キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年7月19日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週は久しぶりに出張でワシントンに来ている。筆者個人としては安倍元首相逝去の衝撃がまだ残っているが、こちらの友人の安倍氏に関する「思い出」話を聞くたびに、また悲しくなってしまう。ワシントンでの安倍元首相関連ニュースについては今週の「デュポン・サークル便り」が詳しいので、そちらをお読みいただきたい。
一年振りのワシントンで最も驚いたのは、党派を問わず、米国の友人たちが米国の将来について極めて悲観的だったことだ。アメリカ人がこんな感じで「自信喪失」状態になる時代はロクなことがない、というのが筆者の経験則。だが80年代とは違い、今の米国人のフラストの矛先は日本ではなく中国に向かっているような気がする。
もう一つ気になったのはFOXニュースの報道ぶりだ。数年前、トランプが大統領だった時代は、「deep state」陰謀論が全盛で、大いに幻滅したものだ。ところが今は陰謀論よりも「バイデン批判」が主流だ。バイデン評価が急降下しているせいか、FOXの論調が妙に説得力を増しているように思えるのだから、我ながら恐ろしい。
という訳で、今回はホテルに帰ればFOXニュースを見るという毎日だが、ここでも中国批判が目につく。例えば、ノースダコタ州の米空軍基地のすぐ近くに中国企業が広大な土地を購入し、corn millすなわちトウモロコシ製粉工場を建設する計画があるらしいが、同空軍基地は最新鋭ドローン開発で有名なところだ、と報じている。
こうした動きは国家安全保障上の大問題ということで、ポンペイオ前国務長官をゲストに呼び、「中国はけしからん、直ちに規制法を制定し阻止すべし」などと報じていた。日本でも似たような話があったと思う。もう一つ驚いたのはポンペイオ氏がダイエットしたらしく、痩せて前よりも精悍に見えたことだ。選挙を考えているのだろうか。
この種の話は日本ではなかなか分からない。それだけでもワシントンに来た甲斐はある。いずれにせよ、アメリカ社会の分断は近年一層悪化しつつあるように見える。だが、バイデンが分断の「原因」なのかと問われれば、筆者は「否、バイデンの不人気はこの分断状況の『結果』に過ぎず、問題はより深刻かもしれない」と答えている。
もう一つ興味深かったことは、民主党リベラル系だった社会学の専門家が保守系のシンクタンクに移籍するという話が大きく報じられていた。その人物によれば、民主党は「今やヒスパニック票だけでなく、大卒白人票も失いつつある。人々の生活水準ではなく、(人種、ジェンダー等)文化問題ばかりに注目しているからだ」と手厳しい。
バイデン不人気といえば、外交面で気になったのは同大統領サウジ訪問の評判の悪さだ。ワシントンに長く住む旧知の中東専門家によれば、このサウジ訪問の裏で最も巧妙に立ち回っているのがイスラエルとアラブ首長国連邦だという。なるほど、イスラエルも湾岸諸国も、「米国は当てにならない」ということなのだろうか。
〇アジア
米トランプ前政権の国防長官が率いる米シンクタンク訪問団が台湾入りし、19日に蔡英文総統と会談すると報じられた。元職とはいえ米国防長官が訪台する意味は小さくなく、中国側の反発は必至だろう。一方、日本では安倍元首相弔問のため訪日した台湾副総統を「ご指摘の人物」と呼んだそうだ。この差は一体何故なのか。
〇欧州・ロシア
ウクライナ大統領が同国保安局(SBU)長官と検事総長を解任したという。ロシア軍に制圧された地域でSBUと検察職員らがロシアに協力するなど、国家反逆行為があったからだというが、なるほど、これまでの「ウクライナ賛美」報道は嘘だったのか。ウクライナ人が全て英雄とは限らないようだ。この種のニュースは今後も続くだろう。
〇中東
バイデン大統領イスラエル訪問中に、I2U2(インド、イスラエル、UAE、USA)四カ国首脳テレビ会談が行われた。インドは中東でも重要なパートナーになりつつある。イスラエルの技術、UAEの資金とインドの製造能力の「結合」がどこまで進むのか、行方が気になるところだ。
〇南北アメリカ
今のワシントンでマスクをしているのはレストラン・店舗の従業員と旅行者の一部ぐらいだと思うが、一方、マスク着用を要求する本屋もあるのでマスクは手放せない。米国内の感染者は再び増加傾向にあり、今回食事する予定だった友人が二人PCR検査で陽性になり、急遽テレビ会議に変更した、という笑えない話もある。コロナはまだまだ続きそうだ。
〇インド亜大陸
インドの中東での重要性を再認識したが、それ以外は特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
6月28日-7月28日 人権委員会、第135回会議(ジュネーブ)
7月5日-23日 国際法学セミナー 第56回 (ジュネーブ)
7月5日-8月6日 国際法委員会、第73回会議、第2部(ジュネーブ)
7月6日-8月20日 大陸棚限界に関する委員会、第55回会議 (ニューヨーク)
7月12日-7月23日 ICSC、第94セッション(パリ)
7月13日-7月30日 拷問禁止委員会、第74回会議 (ジュネーブ)
7月15日-7月23日 WIPO、加盟国総会、第63回会合(ジュネーブ)
7月
<18日-24日>
18日 米国国際貿易委員会(ITC)による外国の検閲によって生じる貿易障壁に関する第2回調査結果の議会提出期限
19日 米国予備選挙(メリーランド州)
19日 ユーロスタット、6月CPI発表
19日 英国労働市場統計(3~5月)発表
19日 閣議(首相官邸)
19日 ロシア・イラン・トルコ首脳会談(テヘラン)
19日-21日 国連システム、イスラム協力機構、その補助機関の組織・機関の総会(ジュネーブ)
20日 英国6月CPI発表
21日 WTO紛争解決機関会合
21日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
21日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
21日 ロシアの拒否権行使めぐる国連総会会合
21日-22日 過度に有害又は無差別な効果を有すると認められる特定の通常兵器の使用の禁止又は制限に関する条約第2議定書改正議定書締約国年次総会、専門家委員会(ジュネーブ)
21日-23日 UNCTAD、競争法と競争政策に関する政府間専門総合、第20回会議(ジュネーブ)
21日-8月7日 長野県知事選告示
22日 ロシア中央銀行理事会
22日 ファルコン9 、スペースX社スターリンク(Starlink)衛星46機(ヴァンデンバーグ空軍基地)
<25日-31日>
25日 参院議員任期満了
25日 新憲法案めぐるチュニジア国民投票
26日-27日 米国FOMC
26日-30日 情報通信技術安保と利用に関するオープンエンド作業部会、第3会議(ニューヨーク)
27日 メキシコ6月貿易統計発表
27日-29日 全国知事会議 (奈良市)
28日 メキシコ6月雇用統計発表
28日 米国第2四半期GDP発表(速報値)
29日 4〜6月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
29日 ウクライナ2021年雇用統計発表
29日 ドイツ6月労働市場統計発表
29日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
29日 ドイツ第2四半期実質GDP成長率(速報値)発表
29日 6月の米PCE物価指数(商務省)
31日 7月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
7月中 WTO2022年第1四半期サービス貿易統計
7月中 OECD2022年第1四半期海外直接投資(FDI)統計
8月
1日 ファルコン9、韓国パスファインダー月周回機 (KPLO)(ケープカナベラル空軍基地)
1日 ユーロスタット、6月失業率発表
1日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表
1日 ウクライナ1~6月鉱工業生産指数発表
2日 米国予備選挙(アリゾナ州、カンザス州、ミシガン州、ミズーリ州、ワシントン州)
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日-3日 ブラジル中央銀行、Copom
2日-27日 第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議(ニューヨーク)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問