キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年3月18日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
今週は米国時間の火曜日に米露首脳電話会談があるそうだ。これで全てが決まるとは到底思えないが、停戦までの方向性は見えてくるだろう。というわけで、今週はウクライナ関係には触れずに、別の話を書くことにする。それにしても、国際情勢は急変しているというのに、日本では「10万円商品券」の話で持ち切りとは、嘆かわしい。
10万円は高額だが、ドルにすれば600ドルちょっとか。昔なら1000ドルだからインパクトもあったのだが・・・。古今東西、政治にはカネがかかるが、その点は米国も例外ではない。600ドルどころか、巨額の政治資金の詳細の多くは殆ど公表されていない。しかも、今のワシントンの関心事は「連邦公務員」の「大量解雇」である。
どっちもどっち、という状況。やはりAll politics is localということなのかなあ。そんなワシントンから驚くべきニュースが舞い込んできた。トランプ政権が、米国防総省のネットアセスメント室(ONA)を「廃止」したというのだ。ONAについては10年前、産経新聞のコラム【World Watch】(2015年6月11日)に書いたことがある。
当時まで室長は94歳だった米国随一の戦略思考家、アンディ・マーシャル。彼は1973年以来四十数年、ソ連や中国との競争の趨勢につき、軍事に限らず、より総合的な視点から正確な分析・評価を国防長官に提供してきた。ONAを世に知らしめたのは冷戦時代のソ連経済に関する評価だった。
そのONAが3月13日、イーロン・マスク率いるDOGEの大攻勢の中、静かに「廃止」されたらしい。このニュースはワシントン在住の友人からのメールで知った。今週の辰巳由紀主任研究員の「デュポンサークル便り」でも紹介されているが、今のところ日本では大きなニュースにはなっていない。残念だがこれが日本の現実である。
ワシントンの友人からのメールに筆者は以下の返事を送った。
遂に来るものが来ましたね
最近ONA関係者からの連絡が途絶えていました
まさか、でも、もしかしたら、とは覚悟していましたので、決して驚いてはいませんが
3月13日は米国長期戦略コミュニティにとって告別式の日となるでしょう
これで直ちに「現在」の対中戦略関係に大きな影響が出るとは思いませんが
恐らく10年後、20年後の「将来」の米国の戦略は、今よりずっと長期的視野を欠いたものになるでしょう
彼らは常に20年、30年先を考えていましたので、4年後にONAが再設置されなければ、米国は徐々にSuper Powerではなくなり、ただのmediocre Powerになっていくと思います・・・・
件の産経新聞コラムに話を戻そう。10年前、筆者はこう書いていた。
冷戦終了後マーシャルの関心は中国に移った。90年代末までにONAは「中国が中長期的に強大化し、米国にとって脅威となり得る」と評価した。マーシャルは人民解放軍の軍事評価だけでなく、孫子の兵法から中国経済、社会、人口動向にまで調査対象を広げた。ソ連の例と同様、彼の中国に関する分析は極めて正確だ・・・。
ONAはマーシャル室長退任後も二代目室長の下で続いたが、今回の「トランプ旋風」で縮小・廃止の対象となってしまった。だが、考えてみれば、そもそも、今までが「例外」だったのかもしれない。ネットアセスメントとは人間の最も贅沢な知的活動の一つだから、トランプ政権がこれを理解せず、逆に潰そうとするのも当然なのだろう。
こうしたネットアッスメントの手法は今後数十年間日本が直面する大国間の戦略的対立・競争の趨勢を事前に把握し、大国間の衝突を生き延びる知恵を出す上で極めて有用だと信じており、これからは日本でもネットアセスメントを・・と真剣に考えていた。ONAの廃止は世界中の「安保屋」にとっても、大きなショックだろう。
日本にも、そのことを理解する人々が、少人数だが存在する。個人的には、過去35年あまり、アンディ・マーシャルとその弟子たちの知的活動の一端をほんのちょっとでも、知ることが出来ただけでも、実に幸せだったと感じている。しかし、これからはアンディ・マーシャルだったらどう考えるかを想像しながら細々とやっていくしかない。
今週は長くなってしまったので、このくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート11【3月17日版】
<今週以前から続く会議>
1月20日‐3月28日 軍縮会議、第一部(ジュネーブ)
2月11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
2月17日‐3月21日 大陸棚限界委員会第63回会議(ニューヨーク)
2月19日‐3月20日 Foresighting Forum 2025: Charging Forward(オーストラリア)
2月24日‐4月4日 人権理事会第58回会議(ジュネーブ)
3月3日‐3月21日 障害者権利委員会、第32回会議(ジュネーブ)
3月3日‐3月28日 人権委員会第143回会議(ジュネーブ)
3月10日‐3月20日 ILO、理事会及びその委員会、第353回会議(ジュネーブ)
3月10日‐3月21日 女性の地位に関する委員会、第69回会議(ニューヨーク)
3月10日‐4月4日 ICAO、理事会フェーズ、第234回会議(モントリオール)
3月10日‐4月4日 ICAO、航空航法委員会、第228回会議(モントリオール)
3月13日‐3月21日 国家人権機関世界連合、認定小委員会、第 1 回会合(ジュネーブ)
3月
<3月17日‐3月23日>
17日 米国2月小売統計発表
17日 EU外相理事会(ブリュッセル)
17日 シンガポール2月貿易統計発表
17日 フィリピン1月OFW送金額発表
17日 参院予算委で石破茂首相が出席し集中審議
17日 衆院政治改革特別委員会で参考人質疑
17日 1~2月の中国鉱工業生産、小売売上高、都市部固定資産投資(国家統計局)
17日‐3月21日 米エヌビディアの開発者会議「GTC2025」(米サンノゼ)
18日 コンゴ政府と反政府勢力「3月23日運動(M23)」の和平交渉開始(アンゴラ・ルアンダ)
18日 米エヌビディアの開発者会議「GTC」でフアンCEOが基調講演(サンノゼ)
18日 国土交通省が2025年公示地価公表
18日 衆院本会議で「能動的サイバー防御」導入の関連法案が審議入り
18日‐3月19日 Energy Storage Australia 2025(オーストラリア)
18日‐3月19日 ブラジル中央銀行、Copom
18日‐3月19日 米国FOMC、経済見通し発表
18日‐3月19日 米連邦公開市場委員会(FOMC)(FRB)
18日‐3月28日 ICSC、第99回会議(ニューヨーク)
19日 米FOMC最終日(声明発表は午後2時、パウエルFRB議長会見は午後2時半、FRB)
19日 ユーロスタット、2月CPI(HICP)発表
19日 フィリピン2月BOP統計発表
19日 フィンテック・ジャンクション(テルアビブ)
20日 香港2月CPI発表
20日 米国第2024年第4四半期国際収支統計発表
20日 台湾2月投資統計発表
20日 UNEP常任代表委員会第169回会合(ナイロビ)
20日 秋田県知事選告示(4月6日投開票)
20日‐3月21日 欧州理事会(ブリュッセル)
22日 日中韓外相会談(都内)
23日 福岡県知事選投開票
<3月24日‐3月30日>
24日‐3月25日 OCSE、ウクライナ戦争中の人身売買被害者の特定と保護に関する研修(子どもに重点)(ワルシャワ)
24日‐3月26日 サイバーテック・グローバル(テルアビブ)
24日‐3月27日 ブラジルのルラ大統領が国賓来日
24日‐3月27日 国際税務協力に関する専門家委員会第30回会合(ニューヨーク)
24日‐3月28日 UNCITRAL、作業部会IV(電子商取引)、第69回会合(ニューヨーク)
24日‐3月28日 障害者の権利に関する委員会、会期前作業部会、第 20 回会期会議(ジュネーブ)
25日‐3月27日 SEA ASIA 2025(シンガポール)
25日‐3月27日 国連ハビタット、執行委員会、第1回定例会議(ナイロビ)
25日‐3月28日 ボアオ・アジアフォーラム年次総会(中国海南省ボアオ)
26日 米国2024年第4四半期対外資産負債残高統計発表
26日 英国2月CPI発表
26日‐3月27日 UNCITRAL、作業部会IV(電子商取引)、第69回会合(パリ)
27日 米国2024年第4四半期GDP(確定値)発表
28日 メキシコ2月雇用統計発表
28日 ドイツ2月労働市場統計発表
28日‐5月10日 代議院、国会議員、州、市、町村長候補者の選挙活動期間(フィリピン)
30日 秋田市長選告示(4月6日投開票)
<3月31日‐4月6日>
31日 米国通商代表部(USTR)2025年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
31日 コロンビア2月雇用統計発表
31日 3月の中国製造業PMI(国家統計局)
31日 OECD-UNCTAD-UNCITRAL投資条約会議(パリ)
31日‐4月1日 人身売買反対同盟第25回会議(ホーフブルク宮殿、ウィーン)
4月
1日 イスラエル・マシンビジョン会議2025(テルアビブ)
1日 ペルー3月CPI発表
1日 ユーロスタット、2月失業率発表
1日 米国商務長官 通商政策報告書提出期限
1日 米国財務長官 通商政策報告書提出期限
1日 米国通商代表部(USTR)通商政策報告書提出期限
1日 インドネシア3月CPI発表
2日 韓国3月CPI発表
2日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
2日 コロンビア2月輸出統計発表
2日‐4月3日 EU外相理事会、非公式会合(防衛)(ワルシャワ)
3日 オーストラリア2月貿易統計発表
3日 米国2月貿易統計発表
3日‐4月5日 IDAX - 国際皮膚科学・美容博覧会・会議(ベトナム)
4日 米国3月雇用統計
4日‐4月5日 医学と薬学に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 コンピュータサイエンスとインテリジェンスシステムに関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 スポーツ栄養とサプリメントに関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 社会科学と経済に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 工学と技術における最近のイノベーションに関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 教育、言語、教授法に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 自然科学と環境に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 法と政治科学に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 応用物理学と数学に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
4日‐4月5日 ビジネス管理と電子ビジネスの進歩に関する国際会議 - 2025(カンボジア)
6日‐4月7日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表
7日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 コロンビア3月CPI発表
7日‐4月8日 EU教育・青年・文化・スポーツ相理事会、非公式会合(文化・メディア)(ワルシャワ)
8日 チリ3月CPI発表
8日‐4月11日 FHA-食品・飲料 2025(シンガポール)
9日 メキシコ3月CPI発表
9日 ブラジル2月月間小売り調査発表
9日 韓国3月雇用統計発表
9日 ロシア2024年経済活動別・需要項目別GDP改定値発表
10日 中国3月CPI発表
10日 米国3月CPI発表
11日 インド2月IIP発表
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11日 ロシア3月CPI発表
11日 CIS外相会議(カザフスタン・都市未定)
11日 英国2月GDP速報値発表
11日 ドイツ3月CPI発表
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
11日‐4月12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会、非公式会合(ワルシャワ)
13日‐4月16日 香港エレクトロニックス・フェア(春)(香港)
14日 インド3月CPI発表
14日 中国第1四半期貿易統計発表
14日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
14日‐4月15日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(社会政策)(ワルシャワ)
14日‐4月16日 情報通信系展示会「GITEX AFRICA Morocco」(モロッコ・マラケシュ)
15日 韓国3月貿易統計発表
15日 英国労働市場統計(2024年12月~2025年2月)発表
15日 フランス3月CPI発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日 サウジアラビア3月CPI発表
15日‐4月17日 INATEX、インドインターテックス2025年(ジャカルタ)
15日‐4月19日 中国輸出入商品交易会(広州)
16日 英国3月CPI発表
16日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(平等)(ワルシャワ)
16日 ユーロスタット、3月CPI(HICP)発表
16日 中国第1四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
16日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
16日 米国3月小売統計発表
16日‐4月17日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
18日‐4月20日 東南アジア最大のヘルスケア・製薬ショー2025(SEACare)(マレーシア)
21日 イスラエル2024年第4四半期GDP(確定値)推計発表
21日‐4月24日 宇宙産業カンファレンス「NewSpace Africa Conference」(エジプト・カイロ)
21日‐4月25日 Saudi Food Expo(リヤド)
21日‐4月27日 モロッコ国際農業展「SIAM 2025」(モロッコ・メクネス)
22日 イスラエル3月財貿易統計発表
23日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
23日 カザフスタン2024年所得別GDP発表
23日 ロシア第1四半期鉱工業生産指数発表
23日‐4月24日 G20財務相・中央銀行総裁会議(米国・ワシントン)
23日‐4月24日 ソーラーテックインドネシア、イナトロニクス(ジャカルタ)
23日‐4月25日 東南アジア最大のヘルスケア・製薬ショー 2025年(SEACare)(マレーシア)
23日‐4月27日 中国輸出入商品交易会(広州)
24日 サウジアラビア2月貿易統計発表
24日 韓国第1四半期GDP(速報値)発表
25日 ロシア中央銀行理事会
25日‐4月27日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
25日‐5月2日 第21回上海国際自動車工業展覧会(上海モーターショー2025)
28日 メキシコ3月貿易統計・雇用統計発表
28日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
28日‐4月29日 EU環境相理事会、非公式会合(ワルシャワ)
28日 CIS経済評議会(ウズベキスタン・タシケント)
29日 イスラエル3月国別財貿易統計発表
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 タイ金融政策委員会2回目
30日 サウジアラビア2024年貿易統計発表
30日 米国2025年第1四半期GDP(速報値)発表
30日 ドイツ3月労働市場統計発表
30日 フランス2025年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 ドイツ2025年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 カザフスタン2024年需要項目別GDP発表
30日 ケニア4月CPI発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問