中国側の工作活動に協力したとして起訴された台湾人実業家・鍾順和(公判中に死亡)が、中国での事業活動中に人民解放軍関係者に取り込まれ、帰台後に軍関係者らへの浸透工作を行っていた実態が台湾当局の捜査で明らかになった。その主要な対象の一人が、後に台米軍事協力に関する情報などを中国側へ提供したとして有罪判決を受けた元空軍官校処長の張銘哲(階級は上校〈大佐相当〉)だった。
台湾高等検察署台中支部の捜査によれば、鍾は2019年9月、張をインドネシア・バリ島へ渡航させ、広東省海外連絡弁公室に所属する人民解放軍関係者3人と面会するよう手配した。張は所属部隊や職務、家族構成などの個人情報を提供し、その見返りとして「初回接触の謝礼」として1万ドル(約150万円)を受け取ったという。
さらに捜査では、張が組織の正式な協力者として取り込まれ、毎月1万5,000人民元(約30万円)の活動費を受領していたほか、春節・端午節・中秋節には別途ボーナスも支給されていたことが判明した。4年間で受け取った不正な利益は約134万台湾元(約670万円)に上る。張は台湾空軍の演習資料や、台湾と米国による協力任務の内容・配置、軍内部の人事情報などの機密性の高い情報を提供したほか、台湾の政党動向や社会世論に関する情報も収集して報告していたとされる。
また、空軍第三聯隊所属の葉冠祁中佐についても、2023年から鍾の接触を受けていたことが判明した。検察は、葉がシンガポールで人民解放軍関係者と面会し、指示に従って個人情報や軍の身分証画像を提供したほか、地方の村里長の取り込みや、親族・知人の中国招待に関する情報収集への協力を約束し、その対価として計約1万ドル(約150万円)を受け取った疑いがあるとしている。
台中高等検察署台中支部は2025年3月、国家安全法違反の罪で張、葉、鍾3人を起訴し、厳罰を求めた。同年9月、台湾高等法院台中支部は一審判決で、張被告に国家安全法違反の罪で懲役16年、不法所得の没収を言い渡した。一方、葉については証拠不十分として無罪を言い渡し、鍾は公判中に死亡したため、公訴棄却となっていた。その後、検察側が最高法院へ上訴。最高法院は審理の結果、張被告について「域外勢力のために組織を発展させた罪」で懲役11年を確定させた。一方で、軍事機密の探知・収集に関する2件については、原判決を破棄し、台中高等法院へ差し戻していた。
差し戻し審で台中高等法院は2026年7月29日、軍事機密探知罪で懲役3年、軍事機密収集罪で懲役4年を言い渡した。先に最高法院で確定した懲役11年と合わせた最終的な執行刑はなお確定しておらず、事件は引き続き上訴が可能な状態となっている。