キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年2月28日(火)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
今週は火曜日から東南アジアに出張する予定が入っている。本来ならASEANの話を書くところだが、残念ながら、現地日程開始は水曜日となるので、結果報告は来週となる。先週以来岸田総理のウクライナ「電撃」訪問の可能性につき、多くの方からご質問を受けたが、この話はもうしない方が良いと思っている。
むしろ今週気になったのは筆者の大好きな「朝日新聞」がやたら拘っている「新しい戦前」なる概念だ。同紙デジタル版は「タモリさんが言った『新しい戦前』どう回避する」とか、「戦争において被害を受けるのは兵士だけではない・・・、太平洋戦争で体験したように、私たち一般市民も被害を受けるのです」などといった記事を掲載している。
如何にも朝日らしいリベラルな切り口だと感心するが、実は筆者もタモリさんの「新しい戦前」という感覚は共有している。唯一違うのは「戦前」がいつか、ということだけだ。朝日の論調は一貫して「第二次大戦」を前提とするが、筆者の念頭にある「新しい戦前」とは「第一次大戦」前との比較である。では、なぜ、第一大戦前なのか。
今のロシア、中国、イランに共通するのは、いずれも「現状変更勢力」であり、目的のためなら「武力行使」も辞さないことだろう。これに対し、今の日本は「現状維持勢力」だ。されば、昔の「日独伊」と同じことをやっているのは「中露イラン」の方ではないのか。だから筆者の「新しい戦前」とは、「第二次大戦前」ではないのである。
第一次大戦後、日本は債務国から債権国になり、一等国になると同時に傲慢にもなった。しかし、第一次大戦では戦争への関与を最小限にし、戦後できた国際連盟の主要国・列強の一員になった。日本は今こそ、この第一次大戦前の「戦前の記憶」を正確に思い出し、改めて分析すべきなのである。
どうやら、1945年以来の長い長い「戦間期」が漸く終わりつつあるようだ。勿論、朝鮮戦争から、湾岸戦争、イラク戦争まで、地球上で戦火が止むことはなかったが、下手をすると、昨年始まったウクライナ戦争パート2は、良く言っても「ポスト冷戦期」の終焉、悪く言えば、長い長い「戦間期」の終焉にもなりかねない話ではないか。
日本がこの事態をどう乗り切るかを考える際、「新しい戦前」とは「第一次大戦前」でなければならない。「第二次大戦前」の反省をすべきは中国、ロシア、イランであって、日本ではないのだ。この点を間違えると、議論は的外れの結果に終わってしまうだろう。その意味で、朝日新聞の「新しい戦前」論には、やはり違和感がある。
〇アジア
中国が24日に発表したウクライナに関する「12項目の和平案」を読んでみたが、国際関係論の大学院生だってもう少しましな文章を書くだろう。中国が本気で仲裁したいならこんな文章など発表しない。中国は「中国が中立であり、ロシアを支援しておらず、欧米とは敵対しない」と言いたいのだろうが、これでは無理だね。
〇欧州・ロシア
この12項目和平案についてロシア報道官は「全ての関係国の利害を考慮した上で、詳細に分析する必要がある」、ウクライナ大統領は「中国がウクライナのことを話し始めたということは決して悪いことではないが、実際に行動するかどうかが問われる」と述べている。当然だろう、現時点では双方とも戦争に勝つ気でいるのだから。
〇中東
パレスチナ西岸地区でイスラエル人2人が銃撃で死亡したため、イスラエル人入植者がパレスチナの村を襲撃し、1人が死亡、90人以上が負傷したそうだ。当然だろう、イスラエル新政府は「極右」的政策をどんどん進めているからだ。しかし、どれだけパレスチナ人が抵抗しても、悲しいことにアラブ諸国に本気で介入する元気はない。
〇南北アメリカ
あまり報じられていないアメリカの内情を知る上で今週のデュポン・サークル便りhttps://cigs.canon/blog/security/2023/02/27_1547.htmlはとても示唆に富んでおり、一読をお勧めする。National Divorceを提唱する下院議員は「生活のすみずみまで連邦政府に介入してほしくない人々の声を代弁している」が、「同議員の主張は『PC疲れ』を感じる普通のアメリカ人には意外に強く響く」のだそうだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
1月16日‐3月17日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)
1月23日‐3月10日 大陸棚の限界に関する委員会、第57回会議(ニューヨーク)
1月23日‐3月31日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)
1月23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)
2月20日‐3月17日 平和維持活動特別委員会及び同作業部会 実質的な会合(ニューヨーク)
2月21日‐3月10日 フランス東部ブザンソンの黒崎愛海さん不明事件でセペダ被告の控訴審
2月
<2月27日‐3月5日>
27日 WTO紛争解決機関会合
27日 メキシコ1月貿易統計発表
27日‐2月28日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
27日‐3月2日 国連WFP、理事会、第1回定例会(ローマ)
27日‐3月17日 ICAO、理事会フェーズ、第228回会議(モントリオール)
27日‐3月24日 第137回人権委員会(ジュネーブ)
27日‐4月4日 人権理事会、第五十二回会議(ジュネーブ)
28日 インド2022年度第3四半期GDP発表
2月中 ロシア投資フォーラム(ロシア・ソチ)
3月
1日 EU理事会、政治会議コレパーI
1日 EU理事会、政治会議コレパーII
1日 ドイツ1月労働市場統計発表
1日 国連人口基金賞委員会 第1回定例会(ニューヨーク)
1日‐3月3日 クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク)
2日 ブラジル2022年第4四半期GDP発表
2日 メキシコ1月雇用統計発表
2日 ユーロスタット、1月失業率発表
3日 米独首脳会談(ワシントン)
4日 中国の全国政治協商会議(政協)開幕
5日‐3月9日 国連後発開発途上国会議 第5回会合(ドーハ)
<3月6日‐3月12日>
6日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日‐3月10日 経済的・社会的及び文化的権利に関する委員会、予備段階作業部会、第72回会議(ジュネーブ)
6日‐3月10日 情報通信技術の安全保障と利用に関するオープンエンド・作業部会 2021-2025 第4回会合(ニューヨーク)
6日‐3月17日 国際海底機構 法務・技術委員会(第一部)
6日‐3月24日 障害者の権利委員会、第28回会合(ジュネーブ)
7日 中国1~2月貿易統計発表
7日‐3月8日 EU非公式国防相会合
7日‐3月10日 IAEA、総務委員会(ウイーン)
7日‐3月15日 国際海底機構 法務・技術委員会(キングストーン)
8日 ユーロスタット、2022年第4四半期実質GDP成長率発表
8日 EU理事会、政治会議コレパーI
8日 EU理事会、政治会議コレパーII
8日 米国1月貿易統計発表
9日 ロシア2月CPI発表
9日 メキシコ2月CPI発表
9日 UNEP、第161回常設代表委員会(ナイロビ)
9日 中国2月CPI発表
10日 インド1月鉱工業生産指数発表
10日 米国2月雇用統計発表
10日 ドイツ2月CPI発表
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
13日 ウクライナ2月CPI発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問