CIGS中国研究センター

現地報道からの情報
台湾当局が詳細分析
中国ネット工作部隊が軍事演習期間中に認知戦を同時並行で展開(2026年1月)

台湾の国家安全チームは、中国人民解放軍が2025年12月29日から31日にかけて実施した軍事演習期間中、ネット工作部隊が台湾の大型掲示板「PTT」に投稿した計47本の文章を分析した。その結果、今回の情報操作は極めて高い組織性と協調性を備えており、「5大ナラティブ」「6段階の時間軸」「分層化された心理攻撃」という体系的な設計を通じて、「台湾社会に投降主義的心理を浸透させる」ことを明確な宣伝目標としていたことが判明した。

中国解放軍東部戦区は2025年12月29日、突如としてコードネーム「正義使命―2025」の軍事演習実施を発表した。台湾の国家安全チームによれば、同日午前7時45分、PTT上に演習発表に関する最初の投稿が確認された時点から、すでにソーシャルメディア空間では認知戦が同時並行で展開されていたという。

演習期間中に確認された関連投稿は計47本に上り、複数のアカウントに分散し、投稿時間や文体も多様であった。一見すると断片的な意見交換のように見えるこれらの投稿は、実際には一貫した心理的攻撃ロジックに基づき、事前に周到に設計された認知戦戦術であったと分析されている。

5大ナラティブ

同チーム関係者の分析によると、今回の情報操作では以下の5つのナラティブが相互に連動して用いられていた。

①「疑美論」
国際ニュースを装った情報を根拠に、「米国の支援は信頼できない」「台湾は国際社会から孤立している」と論じ、米国の支援が期待できない以上、抵抗は無意味であるとの認識を誘導することで、台湾社会における対米信頼を切り崩そうとする。

②「恐慌論」
「無能」、「投降」、「砲灰」、「分裂」といった語彙を高頻度で繰り返し使用し、「防衛線が後退している」という錯覚を作り出す。数値や事例を積み重ねて恐怖感を増幅させ、台湾政府が無能であるかのような虚偽の印象を形成しつつ、社会内部の分断を段階的に深め、最終的に降伏心理を醸成することを狙う。

③「疑頼論」
頼清徳総統が個人的な政治目的で中国を挑発し、その結果として軍事演習を招き、無辜の市民が被害を受けていると主張する。批判と皮肉を織り交ぜた語調を使い分けることで、総統および政権の指導力と威信を弱体化させようとする。

④「疑軍論」
台湾軍は解放軍を阻止できない、購入した武器は役に立たない、軍人に忠誠心がなく士気が崩壊している、といった印象を植え付けることで、台湾軍の戦力と自信を瓦解させ、民衆の抵抗意志を破壊しようとする。

⑤「中国強大論」
中国の軍事演習が台湾領海付近まで接近していることや、長距離打撃能力が台湾北部の政治・経済中枢を射程に収めていると強調し、中国の軍事力が着実に増強され、台湾の防衛線が崩壊しつつあり、「統一の時期が迫っている」とする情報操作を行う。中立的報道を装いながら中国に有利な情報のみを選択的に流布し、「恐慌論」と連動させて説得力を高める。

6段階で進行する心理操作

関係者は、これらのナラティブが無秩序に拡散されたのではなく、明確な時間軸に沿って6段階で展開された心理操作であったと指摘する。

第1段階: 軍事演習の現実化(12月29日7:00~13:00)
演習の実況や軍事データを大量に提示し、「中国脅威は現実である」という基礎認知を構築。警戒心と関心を喚起する。
第2段階: 政府への信頼攻撃(13:00~16:00)
「疑軍」、「疑頼」を用い、脅威の源を「敵軍」から「無能な政府」へとすり替え、政府への信頼を低下させる。
第3段階: 抵抗不能の演出(16:00~20:00)
領海侵入や防衛線崩壊を誇張し、事態が急速に悪化しているという幻覚を作り出す。
第4段階: 戦争不可避論(20:00~翌1:00)
「敗北は不可避」とする論調を強化し、恐慌から絶望へと心理状態をエスカレートさせる。
第5段階: 社会分断と心理分化(12月30日5:00~12:30)
アイデンティティー、軍人の忠誠、政党の決断を攻撃し、社会の結束を破壊する。
第6段階: 投降の合理化(14:00~20:30)
投降を「選択」ではなく「必然」と認識させ、抵抗意志を最終的に解体する。

4層の心理攻撃構造

さらに、今回の心理攻撃は以下の4層に分類できるとされる。

  1. 認知攻撃:大量情報で判断力を麻痺させ、無力感を生む
  2. 感情攻撃:恐怖と不安を反復的に刺激
  3. 信頼攻撃:敵への恐怖を政府批判へ転換
  4. 意志攻撃:投降を合理化し、抵抗の必要性を否定

組織的工作の特徴

分析対象となった投稿には、

  • 37時間以内に集中し休止がない「同時性」
  • 論理・キーワード・段階目標が一致する「内容協同性」
  • 媒体・形式が異なっても論理が完全に一致する「ナラティブ一貫性」

という特徴が見られ、単一組織による統一指揮と役割分担が強く示唆される。また、一般層・若年ネットユーザー・知識層といった受け手別ターゲティングも確認された。

国家安全チームは、今回の中国ネット工作部隊による宣伝活動を、現代認知戦の典型例と位置づけている。5大ナラティブ、6段階推進、4層心理攻撃という全面的かつ体系的設計により、短時間で高密度な情報操作を行い、台湾社会に「非対称戦争」を仕掛けた。その狙いは、防空ミサイルではなく人々の心であり、「戦わずして人の兵を屈せしめる」という戦略目標の実現にあると結論づけている。

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