◆兼原研究主幹は、東京都内で開催された洋上風力発電に関する2回の研究会において講師をつとめ、次の演題で講演を行いました。
『排他的経済水域における洋上風力発電実施に係る国際法の研究会~国連海洋法条約および「改正再エネ海域利用法」を中心に~』
講演内容と講演用資料は次のとおりです。
2025年6月に、再エネ海域利用法の改正が成立し、改正法は「海洋再生可能エネルギー発電設備に関する法律」称されます。ただし、2回の講演では、メディアなどで最もよく用いられる表現「改正再エネ海域利用法」を用いております。
改正再エネ海域利用法の解説や、排他的経済水域(EEZ)に係る国際法の解説は、それぞれいろいろな機会に実施されているでしょうし、実施されていくことと思われます。
そこで、この2回の講演では、EEZに関する国際法(海洋法、とくに、国連海洋法条約=UNCLOS)における、EEZ沿岸国(主権国家)としての権利の行使、かつ、義務の履行を、日本が、国内法(とくに、改正再エネ海域利用法、海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律)により、どのように実現するのかという視点で、国際法と国内法を結びつけて考えてみました。
最も根本的なこととして、海洋空間計画という国家政策の策定が不可欠であるという点を論じました。
海洋空間計画は、個々の省庁によってではなく、総合海洋政策本部のような国の「統合的な意思」を決定する組織によって策定されるべき計画です。
広大なEEZ(日本は、管轄海域の面積において、世界第6位)で、多様な海洋利用(航行・漁獲・エネルギー生産・レジャー・海洋科学調査・海底ケーブル及びパイプラインの敷設・軍事演習など)が行われます。多様な海洋利用が反映する多様な利益を調整して、「どの海域で」「どのような態様で、洋上風力発電というエネルギー生産を行うのか」という、沿岸国=海洋大国=主権国家である日本の国家政策としての、海洋空間計画が不可欠です。
研究会の参加者が、法曹界・産業界・技術界・シンクタンク・アカデミアというように、多様なバックグランをもつ方々でした。そこで、より具体的に、領海での洋上風力発電では、必ずしも大きな問題とはならない、EEZでの洋上風力発電ならではの問題として、「洋上風力発電」と「(外国船舶の)航行の自由・航行の安全」との調整という問題をとりあげました。
これは、UNCLOSが要求する、「他国の海洋利用に妥当な考慮(due regard)を払う義務」の履行にあたります。この国際法上の義務を、日本の国内法(とくに、海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律)により、どのように履行するのかという問題の検討を行いました。
最後に、国際法は、義務を課するだけではなく、権利を与える法であり、主権国家は、国際法を守るだけではなく(主権国家の消極的側面)、国際法の修正変更・新法の創造に働きかける(主権国家の積極的側面)主体であることを確認しました。
「どの海域で」「どのような態様で洋上風力発電を実施したいのか」という主権国家としての権利の主張と行使が前提となり、それと、「(外国船舶の)航行の自由・航行の安全」とが調整されます。それが、「妥当な考慮(due regard)」を払う義務の履行です。「妥当な考慮」を払う義務は、外国への忖度(だけ)を意味する義務ではありません。
海洋空間計画の策定を基盤にすえて、主権国家=沿岸国=海洋大国として、日本は、権利を行使するべきです。その権利の行使のあり方、つまり、洋上風力発電の実施態様を具体化し、日本の決定を支えるのは、産業界・技術界・シンクタンク・アカデミア・法曹界に属する多種多様なStakeholdersからの参画inputです。
国際法の権利や義務の実現は、洋上風力発電の実施において、国だけではなく、国と、これらの多種多様なStakeholdersとの共同作業であることを強調して、講演をしめくくりました。
◆関連する兼原研究主幹の論文