やし、石炭は豪州等からの調達を維持すべきだ。その際は連邦政府だけでなく、州政府や事業者とも長期にわたる契約を結び、あらゆるレベルで友好的な関係を維持することが望ましい。それによって北米や豪州で政権交代があってもブレずに供給を受けることが出来る。やや割高になるとしてもそれは国家の安定供給のための保険料と思えばよく、国が負担すればよい。

温暖化対策としては、技術の研究開発を主にするとよい。理由はいくつかある。

⑴技術を海外に売ることで日本経済に資する。本当に安くてよい技術になれば国内でも使えばよい。
⑵研究開発が足りない未熟な段階で技術の大量普及を図ると経済損失が大きい。太陽光発電の全量買取り制度の愚 を繰り返してはならない。
⑶そもそも本当に地球規模で大幅にCO2を減らしたいと思うならば技術開発こそが最重要である。
⑷CO2は今のところ何の問題も起こしていないが、地球のことは複雑で誰もよく分からないので、ひょっとするとCO2削減が必要になるかもしれない。その時に備えて技術開発をしておく。

ただし研究開発もあまり肥大化してはいけない。これまで革新的環境イノベーション戦略関連予算が年間4千億円弱だったところに、来年度から2千億円(=10年間で2兆円)上乗せされて6千億円規模になるが、このぐらいが限度であろう。あまり肥大化すると企業のコスト要因となって電気料金上昇などの形で経済に悪影響がある。のみならず、技術開発の方向性が温暖化に偏重してしまい、他の重要な技術の開発が阻害されることも看過できない。


5.日本の数値目標

2050年CO2実質ゼロの目標については、「日本発の技術によって世界全体でCO2を削減することで達成する」、としておけばよい。それに向けてCCS・直接空気回収(DAC)などの技術開発を実際に進めてゆけば、何れも一度実用化するならば容易に海外展開できるから、論理的には完璧になる。

2030年のエネルギーミックスについては、パリ協定に提出した数値を安易に変えてはいけない。経済と安全保障のために、原子力・石炭火力を堅持し、LNG・再エネ頼みにしないことが重要だ。

いまはグリーンブームが絶頂だが、早晩、米国もそれほどパリ協定に野心的な目標を提出できないことが明らかになる。以前書いたように、議会が反発するからだ。あるいは議会を無視してバイデン政権が野心的な数値を出して来たとしても、米国内では非難轟々であろうから、交渉では数値の実現可能性を突けばよい。日本の現行の数値目標(△26%)がそれほど見劣りするものになるとは思えない。

それでもなお欧米が日本に数値目標を深堀りせよと圧力をかけてきたならば、「なぜ中国に最も間近で対峙する同盟国を、わざわざ経済・安全保障の両面で脆弱にするのか」と反論すればよい。エネルギーは日本のアキレス腱であり、そのためにかつて戦争までしたのだ。

EUが輸入する製品に国境炭素税を導入すると言う話はあるが、バイデンが大統領になった米国を貶めてメンツを潰す訳にはいかないし、中国製の部品のコストが上がることをドイツの産業は望まないので腰砕けになるだろう。2大排出国を対象にしない状態でEUが日本に国境炭素税を課するとは思えない。

野心的なCO2の目標を言いたい大臣はがっかりするかもしれない。だが気分の良いことを言って人気取りをする大臣よりも、どんなに非難されようとも辛抱強く国益を守り抜く大臣こそを見たい国民も多いのではないか。