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中国は台湾有事をどう戦うのか―RAND研究者の分析が明かす「認知戦を中核に据えた台北無力化構想」(2026年7月)

米国の安全保障専門メディア「War on the Rocks」は、ランド研究所(RAND)のハワード・ワン氏とネイサン・ボーシャン=ムスタファガ氏による論考を掲載した。

タイトルは「台北への総力戦:中国は認知効果を戦争構想の中核へ引き上げることを模索」(Total War on Taipei: China Explores Elevating Cognitive Effects into Its Vision of Warfare)。この論考が注目されるのは、中国の軍事研究者が2025年3月、台北を迅速に占領・無力化するための具体的な作戦構想を発表していたことを明らかにした点にある。

中国軍が描く「国家総力戦」戦略と「台北無力化」構想

その構想は、限られた軍事関係者の間で流通しているもので、中国が勝利するためには、「都市が外部から支援を受ける能力を遮断する」「都市が作戦を支援する能力を制限する」「都市の作戦システムを崩壊させる」「都市の認知的結束力を破壊する」「都市の復旧能力を奪う」といった手段を組み合わせるべきだとする。最終的な狙いは、台湾社会の抵抗意思そのものを崩壊させることにある。

解放軍の軍事理論研究における主要な内部誌『軍事学術(Military Art)』は2025年3月、「全領域型メガシティ無力化戦(all-domain megacity incapacitation warfare)」という構想を提示した。そこでは、解放軍が軍事的火力と認知効果を統合し、台北を制圧するシナリオが詳細に描かれている。中国がどのように軍事戦略を考え、台湾海峡での戦争をどのように設計しようとしているのかを知るための、極めて珍しい手がかりである。

ここで示された枠組みは、中国が近年打ち出している「国家総力戦(national total war)」の戦略と、「認知領域作戦(cognitive domain operations)」を結びつけたものだ。「国家総力戦」とは、国家全体を動員する考え方である。一方、「認知領域作戦」とは、人間や組織が意思決定を行う心理・認知空間に働きかける作戦を意味する。この二つの戦略については、いまだ公開情報が限られている。特に、それが中国軍による「台湾攻略」という主要任務をどのように支えるのかについては、十分に解明されていない。

中国が掲げる「国家総力戦」は、伝統的な意味での総力戦とは少し異なる。歴史家ウィリアムソン・マーレー(Williamson Murray)は2023年、伝統的な総力戦を「道徳的、政治的な制約を含め、いかなる制約も受けない戦争」と説明した。これに対して中国がいう「国家総力戦」とは、平時から国家全体を動員し、民間の能力を構築しておき、紛争が発生した際には、それを戦争遂行能力へと転換する考え方である。

特に念頭に置かれているのが、米国との対抗だ。この戦略の根底には、中国共産党が数十年にわたって抱いてきた一つの基本認識がある。それは、現代戦争とは単に国家の軍隊同士が戦うものではなく、国家を構成する複数のシステムが、相互に重なり合った総体として衝突するものだという考え方である。1990年代、中国指導部はシステム工学的な手法によって国家全体の能力を統合・強化し、中国の国際的影響力を高めようとした。この考え方は「総合国力」と呼ばれた。さらに解放軍は、1991年の湾岸戦争、1999年のコソボ紛争で米軍が示した情報化された戦争のあり方を観察し、システム思考を軍事作戦へと応用していった。そこでは戦争を、単純な「軍隊対軍隊」の戦いではなく、敵の作戦システムそのものを破壊する戦いとして捉え直した。

解放軍はその結果、「システム対抗」を情報化時代の統合作戦における「基本的な作戦方式」と位置付けるようになった。そして新型コロナウイルスのパンデミックを経て、この考え方は軍事作戦システムから、さらに社会全体の動員へと拡大していく。習近平国家主席は、中国の新型コロナ対策を「人民戦争」と表現した。中国の官製メディアも、社会全体を第二次世界大戦型の「総力戦」のように動員すべきだと主張してきた。その発想では、「全国民が兵士となり、軍隊が国家戦争システムの中心となり、その他の国家的手段が軍隊を中心に動く」ことになる。これらの取り組みが「人民戦争」と「システム対抗」の考え方を結びつけ、最終的に正式な「国家総力戦」戦略に発展していった。

これは単なる「軍民融合」に基づく軍の近代化や兵器調達ではない。中国のメディア、金融システムなど、非軍事部門までもが国家レベルで軍と連携し、紛争が発生した際に軍事作戦に直接的な効果をもたらすことが求められている。中国軍上層部の説明によれば、国家総力戦はすでに中国の国家・軍事戦略の一部となっている。習近平氏の「強軍思想」に組み込まれ、同時に、中国軍の最高レベルの軍事戦略である「新時代の軍事戦略方針」にも位置付けられている。

今回の「台北無力化」構想では、敵の巨大都市そのものを、一つの「敵システム」として捉えている。研究の中で「台北」という名称が明示されているわけではない。しかし、「強大な敵の介入を同時に防ぎながら作戦を遂行する」といった記述から考えれば、ここでいう「強大な敵」とは、台湾海峡有事に介入する可能性のある米国を指しているとみるのが自然だ。さらに、中国がこの都市を奪取する際に「事実、法的正当性、感情的共鳴」を有するといった記述もあり、台湾への攻撃を想定した構想であることを強く示唆している。

この構想の中心に置かれているのが「無力化」という概念だ。つまり、都市を完全に破壊することではなく、相手を屈服させることが目的なのである。中国がこれまで「無力化戦」と呼んできたものは、音響兵器やレーザー兵器など、非運動エネルギー型の手段によって人体を直接攻撃し、敵兵を殺害することなく戦闘能力を奪うという考え方だった。今回の「台北無力化戦」は、その対象をさらに拡大する。敵の都市そのもの、そして都市住民までを作戦対象に含め、そこに認知攻撃を組み合わせるのである。

研究によれば、この作戦方式は「都市全体を占領すること」や「敵軍を大規模に殲滅すること」を必ずしも目的としない。むしろ巨大都市の支援機能を弱体化させ、敵の作戦システムにおける重要なノードを攻撃することで、目的を達成しようとする。中国にとっては、台北を支配するためのコストを可能な限り引き下げる構想だ。しかし、その一方で、この構想からは、軍事作戦によって台湾の民間人が被る被害について、それほど大きな関心が払われていないこともうかがえる。

三つの作戦軸

この構想では、台北を無力化するための基本的な作戦軸として、封鎖、精密攻撃、認知攻撃の三つが示されている。

第一は、封鎖である。台北への軍事封鎖を実施し、都市に流入する物資と情報を遮断する。物資の供給を断つため、中国軍は包囲戦に近い手法を用いて外部からの支援を阻止し、援助物資を運ぶ輸送路や部隊を攻撃することが想定される。情報の流れについては、台北の指揮所や通信ハブを精密な「ハードキル」、あるいは「物理的な攻撃」で破壊する。同時に、妨害、サイバー攻撃、分散型サービス拒否攻撃(DDoS)、AIによるディープフェイク技術などの「ソフトキル」を組み合わせ、台北の軍事情報システムだけでなく、民間ニュースネットワークやソーシャルメディアのサービスまで弱体化させる。

第二は、精密な物理的打撃である。狙いは、台北が軍事行動を支援・継続する能力を破壊することだ。中国の無人プラットフォームや特殊部隊は「斬首攻撃」を実施し、敵の指揮官、重要施設、重要装備の運用要員などを標的にする。また特殊部隊は、武力あるいは買収などの手段によって、中国軍が上陸した後に作戦を支援できる施設を掌握することも想定されている。対象となるのは、電力網や整備拠点などだ。さらに、中国の長距離火砲や特殊部隊は、軍隊や軍事作戦を支える民間インフラも攻撃する。空港の滑走路、変電所、下水処理施設、各種施設のバックアップシステムなどがその対象となる。ただし研究は、戦後の再建が困難になる目標については攻撃を避けるべきだとも指摘している。たとえば、航空管制塔、発電所、ダムなどに対する攻撃は避けるべきである。その理由は明快だ。中国が将来台湾を占領した際、これらの施設をそのまま利用できるようにするためである。

第三は、認知攻撃である。中国の宣伝機構を通じて特定のメッセージを拡散し、台湾の人々に中国の行動が正当であると思わせる。同時に、台湾政府に職務怠慢や不正行為があると印象付ける。そのためにアルゴリズムによる情報拡散、ディープフェイク、「情報弾薬」などを利用し、台北の軍人と民間人の双方に「情報の泡」と「エコーチェンバー」を形成することが想定されている。そして、「情報弾薬」はTikTokなどに「隠される」。ここでいう「情報弾薬」は、MetaやTikTokなどのプラットフォーム上に投稿される動画や画像の中に「隠される」という。研究の見立てでは、中国側はすでに台湾や米国で利用されているソーシャルメディアに浸透している。そのため、こうした認知攻撃を組み合わせれば、台北の抵抗意思を弱体化させ、最終的には「敵対行動を迅速に停止させる」ことが可能になる。それが台北を奪取するための「最善の手段」だという。

米国の分析やウォーゲームでは、動能的な攻撃と認知効果を組み合わせた戦い方が十分に研究されてこなかった。しかし、中国軍にとってこれは決して新しい発想ではない。2000年代初頭には、中国が提唱した「三戦」の中ですでに「ネット世論戦」に相当する概念が発展していた。解放軍の主要な影響力工作部隊とされる「311基地」は、2018年にもFacebookのグループへどのように入り込むかについての運用指南を発表している。中国はこうした概念を、実際の能力へと転換する努力も続けてきた。2018年にソーシャルメディアを利用して台湾の選挙に影響を与えようとしたことをはじめ、近年ではベトナムに対しても類似した手法を用いている。今回の作戦構想が認知作戦を重要な位置に置いたことは、中国の一部の軍事戦略家が、認知効果を軍事計画そのものに組み込もうとしていることを示している。

米国と台湾の安全保障分析者は、この構想を軽視すべきではない。なぜなら、これは中央軍事委員会の監督下にある解放軍の主要な内部誌に掲載されており、中国の最高レベルの軍事戦略とも明らかに整合しているからだ。確かに、現時点では正式な軍事ドクトリンではない。しかし、「野心的な研究者が思いついた、現実離れした構想」と片付けるべきでもない。「全領域型都市無力化戦」は、中国軍の作戦思想を理解するうえで、極めて重要かつ珍しい窓口となる。それは、「国家総力戦」という戦略の下で、中国軍がどのように新しい戦い方を発展させようとしているのかを映し出している。そして同時に、中国が実際に採用する可能性のある軍事戦略だけでなく、中国の軍事政策・研究コミュニティの一部が現代戦争をどのように理解しているのかも示している。

なぜ認知戦なのか

第一に、研究者は「システム対抗」の主要な攻撃対象を、情報の流れから認知効果へと移そうとしている。従来の「システム対抗」では、軍事作戦システムの情報ノードを破壊し、敵軍が必要な情報を得られない状態にすることで、作戦能力を麻痺させることを狙っていた。しかし今回の枠組みは、より単純な論理に立っている。もし戦争の目的が敵を完全に殲滅することではないのであれば、最終的に敵は敗北を受け入れなければならない。ならば、戦争の焦点は敵の指導者の認知に働きかけ、敗北を受け入れさせることに置くべきだ――というわけだ。

この構想が示しているのは、北京が台北を迅速に降伏させるための一つの方法である。すなわち、台北の戦闘意思を破壊することだ。伝統的な軍事行動は、そのための認知効果を生み出す手段として位置付けられる。中国は、敵を物理的に完全破壊するのではなく、認知的に屈服させることで勝利を得ようとしている。そうすることで、長期戦、軍事占領、さらには反乱鎮圧作戦に伴うコストを回避できるからだ。

第二に、この構想は台北市全体を一つの攻撃対象となり得る「システム」として捉えている。これは、合法的な攻撃対象の範囲を大きく拡大する考え方だ。通常、「システム対抗」では、民間目標への攻撃を避けることで、巻き添え被害や紛争拡大のリスクを抑える。対象は軍事目標、あるいは軍民両用の性格を持つ施設や情報経路に限定される。しかし今回の新たな構想では、紛争の初期段階から、台北市民と外部世界をつなぐ通信経路や施設を攻撃することが計画されている。なぜなら、情報を全面的に支配することが、混乱を抑え、認知攻撃を有効に機能させるための必要条件だからである。

これは決して新しい概念ではない。しかし、今回の研究はそれを再び前面に押し出し、動能的な攻撃と同等の重要性を持つ作戦要素へと引き上げている。

第三に、研究者は非軍事的能力を中国軍の作戦に組み込む必要性を主張し、国家レベルの政策調整体制が「現代戦争におけるシステム対抗の重要な担い手」になると指摘する。この枠組みでは、認知効果は軍事火力と同じほど重要であり、中国の民間社会がその認知効果を生み出す役割を担う。軍事力と民間の力を調整し、「観念を再形成する」ことによって中国側のナラティブを支える。その統合機構は、多様でアクセスしやすく、魅力的なメディア形式を通じて中国側の物語を広く拡散する。それによって中国は戦争をめぐるナラティブの主導権を握り、台湾の軍人や市民に中国側の理念を受け入れさせる。それが、台北を「無力化」する過程で決定的な役割を果たすことになる。

対米戦争への意味

「全領域型無力化戦」は、当初は台北を対象として設計された構想だった。しかし、軍事作戦の概念が一度きりしか使われないことはない。この構想の最も重要な意味は、中国が軍事資源と民間資源を統合し、物理的打撃による攻撃と認知効果を同時に生み出すことで、「国家総力戦」を実現しようとしている点にある。そして、この論理は将来的に米国との戦争を中国が計画する際にも影響を及ぼす可能性がある。

中国の戦略立案者たちはすでに、米国に対して国家総力戦を仕掛けた場合、戦争がどのように展開するのかを検討している。中国軍の専門誌『中国軍事科学』の研究者たちは、米国に勝利するためには「総力戦における優勢を蓄積する」必要があると公に論じている。さらに、国家レベルの統合システムは、認知効果などの手段を利用して「覇権システムを瓦解させ、我が方の主要作戦方向が受ける圧力を軽減する」ことができると説明している。こうした認知攻撃の目的は、民衆の認識を操作し、社会的結束を弱め、中国側のナラティブを支持させ、最終的には敵に降伏を促すことにある。そして中国軍の作戦概念が成熟し続け、AI技術によって民間人を対象とした認知効果を生み出す新たな技術や経路が増えていけば、この問題はさらに深刻になるだろう。

これまで米国で公開されてきた国防分析やウォーゲームの多くは、台湾が軍事封鎖や侵攻を受けた場合の物理的・動力学的な戦闘に焦点を当ててきた。台湾側の抵抗意思についても、将来の有事において自分ならどう行動するかを調査対象者に尋ねる、といった世論調査型の研究が中心である。戦時に中国側が台湾の抵抗意思そのものを標的として仕掛ける「認知攻撃」については、十分に研究されてこなかった。

しかし、台湾有事を考える際、戦車、ミサイル、艦艇、航空機だけを見ていては、中国が描く戦争の全体像を捉えることはできない。中国が想定しているのは、軍事力によって敵の物理的な能力を破壊するだけの戦争ではない。情報を遮断し、インフラを麻痺させ、社会の結束を揺さぶり、そして人々の認識そのものを変える。軍事と民間、物理空間と情報空間、そして戦場と社会の境界を曖昧にしながら、相手に「戦うことをやめさせる」。それが、中国が構想する新しい戦争の一つの姿のようだ。

まだ正式な軍事ドクトリンではないものの、この構想は、中国軍が将来の戦争をどのように理解し、どの方向へ発展させようとしているのかを示す、重要な手がかりの一つといえるだろう。

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