コラム  外交・安全保障  2025.04.03

洋上風力発電を契機とする海洋空間計画

国際法・海洋 エネルギー政策

1.はじめに

202537日に、「海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定された。2018年に制定された「海洋再生可能エネルギーに係る海域利用の促進に係る法律(法律第89号、以下、「2018年再エネ海域利用法」)について、2024年の国会に改正法案が出されたが、継続審議、廃案という経緯を経て、あらためて2025年の国会に改正法案が提案されることになった。この閣議決定は、法律名を「海洋再生可能エネルギー発電設備に関する法律」に改正することを提案しているが、以下では混乱回避のために、今次の改正案を、「再エネ海域利用法改正案」、あるいは、明白な場合には、単に「法案」と記す。

今次の改正の背景を、内閣府総合海洋政策推進事務局・経済産業省資源エネルギー庁・国土交通省港湾局・環境省総合環境政策統括官グループは、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札とされています。洋上風力発電については、2030年までに1,000kW2040年までに3,000kW4,500kWの案件形成目標を掲げる中、現行法に基づく領海及び内水における案件形成に加え、我が国の排他的経済水域における案件形成に取り組むとともに、海洋環境等の保全の観点から適正な配慮を行う必要があります。」とする。

この法案につき、筆者は、次の二つの視点から注目している。第一に、筆者は国際法学者であるから、この法案が、排他的経済水域(EEZ)での洋上風力発電の実施にとって、法的基盤をなすことに関心がある。それは、EEZの国際法上の制度に適合した洋上風力発電の実施を、いかにはかるかという問題関心である。第二に、総合海洋政策本部参与を6年間務めた経験に基づき、日本の海洋政策の視点から、海洋空間計画に着手するための格好の契機としての洋上風力発電に注目している。それは、権利が及ぶ海域面積において世界第6位を誇る日本が、いかにして国益を最大化するように、広大な海洋を利用するかという問題関心である。

以下に、第二の視点から、つまり、「海洋空間計画に着手するための恰好の素材としての洋上風力発電」という視点から、再エネ海域利用法改正案を分析していく。もっとも、第一の国際法の視点からの分析も、第二の視点に関わる限りで排除しない。とくに、日本が、主権国家として、ましてや海洋大国や海洋立国を標榜するのであれば、「国際法を活用して、いかに日本の国益の最大化をはかるか」という視点を意識しながら検討する。なお、国際法の視点からの詳細な分析は、筆者の別稿に譲る。筆者は、内閣府総合海洋政策推進事務局長の私的懇談会である「排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会」のメンバーであった。

2.2023年第4期海洋基本計画:海洋空間計画とEEZにおける洋上風力発電

1)海洋空間計画とEEZにおける洋上風力発電との結びつき

このコラムを執筆している2025311日に、再エネ海域利用法改正案の提案主体である内閣府総合海洋政策推進事務局が主催する、「海洋データ利活用を通じた地域活性化シンポジウム」が開催された。筆者は、会場でこれを拝聴した。主催者側から、シンポジウムの趣旨説明として、第4期海洋基本計画における海洋空間計画に係る記載箇所を丁寧に紹介しながら、海しるの機能や効用が説明され、それに続いて、「持続可能な海の利用にむけた海洋空間計画と海しるの意義」と題する基調講演が行われた。

4期海洋基本計画は、4か所で海洋空間計画を記載しているが、それは、次の二つに分けられる。

第一に、「第1部 海洋政策のあり方、3.海洋に関する施策についての基本的な方針、33.着実に推進すべき主要施策の基本的な方針、(3)海洋におけるDXの推進、イ」で、「海洋データの共有を通じて、我が国独自の海洋空間計画の手法を確立する。その際、これまでに日本各地で行われてきている再エネ海域利用法等の定める促進区域等での取組等を海洋空間計画の一形態として適切に位置付ける。それを踏まえ、複合的な海域利用をより適切かつ効果的に推進するための取組を進める。また、海洋データの一元化の観点から、DIAS等との連携も視野に入れ、海洋状況表示システム「海しる」のさらなる活用・機能強化等に取り組む。(傍点筆者、30頁)」と記載する。

ここで第4期海洋基本計画は、2018年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進区域の設定等を海洋空間計画の一形態として位置付け、また、複合的な海域利用をより適切かつ効果的に推進する取組も海洋空間計画の効用とみなしている。

第二に、「第2部 海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策、3.離島の保全等及び排他的経済水域等の開発等の推進、(2)排他的経済水域等の開発等の推進、イ 排他的経済水域等の有効な利用等の推進のための基盤・環境整備」で、「諸外国においても導入事例のある海洋空間計画については、その実態の把握に努めるとともに、我が国の海洋空間計画として既に取り組まれている管轄海域における法令の適用による規制や利用の実態の整理について、海洋状況表示システム「海しる」における共有・可視化を進める。その上で、排他的経済水域等における他の個別課題への展開や、複合的な海域利用への適用を検討する。(内閣府、外務省、農林水産省、国土交通省)(傍点筆者、50頁)」とする。

ここにいう「我が国の海洋空間計画として既に取り組まれている管轄海域における法令の適用による規制や利用の実態(傍点筆者)」には、現在法整備中のEEZでの洋上風力発電は含まれないであろうが、「個別課題」には、EEZでの洋上風力発電が含まれるうるし、海洋空間計画の「複合的な海域利用への適用」が検討されると解される。

以上より、第4期海洋基本計画は、海洋空間計画について、①2018年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進海域等の設定は、海洋空間計画の一形態であること、②EEZでの洋上風力発電の実施への適用を検討すること、③海洋空間計画は、複合的な海域利用をより適切かつ効果的に推進する取組であることを、明確にしていると解される。そして、上記の2025311日の総合海洋政策推進事務局主催のシンポジウムでは、同事務局が、その趣旨説明において、これらの記載を確認した。

上記で再掲したように、第4期海洋基本計画30頁では、「海洋データの共有を通じて、我が国独自の海洋空間計画の手法を確立する。」とある。では、海洋空間計画の意味や手法に関して、国によりどのような検討が行われてきたのであろうか。

この点について、第4期海洋基本計画よりも5年前に策定された2018年第3期海洋基本計画は、「6.離島の保全等及び排他的経済水域等の開発等の推進、(2)排他的経済水域等の開発等の推進、イ 排他的経済水域等の有効な利用等の推進のための基盤・環境整備」で、「諸外国においても導入事例のある「海洋空間計画」については、その実態の把握に努め、我が国の海域の利用実態や既存の国内法令との関係等を踏まえつつ、その必要性と課題及び活用可能性につき検討を進める。(内閣府)(68頁)」とし、注91は、海洋空間計画を、「総合的な海域管理と多様な資源の持続的可能な利用を目的とする管理利用計画。略称は、MSPMarine Spatial Planning)。」と説明する。

「諸外国においても導入事例のある「海洋空間計画」については、その実態の把握に努め」という説明は、第4期海洋基本計画の50頁でも、全く同じである。2018年から2023年の5年間もの間に、どのように「実態の把握」が進んだのか、明らかではない。

諸外国による導入事例により海洋空間計画の実体の把握につとめ、我が国独自の海洋空間計画を考案するというのが、海洋基本計画の趣旨であろう。諸外国による導入だけではなく、すでに次のように、我が国の学説等による海洋空間計画の意義や意味に係る研究がある。

2)日本の学説等による海洋空間計画の意義や意味

日本の海洋政策に係る専門家の叡智の表明として、202112月に「海洋・沿岸域の総合的権利の実現に向けたアピール~第4期海洋基本計画への政策提言~」が、日本海洋政策学会・日本沿岸域学会合同アピール委員会により発信された。同提言は、主として69頁(EEZについては、89頁)で、多様化・高密度化した海洋の利用形態をふまえて、海岸・沿岸域、さらには、EEZや大陸棚を含む広大な海洋空間の、総合的管理を提唱する。そして、海洋空間計画とは、広大な海域を包括的に捉えて、海域における人間活動の空間的・時間的な配分を行い、海洋の利用と保全を戦略的に計画していくことであると説明する。

この提言の後に2023年に決定された第4期海洋基本計画は、2018年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進海域等の設定は、海洋空間計画の一形態であるとする。また、第4期海洋基本計画は、海洋空間計画は、複合的な海域利用をより適切かつ効果的に推進する取組であり、「排他的経済水域等における他の個別課題への展開や、複合的な海域利用への適用を検討する。」としていることから、海洋空間計画の、EEZでの洋上風力発電の実施への適用を検討するものと解される。

ここで重要なことは、2018年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電に比べて、EEZでの洋上風力発電では、EEZの国際法制度に起因して、より一層、海洋空間計画が不可欠となることである。それは、EEZが広大な海域であり、かつ、EEZの海域利用は多様であり「複合的な海域利用」であるにはとどまらず、外国による利用もあるという理由による。これらの点に焦点をあてて、次項3.では、EEZの国際法制度を簡潔に説明することから始める。

3.海洋空間計画による国家利益の最大化

1EEZの国際法制度

①海域の国際法制度は、国際法の一分野である海洋法が規律する。以下では、日本も当事国である1982年国連海洋法条約(UNCLOS)を中心に参照する。必ずしも厳密ではないが、日本の国内法や政府文書では「海域利用」が用いられており、このコラムもそれに従っているが、国際法・海洋法では「海洋利用」と表現することが多いため、国際法・海洋法の文脈では、「海洋利用」を用いる。

1982年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電は、内水・領海を想定している。UNCLOSは、領海を沿岸から12カイリの海域とし、そこには、原則として、沿岸国の主権が及ぶ。「原則として」というのは、海上交通の特殊性・必要性により、外国船舶は領海で「無害通航権」という、沿岸国の秩序や治安を害さない限り通航できる権利をもち、沿岸国の主権は、その限りで制限を受けるからである。領海内で洋上風力発電を実施するに際しては、この無害通航権との調整が必要となるが、ここでは、その指摘にとどめる。内水は、港・湾・河口等であり、外国船舶の無害通航権はなく、その意味で、沿岸国の主権が完全に及ぶ海域といえる。

③領海と比較して、EEZは、沿岸から200カイリまでの海域であり、領海よりもはるかに広大である。200カイリを超えるその先には、公海が広がる。

EEZでは、UNCLOSが定める事項についてのみ、沿岸国は権利、すなわち、主権的権利あるいは管轄権をもつ。以下、主権的権利と管轄権を区別しないで、権利とする。天然資源(生物資源・非生物資源)の探査・開発、エネルギー生産、海洋環境の保護・保全、海洋科学調査、施設・構築物等について、沿岸国は権利をもつ。洋上風力発電という海上風力によるエネルギー生産は、沿岸国の権利が及ぶ事項である。

公海では、すべての国が、航行、漁業、海底パイプライン・ケーブル敷設、海洋科学調査等を行う自由をもち、国際規律に従ってこれを行使する。

④第4期海洋基本計画にいう「複合的な」海域利用は、EEZの国際法制度における最大の特徴により、まさに「複合的」であり、外国による利用も含む「多様で複雑な」海域利用となる。その特徴とは、UNCLOSが、海域についての「機能的分割」を導入していることにある。単純に物理的に海域が区分される「場所的・空間的分割」とは異なり、「機能的分割」は、事項や機能により海域を分割する。端的にいえば、物理的には同じ海域が、事項・機能によって、法的には異なる処理をうける。

洋上風力発電に注目すると、EEZでは、一方で、沿岸国が洋上風力発電というエネルギー生産について権利をもつ。他方で、沿岸国が権利をもつ事項以外の事項については、同じ海域で、沿岸国だけではなくすべての国が、航行の自由を中心とする、公海におけるのと同じ海洋利用の自由をもつ。機能的海域分割の結果、洋上風力発電を実施するに際しては、同じ海域で諸外国がもつ海洋利用の自由との調整が、不可欠となる。それは、洋上風力発電を実施する沿岸国の国際法上の義務である。

2)再エネ海域利用法改正案に基づくEEZにおける洋上風力発電

①先に確認したように、第4期海洋基本計画は、2018年再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進海域等の設定を、海洋空間計画の一形態と位置付ける。「促進海域の設定」とは、洋上風力発電の実施海域の選定であり決定である。その選定に際しては、他の海域利用、とくに、漁業と調整が重要とされる。

海洋空間計画とは、洋上風力発電・漁業・航行・海洋科学調査・海底パイプラインおよびケーブルの敷設・レジャー等の多様な海域利用について、利益や利害関係の相互調整をはかりながら、どの海域ではどの利用を優先するかという選択と優先順位の決定を本旨とする。計画の主たる目的は、海域利用による利益を最大化することにある。計画の策定には、MDAによる情報の集約と“海しる”による多様で複合的な海域利用の可視化が有用であり不可欠である。上記の2.(1)で紹介した、内閣府総合海洋政策推進事務局が主催した「海洋データ利活用を通じた地域活性化シンポジウム」で、主催者による趣旨説明と基調講演が、第4期海洋基本計画における海洋空間計画の記載に即しながら、MDAによる情報集約、それを複合的な海域利用として可視化する“海しる”に基づく海洋空間計画を喧伝したのは、そうした趣旨を反映してのことであろう。

2018年再エネ海域利用法は、内水・領海での洋上風力発電を想定する。再エネ海域利用法改正案は、EEZにおける洋上風力発電の実施を目的とする改正である。

領海に比べて、EEZは、はるかに広大であり、そこでの海域利用は、外国による利用も含めて、はるかに「複合的」であり「多様・複雑」である。それゆえに、どの海域で洋上風力発電を実施するか、どの利用を優先するか、それによりどのように海域利用による利益を最大化するかという海洋空間計画の策定は、相当に難しくなる。けれども、国家としてそのような計画の策定は、不可欠である。なぜなら、広大な海域で、複合的で多様な海域利用が展開されるのであり、そこから生み出される利益を最適な方法で最大化することは、国家全体の利益を著しく左右するからである。外国による海域利用と日本の海域利用との調整も、対外関係の円滑化・友好関係の維持と促進という利益に資する。日本は、近隣国とのEEZの境界画定を課題として持ち続けていることに鑑みると、一層、この点は重要となる。

そもそも、広大なEEZのどこで、そして、多様・複雑で複合的な利用がある中で、なぜ洋上風力発電を選ぶのか、それらを決定する計画である海洋空間計画を経なければ、その回答は得られないはずである。

③再エネ海域利用法改正案では、たとえば次の条文が、洋上風力発電の実施海域の決定に際しての、多様で複合的な海域利用間の調整や海洋空間計画の策定に関わりうる。

洋上風力発電実施海域について、募集区域を指定し(32条)、その指定に際しては、自然的条件(3211)、漁業(同2)、海洋環境(同3)に係る基準への適合を求め、EEZにおける発電設備の設置の仮地位(仮許可)を付与するに際して、申請者が提出すべき設置計画案に記載する事項には、「関係漁業者その他の利害関係者との調整体制」を含み(33313)、申請者に仮許可を付与(34条)した場合に、経済産業大臣及び国土交通大臣は、農林水産大臣、仮許可事業者、漁業者の団体その他の利害関係者、学識経験者等を構成員とする協議会を組織し(36条)、洋上風力発電の許可を付与する基準には、航路や漁業の考慮を含む(3814および5)。また、政府が策定する、海洋再生可能エネルギー発電設備に関する施策の総合的かつ計画的な推進をはかるための基本方針(6条)も、海洋空間計画に関わるかもしれない。

④先に説明したように、EEZでは、外国による海域利用がある。これについては、再エネ海域利用法改正案には、航路への考慮(3814)があるものの、外国による航行・海洋科学調査・海底パイプラインおよびケーブル敷設などへの考慮については、具体的な規定は見出しにくい。国際法との整合性について、国際約束の誠実な履行(48条)が、雑則の中に置かれているのみである。

4.おわりに

1)海洋空間計画の策定主体

再エネ海域利用法改正案では、海洋空間計画への明確な言及はない。海洋空間計画を構成しうる手続きや制度、考慮する要因等の規定があるのみである。なによりも、海洋空間計画が策定されるとしても、その主体が明らかではない。

再エネ海域利用法改正案では、ほとんどの手続きや制度は、経済産業省、国土交通省、環境省が実施する。EEZについての海洋空間計画は、国が主体となるべきである。2018年再エネ海域利用法が、地方自治体の機能や任務を規定していることに比べて、再エネ海域利用法改正案では、国の機関が機能や任務をになうことが顕著である。けれども、ここにあげた省が、「国として」「オールジャパン」の決定を担う主体として機能するかについては、不明である。上記の2.(1)で紹介した内閣府総合海洋政策推進事務局主催の「海洋データ利活用を通じた地域活性化シンポジウム」は、第4期海洋基本計画における海洋空間計画の記載に即しながら、MDAによる情報集約、それを複合的な海域利用として可視化する“海しる”に基づく海洋空間計画を喧伝した。MDAにより集約される情報の、類型化と具体的な情報の分類にはここでは踏み込まない。けれども、国の防衛に係る情報、つまり、秘とされる情報もある。そうした情報も認識できる主体が、万全で十分な情報をふまえて、海洋空間計画を策定しなければならない。

日本は、権利が及ぶ海域の面積において世界第6位であることを、国は繰り返し表明している。その広大な海域で、海域利用からの利益を最大化するための決定、すなわち、海洋空間計画は、国の政策として策定されるべきである。それが、海洋国家のあるべき姿であり、海洋立国を唱えるとは、そういうことであろう。

2)海洋空間計画の契機としての洋上風力発電

広大なEEZの全域に、ただちに海洋空間計画を策定することは、もちろん、困難である。別稿で論じたように、だからこそ、洋上風力発電を契機として、海洋空間計画に着手することが実施可能な一歩となるはずである。また、多様な要因や海域利用間の調整という点でも、日本は、海洋保護区の実践により、経験を積んできている。これも別稿で論じたように、「広くて大きい海」から、「閉じた大きな水槽としての海」への、発想の転換が求められよう。

3)主権国家・沿岸国としてのあるべき姿

国際法において、日本は主権国家であり、EEZ沿岸国である。EEZでの洋上風力発電に係る国際法上の諸問題の検討は別稿に譲るが、次の点は強調しておきたい。EEZのどの海域で何をしたいかが、「オールジャパン」としての国の意思であり政策として決定されなければ、外国による海洋利用と日本の海洋利用とを対等に付き合わせて、EEZ沿岸国として、国益を最大化するEEZの海洋利用を導くことはできない。UNCLOSは、EEZにおいて、沿岸国と外国は、それぞれの海洋利用に妥当な考慮(due regard)を払う義務を課す。それは、沿岸国としていかなる海洋利用をするかの意思決定が当然の前提であり、その遂行に際して外国による利用に妥当な考慮を払うという義務である。沿岸国としての確固たる意思決定がなければ、妥当な考慮は、単なる外国への忖度に堕するであろう。それは、主権国家の名に値しないともいえる。

4)意思の作用としての「計画」

複合的な海域利用から、選択をし、優先順位を設定して、海域と海域利用を決定するのが、海洋国家である国の意思決定としての海洋空間計画である。MDAにより集約した情報を、“海しる”により可視化することで、複合的な海域利用が生み出す利益や対立しうる利害関係が明らかになる。それらの調整は、重要であり不可欠である。ただし、重要なことは、計画とは、そうした利益や利害関係の「調整」にとどまるものではないということである。計画とは、調整を超えて、選択・優先順位の決定という意思の作用をいう。それが、常識が教える「計画」という言葉がもつ意味である。


【参照】

  • 海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案および関連文書
    https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250307001/20250307001.html
  • 内閣府総合海洋政策推進事務局長の私的懇談会「排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会―とりまとめ」(令和5131日), https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/energy/pdf/torimatome.pdf
  • 2023年第4期海洋基本計画https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/plan/plan04/pdf/keikaku_honbun.pdf
  • 2018年第3期海洋基本計画
    https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/plan/plan03/pdf/plan03.pdf
  • 日本海洋政策学会・日本沿岸域学会合同アピール委員会「海洋・沿岸域の総合的権利の実現に向けたアピール~第4期海洋基本計画への政策提言~」
    https://www.jaczs.com/03-journal/teigen-tou/2020ap/jaczs2021.pdf(日本沿岸域学会学会のHPにリンクが掲載されている)

【海洋空間計画に関する筆者の拙稿等】

  • 「海洋空間計画:『広くて大きい海』から『閉じた大きな水槽としての海』へ」、運輸総合研究所『運輸総研だより』2023年夏号、Vol. 7, p. 3, https://www.jttri.or.jp/dayori_07.pdf
  • 「『海洋大国』『海洋立国』の国家戦略―洋上風力発電に係る海洋空間計画」、内外情勢調査会『J2TOP, Vol. 192, 15-17
  • 「海洋基本計画の主柱及び主要施策の提言―第4期海洋基本計画とそれを超えて―」、笹川平和財団海洋政策研究所『海洋政策研究』、第17号(2023年)116
  • ”Double Aspects of Being a Sovereign State: Positive and Passive Aspects,”キヤノングローバル戦略研究所、https://cigs.canon/article/20240611_8158.html
  • インタビュー「洋上風力設置区域EEZに拡大」、公明新聞20243203
    (再掲)https://cigs.canon/article/20240507_8076.html