外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年7月3日(金)

デュポン・サークル便り(7月3日)

[ デュポン・サークル便り ]


W杯、日本のサムライ・ブルーは、残念でした・・・・私も息子もテレビにかじりついて全力で応援していたので辛いです。あの日、息子は「後半になんであんなに守りに入るんだ!攻撃は最大の防御じゃないかっ!」とサッカー選手らしいストレスを、手に持っていたテレビのリモコンにぶつけた後は、どんよりした空気を漂わせながら練習に出かけました。昨日は、親子でバックアップ(?)のアメリカーボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦をテレビ観戦しましたが、息子の集中度の違いを目の当たりにし、我が家はやっぱり、サムライ・ブルーのサポーターだな、と再認識した次第。W杯は決勝トーナメントに入ってからも、オランダやドイツなどの強豪チームが次々とPK戦でまさかの敗退をするなど、話題に事欠きませんが、日本のみなさん、いかがお過ごしでしょうか。

NYでは、独立記念日の前日の7月3日に、歌手のテイラー・スウィフトさんと、アメフトのスター選手の一人のトラビス・ケルシー選手の結婚式が、なんとマディソン・スクエア・ガーデンで行われることが判明。結婚お披露目パーティーへの出席者は、プロスポーツとエンタメ業界の有名どころが1000人も出席する一大イベントなので、当然、NYの警備も厳戒態勢。なのに、昨日は、エンパイア・ステート・ビルの一番てっぺんでプロポーズをする、といういろんな意味でドラマチックな行動に出たカップルのニュースが全米を駆け巡り・・・NY市の警備当局の皆様には「お疲れ様です」としか言いようがありません。

そんな中、ワシントンでは今週も、トランプ大統領の話題に事欠きません。今週、メディアを席巻しているのは、6月30日にホワイトハウスが公表したトランプ大統領の財政状況。なんと、昨年1月に大統領に就任してから、仮想通貨の売却や、トランプ大統領とちょっとでも会いたい人たちからの「マー・ア・ラーゴ」入会希望が殺到したことにより会費の高騰・・・等々あり、年収220億ドル、総資産価値は740億ドル超。あるメディアによれば、大統領としての給与だけみると、「時給約200ドル」、対して仮想通貨売却などなどで上げている「副収入」の方は「時給110万ドル」だそうです・・・

そして6月30日には、最高裁判所が今シーズンの審議日程をすべて終えました。案件が政治的に機微であればあるほど、注意深く審議をしているからだと思われますが、最高裁は、審議日程の終盤に入ると、政治的影響が甚大な判決を「怒涛のように出す」傾向があります。第1次トランプ政権の時も、女性が中絶する権利を連邦レベルで認めた1973年の「Roe v. Wade」判決を覆したのは、審議日程が終盤に差し掛かった2022年6月24日でした。判決が出たのが金曜日ということもあり、判決当日はもちろん、週末の政治討論番組でも、この話題「しか」議論されなかったと言っても過言ではないほどの衝撃が走りました。

今年の最高裁も例外ではありません。なんといっても、今季の最高裁の審議案件にはトランプ政権があげてきた諸問題、具体的には

  • 「大統領権限の及ぶ範囲」
  • 「連邦通信委員会(FCC)や連銀(FRB)などの独立行政機関の任命・罷免権の範囲」
  • 「選挙当日消印の郵送票を、選挙当日が過ぎた後も引き続き集計の対象にできるか」
  • 「トランスジェンダー女性の女子スポーツへの参加」

などなど、行政権の及ぶ範囲や、中間選挙の影響に結果を及ぼしかねない政治的な議題、さらには社会問題に至るまで、重要案件がてんこもり。さらに、不法移民取り締まり関連でも、

  • 「(内戦や大規模自然災害などの国難を逃れてアメリカに来た外国人が持つ)一時的保護民(TPR)の対象国の制限」
  • 「米国市民権については、アメリカ国内で生まれたすべての赤ん坊は、移民法上のステータスに関係になく、米国市民と認定されるか」
  • 「難民申請は、どのタイミングでできるのか」

など、メガトン級の案件が揃っていたため、6月に入ってからというもの、毎日、「判決が出るのはいつ?」状態で、特に司法関係ニュースを追う人たちはそわそわしていました。特に、関心を集めていたのが、アメリカの国籍を付与する条件として建国以来脈々と続いてきた「出生地主義」にトランプ政権が真っ向から挑戦した件。トランプ政権は、一貫して「両親のどちらかが不法移民の子供は、アメリカ人としての国籍を付与する対象にはならない」という立場ですが、同政権がこれに関する最高裁のお墨付きを取り付けようとしたのが、この案件です。このような主張が生まれた背景には保守派の間で、「子供をアメリカで生むことでアメリカ人の母親となり、アメリカに移民しようとする」人たちの存在が長らく問題化してきた経緯があります。ただ、建国以来続いてきたこの立場の変更は、「どういう経緯でアメリカに流れ着いても、頑張れば身を起こせる」という建国以来の精神を根本から覆すもののため、最高裁がどのような判断をするかが注目されていたのです。

全米が注目したこの「出生地主義」をめぐる判断については、結論から言うと、最高裁がトランプ政権の主張を退けた形となりました。それでも、最終的な判断こそ6-3となりましたが、判断の中でトランプ政権の立場に一定の理解を示した判事を入れると、実質的には5-4という僅差での判決。「移民に寛容なアメリカ」という国の在り方が大きく変質しつつあるかもしれない現状を暗示することになりました。

そんな中、前回の「デュポンサークル便り」でお伝えした通り、民主党側の苦悩は深まるばかり。今週行われたコロラド州予備選でも、米日議連で共同座長を務めたこともあるベテランの現職議ディゲット下院議員が、急進左派の新人に敗れるという大事件が起きました。ことここに及んで、事態を凝縮するキャッチフレーズを連発しているのが、エマニュエル前駐日米大使です。予備選後の民主党側の事後感想を求められるコメンテーターとして、CNNでほぼ常連になっているエマニュエル前大使の最近の決め台詞は

「過半数への道は、「赤」の州を「青」に変えられるかで決まる。「青」の州を「コバルト・ブルー」に変えているだけでは、絶対に過半数の座は奪回できないし、トランプの不正の追及もできない」


というもの。確かに、全国区で見た場合、彼の言う通りなんです。もともと民主党が強い州で急進左派系候補が勝つのは当たり前。でもこの予備選の結果は、本選での共和党VS民主党の勢力関係とはほぼ無関係。それよりも、現在、共和党が強いといわれる選挙区で勝てる民主党候補が出てきて初めて、民主党は多数党の座を奪回できるわけですから、まさに「お説ごもっとも」。さらに、1992年大統領選挙で「あほんだら、全ては経済に決まってるだろ(It’s the economy, stupid)」のスローガンを編み出し、クリントン大統領の当選に大きく貢献した古参の民主党の選挙対策屋であるジェームズ・カーバイルさんなどは、これまでの民主党予備選で急進左派が躍進している状況にストレスがたまりすぎてか、「自称『社会民主主義』のやつらは、民主党のブランドで勝負なんかしないで、自分たちで政党を作ればいいんだ!俺は、あんなやつらがいる民主党にいられねぇ!」と、オンラインインタビューでブチ切れる始末。それなのに・・・民主党内は、今、どうやったらこの急進左派のグループをうまく取り込みつつ、11月の中間選挙、さらに2028年大統領選挙を戦えばいいのか・・・とすでに右往左往している状態。これでは、先が思いやられます・・。

エマニュエル前大使のキレッキレのコメントを聞きながら「民主党、やばいよなぁ」とぼんやりと考えている私の最近の関心事は、2028年大統領選挙に向け活動を始めたとしか思えない人が出始めたこと。大統領選挙に出たい人がまず最初にやるのは「本の出版」と、「自分の本のPR」にかこつけたテレビ出演や全米でのイベントです。すでに共和党側ではバンス副大統領がこの一歩を踏み出し、民主党側でもニューサム・カリフォルニア州知事、プリツカ・イリノイ州知事、カニングハム・元下院議員(サウスカロライナ州)などがこのパターンを踏襲しています。中でも私が特に「おぉっ」と思ったのはバンス副大統領。民主・共和両党に辛辣なコメントをすることで知られ、先日マーク・トウェイン賞も受賞したコメディアンのビル・マーハー氏(基本的には民主党支持らしい)の生放送のトークショーに、イランとの交渉で忙しいはずの副大統領が出演。議論はほぼ平行線のインタビューではありましたが、それでも、民主党支持っぽいマーハー氏のインタビューを受けて立ったのは立派でした。実は、同じことをできる民主党の政治家はあまりおらず、これまでにFOXニュースなどに出演し、丁々発止のやり取りを披露して「男をあげた」民主党政治家は、ピート・ブティチェッジ前運輸長官やオバマ大統領ぐらい。「言論の自由」を謳いながら、実は、自分に耳障りのいいことしか聞いてこないことが確実な番組にしか出ない民主党候補が大半というのも、なかなか全国レベルの選挙で民主党が勢いに乗れない理由の一つかもしれませんね。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員