中国国務院は新たな出入国管理に関する規定を公表し、9月15日から正式に施行すると明らかにした。規定では、出国を禁止する対象が大幅に拡大されることになっており、「中国を離れる権利」が、国家の裁量によって決められる特権へと変わることになるとして、各方面に波紋を広げている。
台北海洋科技大学一般教養教育センターの呉瑟致助理教授によれば、中国の人々は以前から海外渡航に関して一定の行政管理を受けており、戸籍所在地の公安当局に申請する必要があったが、新たな規定の重要な点は、出国制限措置の「法制化」にあるという。「法律や法制度を通じての出国制限や禁止は、これまでの行政措置による管理とは違う。今後は法律によって位置付けられ、政府が実質的な権限を持って出国を禁止できるようになる。」と述べた。
呉教授はまた、規定第4条が最も議論を呼ぶ可能性のある内容だと指摘した。同条は、主管機関が当事者について「国家の安全と利益を脅かす恐れ」があると判断した場合、出国を制限できると定めている。制限期間は6カ月から3年までとなる。さらに、出国管理に違反した者や、国家の産業安全、技術安全を脅かす可能性がある者については、商務部などの主管機関にも出国を禁止する権限が与えられる。出国禁止の理由は、国家安全保障から産業安全、さらには技術安全まで、幅広く及ぶことになる。
南華大学アジア太平洋研究所の孫国祥教授は、今回の規定には「可能性がある」といった曖昧な表現が数多く盛り込まれており、関係機関に極めて大きな「裁量権」を与えていると指摘する。これによって、具体的な説明を示さないまま国民の出国を制限することも可能になるという。
孫教授は、国家安全保障や社会の安定維持だけでなく、中国が西側諸国との「デカップリング」を進める中での予防的措置という側面もあるとみている。その狙いは人材の移動を管理し、西側諸国による「人材の獲得」を防ぐことにあり、社会全体に対する統制強化だという。「もし中国当局が重要人材と認識する人物について、外国企業との接触状況などの情報を把握したり、海外の中国駐在機関から報告を受けたりした場合、この制度を利用して、その人物を国外へ出さないようにすることも可能になるのではないか」と述べた。
実際、中国政府は2026年4月、Facebookの親会社Metaによる中国の人工知能スタートアップ企業「Manus」の買収計画を強制的に撤回させた。この際、創業者を含む2人の幹部が出国管理の対象となり、国外への渡航を制限されたという。さらに、DeepSeekなどAIスタートアップ企業の主要人物についても、パスポートの提出を求められ、外国人関係者と自由に面会したり、意見を発表したりすることができなくなっているとの情報もある。これまでは、このような管理は行政的な措置にとどまっていたと思われるが、今後は、それらの措置に明確な法的根拠が与えられることになる。
台湾への影響に関して、呉教授は、台湾の人々も深刻に受け止める必要があると警告する。規定上は「中国公民」を対象としているものの、台湾の人々が中国を訪問する際には、中国が発行する「台湾居民来往大陸通行証(台胞証)」を使用する。また、中国は一貫して中華民国の存在を認めていない。そのため、中国の法的論理に従えば、一度その管轄範囲に入れば、台湾の人々も規制対象とみなされる可能性が高い。結果として、台湾の人々の中国への出入国に伴うリスクは大幅に高まり、中国の「政治的人質」となり政治的な操作の犠牲者になる恐れがあるという。
また、注目すべきなのは、この法律による一部の管理権限が地方の各省に委ねられていることである。呉教授は、この仕組みが最も強い「萎縮効果」を生み出す可能性があると指摘した。法律上の定義が明確でなく、地方によって執行の仕方が異なる状況では、国民や旅行者は大きな不確実性を抱えることになる。その結果、人々は自ら行動を制限し、自ら発言を控える「自己規制」や「自己検閲」に向かう可能性がある。
呉教授は、中国は自国民の出国を全面的に制限するつもりはなく、完全な鎖国状態に戻ろうとしているわけでもないと指摘する。しかし、この法律によって当局には、より柔軟に政治的統制を行うための手段が与えられる。一つの事件を利用して「見せしめ」とするだけでも、国内の政治的安定の維持に一定の効果をもたらす可能性がある。その点こそが、今回の規定をめぐる最大の懸念となっているのである。