オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のサイバー・テクノロジー・安全保障プログラムでシニア・アナリストを務めるジェフ・ウェイド(Geoff Wade)氏は17日、ASPIのウェブサイトに論考を発表し、中国共産党(中共)統一戦線工作部が展開する「宣伝工作のパターン」を詳しく分析した。
ウェイド氏によれば、そのネットワークの中核に位置するのが「中国和平統一促進会」である。同組織が声明や政治的な方針を打ち出し、世界各地の支部や関連団体がそれを「反復して発信する」役割を担っているという。
実際、5月にはニジェール、カメルーン、アンゴラ、タンザニア、チャドなどアフリカ各国の「和平統一」団体が、まるで申し合わせたかのように同一内容の声明を一斉に発表し、台湾の頼清徳総統が5月20日の就任2周年演説で示した主張を激しく批判した。また、4月に中国が頼清徳批判声明を発表した際にも、世界58の類似団体が瞬く間に「共同署名」という形で支持を表明した。
ウェイド氏は、「統一」という言葉が意味するものは、北京による台湾の支配にほかならず、「和平」はそれを耳当たりのよい表現に見せるための言葉にすぎないと指摘する。これらの団体は現地の華僑・華人によって運営されているものの、声明はほぼ例外なく中国語で発表される。その後、中国共産党の統一戦線工作部から強い統制、あるいは重大な影響を受けている世界各地の中国語メディアが一斉に転載する。
アラブ首長国連邦、ブラジル、アイルランド、スペイン、日本、ギリシャ、ニュージーランド――など、世界を見渡せば、このような「和平統一」団体が公然と活動しており、中国の公式メッセージをそのまま反映するかのような発信を繰り返している。
ウェイド氏は、オーストラリア・ビクトリア州とシドニーの「和平統一」団体を具体的に取り上げた。両団体は5月中旬、北京が掲げる「一つの中国」原則を支持する声明を相次いで発表した。なお、オーストラリア政府は中国政府の主張と同じ意味で「一つの中国」原則を採用しているわけではない。声明では、「二国論を捏造している」と激しい頼清徳批判を展開したほか、豪州の華人団体に対して結束し、「中国の夢」を追求するよう呼びかけていた。
こうした活動の歴史は新しいものではない。オーストラリア安全保障情報機構(ASIO)は2019年、これらの団体と中国共産党との密接な関係を問題視し、当時の指導者だった黄向墨(Huang Xiangmo)の永住権を取り消した。さらに2023年には、同団体を中国政府と関係する特定の組織として正式に指定した。
しかし、統一戦線の海外拠点とされるこうした組織は活動を止めなかった。ウェイド氏によれば、当該組織はその後、「オーストラリア中国和平統一連盟(Australian Alliance for Peaceful Chinese Reunification)」に名称を変更。いわば「看板を掛け替える」ことで再び活動を始め、中国の官製メディアである『人民日報』でも盛んに宣伝を続けているという。一方、豪州政府はいまだ、この新たな連盟を外国関連組織のリストに加えていない。
ウェイド氏は、こうした動きについて、組織側がオーストラリア政府の「許容範囲」を試している可能性があると警告する。北京は、このような実態の見えにくい組織を利用して、自らに都合のよい国際的な政治ナラティブを形成し、民主主義国家が抵抗を放棄することを期待している。各国政府は決して警戒を緩めてはならない、というのが同氏の見方だ。
ウェイド氏は台湾の中央社のメールによる質問に対し、世界各地に存在する、いわゆる「和平統一」団体は、中国による統一戦線ネットワークの「氷山の一角」にすぎないと説明した。同氏は、「この半世紀の間に、中国は世界最大規模の『準外交的影響力ネットワーク』を構築してきた」と語る。このネットワークに属する各国の団体は、社会、政治、経済の各分野で影響力を行使するだけではない。中国共産党のために情報を収集し、ときにはスパイ活動にまで関与するケースもあるという。
では、民主主義国家はこのような中国の統一戦線組織と、それが民主社会にもたらす脅威にどう向き合うべきなのか。ウェイド氏が重視するのは、政治活動の透明性を高めること、そして分析・研究能力を強化することである。「オーストラリアでは、数百に上る団体が中国の統一戦線による宣伝活動に協力している。米国、カナダ、欧州、日本、韓国、さらにはニュージーランドにも、同様の団体が数多く存在する。中国共産党、そして中国政府は、海外の華僑・華人社会を管理し、中国の海外における影響力を拡大するため、こうした組織の設立を奨励している。」
ウェイド氏は、中国による政治宣伝と影響力拡大に効果的に対抗するためには、中国の「準外交ネットワーク」がどのような組織で構成され、どのように活動し、どのような指揮・動員の仕組みで動いているのかを理解する必要があると強調する。
そして、そのために国際社会が頼ることのできる存在として、台湾を挙げる。「これらの団体の活動はほぼすべて中国語で行われ、関連する報道もほとんどが中国語メディアに掲載される。そのため、中国語圏ではない国々では、政治を観察する専門家の注意を引きにくい。台湾は、こうした統一戦線団体や、中国の影響力拡大に取り組むその他の組織の活動について、国際社会が理解するための重要な役割を果たすことができる」
ウェイド氏はさらに、台湾が世界各地で活動する中国共産党系の影響力組織を記録するグローバルな公開データベースを構築し、各国に存在する類似組織同士の関係やネットワークを整理するべきだと提案する。「台湾は、世界のどの地域よりも中国とその活動の仕組みを理解している。だからこそ台湾は、中国の統一戦線組織とその世界的な活動を専門的に研究する拠点を設けるのに最も適した場所だ」
もし台湾がこうした研究機関を設立すれば、国際社会に貴重な情報を提供できるだけでなく、中国共産党、中国の影響力、そして中国によるスパイ活動に関心を持つ世界各国との連携を強化することにもつながる――。ウェイド氏はそう考えている。
「これは世界全体が恩恵を受ける公共財となるだろう。国際社会は、中国による統一戦線工作や、その他の影響力行使のルートがどのように機能しているのかを、より効果的に理解できるようになる」