外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年8月7日(金)

デュポン・サークル便り(8月7日)

[ デュポン・サークル便り ]


子連れ一時帰国から戻った私たちを待っていたかのように、ワシントンは連日、日本のような「酷暑日」・・。気温が上がり始める前の早朝に芝刈りや雑草抜きを済ませる必要があります。とてもじゃありませんが日中は屋外での作業は「無理」ですから。という訳で時差ぼけもそこそこに毎朝早起きしております。日本の皆さん、この酷暑を一緒に乗り切りましょう!

さてさて、ワシントンに戻ってきて早くも1週間、ようやく内政の「すったもんだ」に追い付いてきた感じがしております。先週の「デュポン・サークル便り」では上院司法委員会のトッド・ブランチ司法長官指名人事を完全に止めたYOLO議員の大活躍をお伝えしましたが、今週に入ってまた動きがありました。コーニン、ティリス両上院議員は「『反司法の武器化基金』を二度と復活させないというトランプ政権側の約束を書面にしろ。」と強硬に求めていました。なんと、政権側がこの要求に実質的に屈したようで、ブランチ司法長官指名側は両議員の求める内容の書面を提出したのです。これを受け両議員はブランチ司法長官指名人事に賛成票を投じる意向を表明、無事にこの人事案については本会議採決に進むことになりました。ですが!本会議で共和党上院議員53名全員がちゃんと賛成票を投じるのか、これが極めてビミョーな状態は変わりません。というのも、司法委員会に所属していないYOLO上院議員の中に、まだ立場を明らかにしていない議員がいるからです。まさにYOLO上院議員たちの面目躍如といったところでしょうか。トランプ大統領は「オレ様の重要法案が通ってないじゃないか!8月の休会なんて取り消して頑張れ!」とプレッシャーをかけています。それでも、「あんた(トランプ大統領)のせいで、選挙戦が厳しいのに、何言ってんの」と本音レベルで思っている議員が多くいることは想像に難くありません。この件についてコメントを求められたYOLO上院議員グループの一人のマカウスキー上院議員は、「苦しい選挙戦を戦っている仲間もいるし、まぁ、(休会中止なんて)ないわね」と冷静な一言。おそらく、選挙戦真っ最中に連邦予算をめぐるバトルがエスカレートすることを回避したいのでしょう。9月に入ったら一時しのぎの継続決議を一刻も早く通して、さっさと選挙戦に向けて議会を再び休会してしまいたい、というのが本音でしょう。このように今トランプ大統領はYOLO上院議員に「江戸の仇を長崎で」取られまくっています。中間選挙に向け大統領が苛立ちに任せて怒りを爆発させ、選挙集会などで暴言を吐きまくり、共和党候補の足を引っ張る様子が目に浮かぶようです。

中間選挙といえば、現在、共和党では「トランプ大統領にはしご外されて困ってます」問題に加え、さらに頭痛の種が発生しています。オハイオ州で再選運動をしている真っ最中のマックス・ミラー下院議員になんとDV(家庭内暴力)疑惑が。それだけでもかなりマズイというのに、DV疑惑の渦中にある彼の前妻、エミリーさんのお父様(つまりミラー下院議員にとっては前義父)は、オハイオ州選出のバーニー・モレノというバリバリ現役の上院議員。このモレノ上院議員が、自分の娘がDV被害にあっているということで怒り心頭、「ミラーは再選活動なんかしてないで、カウンセリングを受けるべき」「私は孫娘が彼のところで過ごしている間、生きた心地がしない」など、再選運動真っ最中の前義息に対する豪速球の批判をメディアの前で堂々と展開。二人の間の実子である2歳半のお嬢さんが、寝るときに手放せない青いウサギのぬいぐるみ(小さいお子さんの「あるある」ですよね)を、自分の家から前妻の家に戻したとき、ミラー議員がそれをなかなか引き渡そうとせずに嫌がらせしたことが複数回あったという「青いウサちゃん事件(blue bunny incident)」報道まで飛び出し、離婚後の泥沼家族ドラマが全国のお茶の間に中継されている状態になっています。ミラー議員の選挙区は、共和党にとっては本来、「楽勝選挙区」。それがこのDV疑惑が原因で、彼の議席を守るための選挙区が民主党にひっくり返されないように、想定外の選挙資金拠出を迫られる可能性も出てきてしまいました。候補者差し替えの期限も7月10日に迫っており、万が一、この期限を過ぎた後にミラー議員側に決定的なDVの証拠が出て、彼が選挙戦撤退に追い込まれる可能性もあります。その場合には、本来なら楽勝の選挙区で代替候補者を立てられずに共和党が「不戦敗」するという悪夢のシナリオになります。そのため、ミラー議員には一刻も早く自発的に再選運動をやめてほしい、というのが共和党指導部の本音です。とは言え、ミラー議員は選挙戦を撤退する意思など一ミリもなく、こんな彼を止めるには、もはやトランプ大統領が直接引導を渡すしかないのですが、当のトランプ大統領にその気はゼロ。いやはや、共和党の選挙担当の皆さんには、お疲れ様です、としか申し上げようがありません。

その一方、民主党にとっても、悩ましすぎる事態が。というのも、7月4日(火)にミシガン州で行われた予備選挙の結果、連邦上院議員予備選では、議会指導部が推していた穏健派のヘイリー・スティーブンス下院議員に、民主社会主義同盟(DSA)やバーニー・サンダース上院議員の推薦を受けたアブドゥル・エル・サイエド候補が僅差で勝利したからです。このエル・サイエド候補、支持者の一人である急進派のインフルエンサーの一人が「アメリカは9・11のような事件の被害に遭って当然」(その後、撤回しましたが・・)などの問題発言を連発したり、エル・サイエド氏本人も「私はイスラエルにとって最大の悪夢」というロゴをつけたTシャツを着て政治集会に出ようとしていたというエピソードがあるなど、一言でいうと「反ユダヤ、反エスタブリッシュメント」、マムダニNY市長以上の急進左派ポピュリスト候補、というのがもっぱらの評判です。得票率にしてわずか1%という「超接戦」を制した彼ですが、これからの最大の課題は、11月の本選に向けてスティーブンス候補の支持層、特に、民主党支持層の中ではどちらかといえば保守的な年配の黒人やユダヤ人などの支持層を取りまとめる選挙戦を展開できるかどうか、がカギになります。共和党側の対立候補であるマイク・ロジャース元下院議員との間では接戦が予想されており、州内すべて民主党支持層だけでなく無党派層も取り込まなければ勝てないわけですが、さて、エル・サイエド候補にそれができるのでしょうか。

民主党も共和党も、なんで普通の候補者が選挙に出ないんでしょう・・・・政治の両極化がどんどん激しくなっているアメリカの現状が垣間見えた、今週1週間でした。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員