外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年2月27日(月)

デュポン・サークル便り(2月27日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンでは早くも、今年の桜の開花時期が例年になく早まりそうだ、というニュースが流れ始めました。例年であればスキーシーズンはまだ続いているのですが、今年は、例年より早くシーズン終了を迎えそうです。そうかと思えば、南カリフォルニアでは雪の予報。さらに今週は、南部で降雪が予想されています。大混乱のアメリカの気候ですが、日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

この2週間、ニッキー・ヘイリー元国連大使(元サウスカロライナ州知事)の大統領選出馬表明、ジョー・バイデン大統領のウクライナ電撃訪問など、様々な出来事があり、これらの多くが日本でも報じられたと思います。そこで、今回の「デュポンサークル便り」では少し趣向を変えて、米国内で出てきた動きについてお伝えしたいと思います。

その動きとは、「国家レベルでの離婚(national divorce)」。国家が離婚するって・・・?と首を傾げる方も多いと思いますが、要は、州によって、より保守的な「赤の州(red state)」か、はたまたよりリベラルな「青の州(blue state)」かに分かれている全米各州が、教育政策、社会政策など国民生活の多くの面での政策決定権を連邦から各州にもどし、連邦政府の権限は外交や国防など最低限の項目に抑えよう、というものです。

実質的な国家分裂ともいえるこの”national divorce“の提案者は、トランプ前大統領支持派のマジョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出)。彼女の提案は、ミット・ロムニー上院議員、マイケル・マコール下院議員など、彼女の同僚の共和党議員の多くから批判を浴びていますが、本人は全く引き下がる様子がありません。しかも、ブッシュ(子)元大統領のスピーチライターを務めたピーター・ワイナー氏が222日に、保守系政治雑誌の「アトランティック」誌に「マジョリー・テイラー・グリーンの市民戦争」と題するコラムを寄稿。この中で同議員の発言を「共和党内の異端児の発言」と片付けてしまうことは簡単だが、彼女の共和党内での影響力は、そんな一言では片づけられないほど大きくなっているという現実を直視するべきだ」と訴えているのです。

前回の「デュポンサークル便り」では、「PCpolitically correct)疲れ」が米国内に広がり始めたことと、それがトランプ前大統領に対する支持の背景になっている点について少し触れましたが、実は、彼女の発言を無視できない理由もここにあります。というのも、私の周囲を見ても、「普通のアメリカ人」の間で、毎日の生活に息苦しさを感じる人がどんどん増えている、というのが、この数年、実感として感じられるからなのです。

例えば、私が住んでいるバージニア州では、南北戦争中、南部州だったこともあり、この数年、南軍の将軍の名前にちなんでつけられた道路の名前や学校の名前が「改名」される事例が相次いでいます。例を挙げると、南軍の総大将、ロバート・E・リー将軍にちなんで名づけられたLee Districtという公民館の名前がいつの間にか別の名前になっていたり、Lee Highway という名前で長年親しまれていた道路が名称変更されている、などの事例です。いずれも、古くは奴隷制に始まり、1960年代まで続いた人種差別政策の歴史を連想させるから、というのが主な理由です。もちろん、生まれ持った肌の色で差別するというのは容認されてはいけないことです。ですが、奴隷制が日常だった過去の歴史を現代の価値観で断罪する、という現代の流れに強い抵抗感を覚える人が、今のアメリカにかなりの数いることも事実なのです。

同様に、同性愛やその他の性的嗜好の多様性についても議論があります。この問題をどのくらい早い時期に子供たちに教える必要があるのか、もしかしたら一時的な理由で「男の子になりたい!」と言っているかもしれない女の子に「そういう風に感じているということは、君は女の子の体に生まれてきてしまった男の子なんだよ」と、両親の同意なしに学校のカウンセラーなどが指導することは許されるか、といった議論です。このような「なんでもあり」の様相を呈してきてしまっている今のアメリカの現状はどこかおかしいのではないか、と感じている人がいるのも確かです。

テイラー・グリーン議員は、自身のnational divorce提案に批判的な声に対して「私はただ、『自分たちの生活のすみずみまで政府に介入してほしくない』という人々の声を代弁しているだけ」といったコメントをツイッターなどでしています。実際、彼女の声を無視できない最大の理由の一つは、同議員のこの主張が「PC疲れ」を感じている普通のアメリカ人には意外に強く「響く」からなのです。

このような主張をする議員が、共和党内で求心力を拡大しつつあるというあたりが、共和党、というよりも、アメリカの国内政治の「分断」を感じさせます。表立って取り上げられることは少ないかもしれませんが、このような動きが2024年大統領選挙の行方を左右することは間違いありません。今後も、この論点については引き続き、注意していきたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員