キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年6月29日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
アメリカでは引き続きW杯フィーバーが席巻中。日本は強豪オランダと引き分け、チュニジアを4-0であっさり下し、スウェーデン戦も最後は引き分けに持ち込まれてしまったものの、決勝トーナメント進出決定!でも、次の対戦相手はたぶんブラジル・・・・とはいえ、絶対に頑張っていただきたいですね。日本の皆さんも、盛り上がっていらっしゃるでしょうか。
いやはや、今週も盛沢山でした・・・何がって、アメリカの内政が、です・・・・外交でイラン問題が迷走を続ける中、なんと23日には上院が「戦争権限決議」を賛成50,反対48と僅差ながら可決しました。そうです、6月8日付「デュポンサークル便り」でお伝えした「人生は一度だけ、悔いなく生きよう(you only live once, YOLO)」系の共和党上院議員7名のうち4人が造反して民主党議員とともに賛成票を投じ、ついに下院に引き続き上院でも議会がトランプ政権の対イラン戦争に「NO」を突きつけたのです。すでにイランとの停戦交渉が始まっている現状を踏まえると、あくまで形式的な意味合いしかありません。それでも、どちらも共和党が多数を占めているはずの上下両院でトランプ大統領の方針に対し「NO」が出たのは、やはり画期的です。共和党議員の皆さんが中間選挙に向け、いかに焦っているかの証拠でもあります。
しかも、24日にはトランプ大統領と共和党上院議員の皆さんの緊張の高まりがよーくわかる「とんでもない」事件が発生しました。23日に米連邦議会上下両院が「2026年住宅価格お手頃感法(Housing Affordability Act of 2026)」という法律を可決したのです。住宅価格の高騰が続き、「アメリカン・ドリーム」の象徴だった「自分の一戸建てを持つ」という夢も、かなりの人にとっては、どんなに頑張っても手の届かない夢になってしまいつつあるご時世。なんとかその状況の改善し、大手業者が多数の住宅を一気に買い上げることを禁止したり、住宅を建てる際の家屋と家屋の間の距離などに関する規制緩和などを盛り込んだこの法案、なんと超党派の支持を得るというミラクルにより可決され、あとはトランプ大統領が署名さえすれば成立するところまで来ていました。実際に、トランプ大統領と共和党上院議員の皆さんは両者の関係改善を目指し24日に昼食会を設定し、その前にこの超党派法案を「にぎにぎしく」署名する予定だったのです。
それなのに・・・・その署名式直前、トランプ大統領は「トゥルース・ソーシャル」で「アメリカを救え(Save America)法案を議会が可決するまでは、住宅価格お手頃感法案には署名しない。署名式は中止」と一方的に発表。ただでさえ上院共和党議員の造反による戦争権限法決議可決で緊張が高まっていたトランプ大統領と共和党議員の関係をさらに悪化させることになりました。件の昼食会はなんとか開催されたものの、その際中にイラン情勢についてトランプ大統領に詰め寄ったキャシディ上院議員をトランプ大統領が「気●い(lunatic)」呼ばわりし、これに切れたキャシディ議員は、議論がヒートアップする中、「大統領閣下(Mr. President)」なる敬称すらやめて「あんちゃん(brother)」呼ばわりを始め、二人の間で怒号が飛び交いまくっていたそうです。この「トランプVSキャシディ」対決、見てみたかった気もしますが・・・・
共和党が完全に学級崩壊に陥る中、民主党側も23日にはかなり難しい局面に入りました。というのも、この日に実施されたNY州の予備選挙で、自称「民主社会主義者」のゾーラン・マムダニNY市長が推薦する超リベラル派候補3人全員が、現職とワシントンの議会民主党指導部が推す候補を破ってしまったからです。NY州、特にマンハッタンやロングアイランドのような都市部ではリベラル派が圧倒的ですが、全米の他の場所は必ずしもそうではありません。本選に勝つためには民主党が中道路線に回帰することも必要なのに、今回は民主党内で「勝利の方程式」が一つに絞れない状態が生まれてしまったのです。議会選挙だけが行われる今年の中間選挙では大きな問題ではありませんが、2028年の大統領選挙を見据えたとき、党内で路線対立が顕在化してしまった状態は大問題です。しかも、「マムダニ・パワー」がここまではっきり見えてしまうと、彼に代表される党内急進左派の声を完全にスルーする訳にもいかなくなります。偶然にも、今の議会民主党のトップは上院のシューマー上院院内総務、下院のジェフリーズ院内総務ともにNY州選出の議員ですが、彼らにとっては、2026年はともかく、2028年に向けて頭痛の種がまた一つ生まれた形です。
やっぱり、アメリカ内政は俄然面白くなってきました・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員