2025年10月、台湾の公共テレビがNHKのドキュメンタリー「中国・流出文章を追う」を放映した。その中で、かつて台湾で大きな論争を引き起こしたインド労働者関連の偽情報事件が取り上げられ、改めて注目を集めている。
この問題の発端は、Hindustan Times が2023年9月26日に報じた「台湾がインドと移住労働者に関する覚書を締結し、労働力不足の解消を目指す」というニュースだった。しかし同年11月中旬、台湾の一部メディアやネット掲示板は、Bloomberg などが伝えた「最大10万人のインド人労働者を募集する可能性がある」という内容を、「10万人のインド人労働者が台湾にやって来る」と断定的に歪曲し、さらに「インドは性暴行大国だ」「台湾は性暴行の島になる」といったセンセーショナルなフレーミングを強調して、社会的パニックを煽った。こうした論調は中国官製メディアにも引用され、プロパガンダ材料として利用された。
台湾民主実験室(*注)によれば、この情報操作には中国発の偽アカウントが関与していた。たとえば Radio Free Asia のX投稿のコメント欄には、台湾人になりすまし、若い女性の写真をプロフィールに使ったアカウントが複数現れ、「インド労働者の受け入れは台湾にとって不利益だ」「中国との協力のほうが良い」といったナラティブを拡散していた。また投稿文を分析すると、中国特有の用語が多く使われており、明らかに台湾華語の母語話者ではない書き方だったという。これらのアカウントの狙いは、中国に有利な言論環境を形成し、台湾とインドの関係に亀裂を生じさせることにある。
この偽情報は現実にも大きな影響を及ぼした。拡散から1か月以内に、Dcard(*注2) や LINE グループを通じて人々が動員され、12月3日には「反インド移住労働者デモ」が実際に開催された。また、この件に関連して多くのインフルエンサーがほぼ同一のテキストを用いて偽情報を広めていたことも確認されており、台湾民主実験室は背後に組織的な「影武者」の存在がある可能性を指摘している。
*1:台湾民主実験室(Doublethink Lab)は、台湾を拠点とする非政府組織で、偽情報や情報操作の分析を通じて民主主義を守るための調査・研究を行っている。
*2:Dcardは台湾発の匿名コミュニティ型SNS。大学生や若年層を中心に人気がある。