要旨
CO2による地球温暖化は飽和してゆくので、今後さらに0.8℃上昇するのは、現状政策の延長でCO2がしばらく増加するシナリオの場合でも、2085年以降になる。
このようなゆっくりした温暖化であれば、大きな被害が生じるとは思えない。なぜなら、過去に起きたゆっくりした0.8℃の地球温暖化でも、何らの被害も無かったからだ。
1 はじめに
過去に起きた0.8℃の地球温暖化は何らの被害をもたらしていない。[1]
従って、今後も温暖化がゆっくりと進むのであれば、大きな被害が生じるとは考えにくい。なぜなら、CO2による温室効果は対数関数で飽和してゆくものであり、これは今後の温暖化をゆっくりとしたものとする要因となるからだ。
以上のことは以前に詳しく述べた。[2]
だが、具体的な排出シナリオや、何時頃までに0.8℃の気温上昇が起きるか、といったことはまだ検討してこなかったので、以下に計算しよう。
2 CO2の濃度が何ppmになったら、あと0.8℃気温が上がるのか?
放射強制力はCO2濃度の対数関数で決まることが知られている。(詳しい説明は拙稿を参照)[3]。
本稿ではIPCCの 2007年第4次評価の式を用いよう。これは
ΔF = 5.35 ln (C/C0)
となっている[4]。ここでC0=278ppm は産業革命前のCO2濃度である。
さて、過去の気温上昇0.8℃が全てCO2によるものだと仮定しよう。(この仮定の是非は付録で議論する)
そして、過渡気候応答の考え方を適用して将来の気温上昇もCO2の温室効果によってもっぱら起きるとすると(この仮定の是非は付録で議論する)、気温上昇Tと放射強制力ΔFは比例関係にあるから、異なる4つのCO2濃度185, 278, 417, 626 ppmに対して、下表の計算ができる。
表1
ここで、
preindustrial =産業革命前、278 ppm
present day=今日、278 ppm×1.5 =417 ppm (2022年ごろに到達する)
future=将来、278 ppm×1.5×1.5 = 626 ppm である。この時、気温上昇が1.6℃になる。以下では、これがどの時点になるのか調べたい。
なおpastは参考までに計算してみたものである。産業革命前278ppm÷1.5=185ppmの時、気温は更に0.8℃低かったことになる。このCO2濃度だと植物は生育限界(140ppmとされる)に近く、つらい環境である。
以上から、あと0.8℃気温が上昇するのは、CO2濃度がさらに1.5倍になった時点(future)であり、その時のCO2濃度は626 ppmであることがわかる。
表1を図示しておこう。△FとTはそれぞれ図1、図2となる。図2を見ると、CO2による温室効果が飽和してゆくので、同じ0.8℃の気温上昇あたりのCO2濃度増大幅が広がっていることがはっきり分かる。
図1
図2
3 気温上昇が1.6℃になるのは何時か
それでは気温上昇が1.6℃となる、626 ppmに達するのは何時か。IPCCの2013年の第五次評価のシナリオを見ると表2のようになっている。
表2から、RCP6.0シナリオにおいて626 ppmに達するのは2088年ごろだとわかる(2080年と2090年の間は線形に内挿した)。
RCP6.0というのは、現行の政策の延長上で実現できるシナリオであり、2050年頃まではCO2排出量が増加し続けるものだ(図3)。
図3 将来の排出量予測。(Hausfather & Peters, 2020)
https://www.nature.com/articles/d41586-020-00177-3を基に筆者作成。[5]
以上のことから、現行の政策の延長上で実現できるRCP6.0シナリオであっても、あと0.8℃気温が上昇するのは2088年となる。
このようにゆっくりとしか地球温暖化が進まないのであれば、過去にそうであったのと同様、地球温暖化による大きな被害というものは、起こりそうにない。
付 計算の前提の妥当性について
「過去の気温上昇0.8℃が全てCO2濃度上昇によるものとする」という前提
過去の気温上昇には、CO2およびCO2以外の温室効果ガスによる温室効果と、エアロゾルによる冷却効果がある。
大雑把に言えば、CO2以外の温室効果ガスによる温室効果と、エアロゾルによる冷却効果はだいたい相殺してきた。少なくとも誤差の範囲ではそうなる(とくにエアロゾルによる冷却効果の誤差は大きいので誤差の範囲には容易に入ってしまう)。このことはIPCCの下図4から理解できる。
両者が相殺してきたとなると、気温上昇はもっぱらCO2によって起きてきたことになる。
図4 放射強制力。IPCC 2013
ただし、過去の気温上昇には、大気や海洋の内部変動、太陽活動の変化、森林消失によるエアロゾルの減少[6]なども寄与している。これらが合計でどうなるかははっきり分かってはいないが、0.8℃の気温上昇がすべてCO2によるという想定は、CO2の温室効果を過大に見積もっている傾向にあるのではないか、筆者は見ている。(ただしここはもっと議論を詰める必要がある)
「将来の気温上昇が全てCO2濃度上昇によるものとする」という前提
前項で「過去の気温上昇が全てCO2濃度上昇によるものであった」とした際の前提が今後も成立すると考えることに加えて、下記を想定する。
まず、CO2による放射強制力は年々上昇してきたが、メタンなどの他の温室効果ガスについては、その伸びは緩やかであったことが、下図5から分かる。このことから、将来についてもその伸びは少ないと想定する。
図5 温室効果ガス排出量の推移
また、CO2による気温上昇にともなって、ポジティブ・カーボンサイクル・フィードバックなどの機構で地球温暖化が加速するという研究もあるが、不確実なものであり、また2100年ごろまでで、かつ気温上昇が2℃にも達しない程度であれば、それほど顕著になる可能性は少ないと筆者は見ている。(ただしここはもっと議論を詰める必要がある)
以上
[2] CO2濃度は5割増えた――過去をどう総括するか、今後の目標をどう設定するか?
[3] CO2濃度は5割増えた――過去をどう総括するか、今後の目標をどう設定するか?
[4] 英文だが分かり易い説明として https://scienceofdoom.com/2010/02/19/co2-an-insignificant-trace-gas-part-seven-the-boring-numbers/ 、