CIGS中国研究センター

法的根拠・公式見解
台湾国家安全局、2025年中国対台湾認知戦手段分析を発表(2026年1月)

台湾の国家安全局は、2025年の中国の対台湾認知戦の手段について分析結果を発表した。概要は以下の通り。

2025年、中国は党務・政務・軍務の各システムを総動員し、台湾に対して全面的な認知戦を展開した。官宣平臺(公式な宣伝プラットフォーム)にとどまらず、中国は官民協力の形態を通じて周辺的な協力組織と結合し、テクノロジー手段を用いて台湾の言論空間へ浸透し、「台湾統一」に有利な世論環境の構築を図っている。

一、戦略目標

中国は台湾を併合する目的のもと、長年にわたり、匿名による中傷や暴露、サイバー部隊による世論操作、行動が不自然なアカウントを用いた情報拡散、対外宣伝の拡大など、複合的な手法を駆使してきた。これにより台湾社会に争点や混乱を持ち込み、世論を特定の方向へ誘導しようとしている。

特に中国は、「疑美」「疑軍」「疑賴」(米国・軍隊・頼政権への不信)というナラティブに焦点を当て、特定の議題を選択して煽動を行い、「台湾内部の対立を激化させる」、「台湾人の抵抗意志を弱体化させる」、「友好国による台湾支援の意思に影響を与える」、「中国の立場に対する認同を獲得する」という四つの戦略目標の達成を目指している。

二、協力組織と五つの主要手段

中国の党・政・軍システムは、認知戦の目標に応じてナラティブのテーマと基調を設定し、情報テクノロジー企業、PR会社、ネット工作員などの協力組織を動員している。これらの組織は台湾社会の実態を調査した上で、ソーシャルメディアプラットフォームやフェイクサイトなどを活用し、台湾の特定ターゲットに対して偽情報を流布している。

中国の対台湾認知戦は、主に以下の五つの手段を、状況に応じて柔軟に組み合わせながら実施されている。

1、データ分析による社会実態の把握

中国共産党中央網絡安全和信息化委員会弁公室と中国国家互聯網信息弁公室(網信弁)、国家安全部、人民解放軍政治工作部などは、「中科天璣」「美亜柏科」などのテクノロジー企業を指導し、Webクローラ技術や自動化データ収集プログラムを用いて大量のオンライン情報を収集している。

これらの機関は、台湾の政治人物、民意代表、インフルエンサーを対象に、個人情報、人間関係ネットワーク、中国に対する立場などを体系的にデータベース化し、その成果を精密な宣伝や特定人物を狙った中傷に活用している。

また、「沃民高新」などの企業は、台湾の選挙期間における候補者の発言、世論調査データ、ネット上の支持率などを整理・分析し、選挙情勢を把握している。さらに、台湾で利用されるソーシャルメディア上の投稿、コメント、いいね数などのデータを収集し、国内政治、両岸関係、国際問題に対する台湾社会の見方や世論の変化を分析している。

2、多元的ツールを用いた偽情報の流布

中国が台湾に対して偽情報を流布するために使用するツールは極めて多様である。主な手法は以下のとおりである。

(1)フェイクサイト
中国共産党中央委員会宣伝部および公安部は、「海訊社」、「海売」、「虎牙」などのPR会社を通じてフェイクニュースサイトを構築し、中立的なニュースサイトを装った名称を使用している。これらのサイトは、Asia Korea、Austria Weekly などの国際メディアをなりすまし、中国の公式ナラティブ拡散に協力することで、情報環境の混乱を図っている。

(2)コンテンツファームおよび行動異常チャンネル
中国は「無辺界集団」などのPR会社を支援し、Facebook上でコンテンツファームを運営している。これらの管理者の多くは香港のIPアドレスを使用し、煽動的な文章を投稿して閲覧数を稼いでいる。

また、ThreadsやXなどのプラットフォームでは、日常生活や娯楽といった「ソフトな話題」を投稿するアカウントを作成し、一定の影響力を獲得した後、政治的内容を拡散することで台湾人の認知に影響を与えようとしている。

3、行動異常アカウントによる世論環境への浸透

中国公安部は「龍橋」と呼ばれるネット工作員集団を運用し、20以上の言語を用いて、RedditやBlogSpotなど世界180以上のソーシャルメディアプラットフォームで影響力作戦を展開している。同集団は他のPR会社とも協力関係を構築している。

近年では、日本のPixivや台湾のFacebook、痞客邦などのプラットフォームにおいて、「高市首相が台湾海峡衝突を煽動している」といった偽情報を拡散し、異なる立場のネットユーザーになりすまして大量投稿を行い、世論の対立を激化させようとしている。

さらに、中国網信弁、統一戦線工作部、人民解放軍網路空間部隊(サイバー部隊)は、「中科点撃」「北京星光」「一網互通」などのテクノロジー企業を指導し、ユーザーデータベースを構築するとともに、生成AI技術を用いて1万件以上の偽アカウントを自動管理している。これにより、協調的に偽情報を流布し、特定のターゲット層に向けた世論形成を行っている。

4、AIによる擬似映像の生成

「中国兵器工業集団」などの企業は、AIモデルやインテリジェント誘導システムの開発を積極的に進め、世論データの収集から、映像・音声の自動生成、ターゲット層への精密配信までを同時に実行しようとしている。

また、中国は「晴数智慧科技」「科大訊飛」などの企業に委託し、スマート音声システムを開発するとともに、台湾の求人サイトに広告を掲載し、事情を知らない台湾人に中国語、台湾語、客家語でのオンライン録音を行わせ、台湾アクセントの音声データベースを構築してきた。これにより、台湾人の話し方を模倣したAI音声を生成し、映像型偽情報のリアリティを一層高めようとしている可能性がある。

5、台湾人アカウントのハッキング

中国は2025年4月、台湾に対する軍事演習期間中、延べ10万人以上のPPTユーザーのアカウントをハッキングした。さらに、IoT機器への侵入や海外サーバーの借用を踏み台として、「中国が台湾の天然ガス輸送を封鎖した」「中国艦艇が台湾の24海里線に侵入した」といった偽情報を拡散した。

三、結論

中国は党・政・軍および民間企業の資源と技術を統合し、台湾の言論空間へ全面的に浸透している。特にAI技術を活用して映像型偽情報のリアリティを高める一方、ビッグデータ分析によってターゲット層に対し大量かつ精密な情報流布を行い、台湾人の認知を意図的に誤った方向へ誘導しようとしている。

2025年、国家安全関連機関は4万5000以上の行動異常アカウントを確認しており、これは2024年より1万7000以上の増加である。また、231万件を超える偽情報が収集され、年間3,200件以上が政府関係部門に通報されている。

中国の認知戦の対象は世界各地の民主陣営国家に及んでおり、米国、EU、オーストラリア、フランスなどの主要政府機関やシンクタンクは、2025年に中国の情報操作手法に関する報告書を相次いで発表した。これは、民主国家が中国の認知戦の脅威に強い関心を示していることを意味する。

台湾は、中国の国際的な認知戦に対抗する最前線に立っている。国家安全局は2025年に友好国と80回以上の安全対話および専門会議を実施し、偽情報対策の技術と経験を共有し、民主主義コミュニティにおける認知戦対抗の協力ネットワーク拡大を目指している。

今後も国家安全局は、中国の対台湾認知戦の手法を継続的に収集・分析し、政府の対応を着実に実行するとともに、ファクトチェック機関やソーシャルメディア企業と連携し、ネット上の偽情報の暴露・削除を進め、台湾の言論環境を守っていく。

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