農業は、自然的要因(天候不順や水災害など)の影響を受けやすく、地球温暖化による悪影響が特に心配される分野である。この影響を調べる上で、地球温暖化と都市熱(ヒートアイランド)により3℃近くの気温上昇を経験してきた「江戸東京野菜」は有用な研究材料である(堅田、2021a、2021b)。そこで、「江戸東京野菜」の一つである練馬ダイコンの栽培を江戸時代から200年以上続けている農家に聞き取りしたところ、秋冬の霜の消失が気温上昇の便益であったという。気象データでも、都市熱による気温上昇は秋冬にかけて特に大きく、東京の初霜日(その年の秋から冬にかけて最初に霜の降りた日)は過去100年間で1ヶ月ほど遅くなったことが確認できる。農家はこれに合わせてより短期間で同じ重さのダイコンを作りつつ、ダイコン収穫の前に別の作物を新たに栽培できるようになった。冬野菜の栽培については、将来、地球温暖化が進行することによってその好影響に適応するシナリオを描くことができるかもしれない。
1 気温上昇は冬の作物にとって悪影響?... 2
2 霜発生の遅れで容易になった練馬ダイコン栽培... 3
3 過去100年間の生育環境の変化... 5
4 温暖化影響の解明に役立つ江戸東京野菜... 9
文献... 10
【研究ノート】江戸東京野菜の考察シリーズ