米国のヴァンダービルト国家安全研究所は2025年、北京に所在する大企業「中科天璣」の内部資料を入手したとし、研究所のウェブサイト上で公開した。同文書によると、「中科天璣」は「共産党中央が香港、台湾、米中関係を重視しているため、党中央に情勢分析および世論操作の技術を提供した」とされている。
さらに資料の内容では、「中科天璣」のシステムはまずネット空間を監視し、世論に影響力を持つ人物を特定する。その上で、当該人物の心理傾向、価値観、さらには方言を含む使用言語まで分析し、AIによって「その人物に近い」アバターを生成するという。
これらのアバターは単に情報を一方的に発信するだけでなく、ソーシャルメディア上の利用者として自然な反応を示しながらターゲットと相互作用し、影響を与えることが可能だとされる。
また2025年10月には、ネット上で三本の録音データが流出した。その内容は二人の男性の対話とされる。この件を分析した日本の安全保障関係者は、録音は2018年台湾高雄市長選挙前に、解放軍傘下の戦略支援部隊所属「第56研究所」所長と、北京のデータ分析企業オーナーとの間で交わされた会話である可能性が高いと推測している。
録音の中で、所長とみられる人物は「この選挙は非常に重要だ。韓国瑜は当選できるとは思われていないが、必ず当選しなければならない」と発言。これに対し、企業オーナーとみられる人物は「我々の『データ量』はますます増加している。台湾のFacebookアカウントはすでに580万から600万あり、1000万まで増やす予定だ」と応じていた。
録音データでは直接的に選挙介入を言及していないものの、日本の安全保障関係者は、この所長が中国軍を代表し、韓国瑜(現立法院長)当選を実現するための介入行動を主導し、企業側に協力を求めていた可能性があると判断している。さらに録音は、2018年台湾地方選挙および2020年総統選挙に向けた選挙操作のため、総額2000万人民元(約22億円)の資金が用意されていたことを示唆している。
これに対し、韓国瑜立法院長は12月28日、Facebookで声明を発表し、「抹紅(共産党と関係があるかのように示唆すること)、抹黑(誹謗中傷)、抹臭(評判を貶めること)」といった行為は恥知らずであり、国家運営がうまくいかない際に責任の所在から目をそらすための手法だと批判した。また、王立強スパイ事件や向心夫妻の国家安全法違反関連事件(*注)、さらに今回の録音に登場する人物についても、いずれも面識はないと表明した。
また、鄭麗文国民党主席は取材に対し、出所不明の録音について「真偽の確認のできず、いかなる証拠もないにもかかわらずこれほど大々的に世論を誘導し、台湾社会に認知戦を仕掛けることができる。その背後にある悪意は極めて強く、やり方も粗暴だ」と批判した。一方で、鄭主席台湾の有権者と民主主義に対しては強い信頼を寄せているとも述べた。
*注
王立強スパイ事件は、2019年に自称・中国共産党元スパイが台湾選挙への中国介入を暴露したとされる事件であり、向心夫妻の国家安全法違反の疑いに関連する事件は、その証言をきっかけに台湾当局が捜査したものの、最終的に共諜行為は立証されなかった一連の司法案件である。