外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年9月12日(火)

デュポン・サークルだより(9月11日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは先週、レーバー・デイの3連休を終えました。8月半ば過ぎから、すでにワシントン近郊ではワシントンDCを含めほとんどの学区で新学期が始まっていました。ですが、通常ならレーバー・デイの週末を境にほとんどの公営・私営プールが閉鎖となり、正式(?)な夏の終わりとなります。しかし!今年はちと、様相が違いました。レーバー・デイ明け以降、全米を熱波が襲い、南はミシシッピー州から北はマサチューセッツ州まで、暑すぎて半日授業になったり、休校になったりする学校が続出しました。ワシントン近郊も、日中最高気温の記録を1881年以来、なんと142年ぶりに更新する場所が続出しました。日本の皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

「デュポンサークル便り」前号では、823日に行われた第1回共和党大統領候補討論会の様子をお伝えしましたが、レーバー・デイの週末をはさんだ過去2週間は、トランプ前大統領の4件の起訴関連のニュースが続きました。

まず、2020年大統領選挙のジョージア州での投票結果の改ざんを試みようとした罪で刑事起訴された案件では、824日に同州フルトン郡の刑務所にトランプ前大統領が短期間ながら収監され、20万ドルの保釈金を払ったのち、釈放されました。収監時に撮影された「マグショット」写真を使ったグッズがバカ売れしていることはすでに前号でお伝えしました。こちらの案件では96日に罪状認否が行われることが決定。またひと騒動ありそうな雰囲気です。

さらに、828日にはワシントンDCで、202116日の連邦議事堂襲撃事件教唆の罪で刑事起訴されていた件の第1回公判が202434日に行われることが発表され、トランプ陣営にとって大きな頭痛の種となりました。というのも、20241月にアイオワ州の党員集会で火ぶたが切って落とされる予備選挙の大きな山が35日に、カリフォルニア、コロラド、ノースカロライナ、テキサス、バージニア各州を含む全米14州で投票が行われる、いわゆる「スーパー・チューズデー」だからです。なんと、ワシントンDCの公判初日は、この「スーパー・チューズデー」の前日ですから、トランプ前大統領の選挙活動に影響が出るのは必至なのです。

もともと、この案件については、トランプ前大統領を起訴したジャック・リード特別検察官が、公判開始日を202412日に設定するように求めていましたが、「公判の準備のためにもっと時間が必要」と主張するトランプ前大統領側の意見も考慮したうえで、この日程になったようです。それにしても、まさかスーパー・チューズデーの前日とは……ただ、トランプ前大統領側は、「公判の準備に時間がかかる」と主張しつつ、2024年大統領選挙での勝利をもくろんでいたためか、ワシントンDCでの公判開始を2026年まで延期するように求めていました。これでは「藪蛇」になった感じですね。

その連邦議事堂襲撃事件といえば、右翼団体「プラウド・ボーイズ」メンバーで、襲撃事件を計画したグループのリーダー格といわれている「エンリケ」ことヘンリー・タリオ氏が襲撃を計画した罪でワシントンDC連邦地裁で刑事起訴されていました。その同氏に対し、レーバー・デイ週末明けの95日、懲役22年の実刑判決がおりたことも、大きなニュースとなりました。同氏は、襲撃事件の数日前に、ワシントンDCの黒人教会を襲撃した事件で逮捕され、裁判官によりワシントンDCから退去命令を出されたため、実際の襲撃に参加してはいません。ですが襲撃計画を主導したことが重く見られたようで、同様の罪で既に有罪判決が下され懲役刑に服役している他のメンバーの誰よりも長い期間の懲役判決となりました。

判決が下される直前、タリオ氏は、議事堂襲撃事件の被害を受けた議会警察官をはじめとする関係者に謝罪し、今後の人生では「政治、団体、活動、抗議集会」などには一切関与しないと誓い、「私はいつも、常に高い道徳心を維持しようとしていたが、見事に失敗しました」「今回の公判を通じて、自分がどれだけ間違っていたか思い知った」と神妙に反省の弁を述べました。

ですが、タリオ氏の弁護側は「事件当日に同氏はワシントンDCにおらず、襲撃事件そのものに参加していていない。それにも関わらず懲役22年の判決は長い」と反発し控訴する構えです。また、共和党大統領候補の中でも、デサントス・フロリダ州知事やラムスワーミー候補は早速、「判決は重すぎる」とコメント。二人とも、大統領に就任した際には、彼を含め、連邦議事堂襲撃事件で有罪判決を受け、服役中の数名に対して恩赦を出す可能性を匂わせています。こちらも、どうなりますことやら……。

さて、今週から議会が開会、9月末の年度末を見据え、ここ数年ほぼ恒例行事となりつつある、来年度予算をめぐるバトルが議会で再開されました。朝夕の出勤ラッシュも再開、またワシントンはいろいろな意味でにぎやかになります。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員