リトアニア政府は2021年、台湾が「駐リトアニア台湾代表処(Taiwanese Representative Office in Lithuania)」の名称で首都ビリニュスに代表機関を設置することを認めた。欧州の国連加盟国で、「台湾」の名称を用いて代表処が設立された初の事例として注目されたが、これに対し中国は外交関係を格下げし、最終的に外交団を帰国させた。
現在、ルギニエネ(Inga Ruginienė)首相は、中国との関係改善に取り組んでいる。彼女は、2月4日、バルト通信社(BNS)のインタビューにおいて、当時の判断について言及し、台湾が他の欧州諸国で代表機関を設置する際には「通常の調整」を経た後に、「台北代表処(Taipei Representative Office」という名称を用いており、その上で多くの欧州諸国が中国との実務関係を維持していることを指摘した。そのうえで、リトアニアの対応について「重大な誤りを犯した可能性がある」「まるで列車に飛び込んだようなものだったが、結果は良くなかった」と述べた、と報じられた。
これに対し、中国官製メディア『環球時報』は6日付の社説で、リトアニアが過去の対応について言及しただけでは不十分であると批判し、中国との関係修復を望むのであれば、単なる言葉ではなく「より誠意ある具体的行動」を通じて誤りを正し、悪影響を取り除くべきだと主張した。
また中国外交部の林剣報道官も同日の定例記者会見で、中国側はこれまで一貫して両国関係に関する立場を明確にしてきたとしたうえで、「中国は常に対話の扉を開いている」と強調した。そして、リトアニア側が関係改善を望むのであれば、実際の行動を通じて誤りを修正し、「一つの中国」原則を尊重する正しい軌道に戻る必要があると述べ、関係正常化に向けた環境整備を求めた。
これに対し台湾外交部は翌7日、中国が長期にわたり国際法秩序を無視し、各国の外交政策に対して圧力や干渉を行っていると反論した。また、経済的圧力や政治的威嚇を通じて台湾と国際社会の正常な交流を妨害していることこそが、地域の緊張と国際秩序の不安定化の主な原因であると主張した。
さらに、台湾は民主・自由・人権・法の支配といった価値観を共有する国家との関係を深化させていく方針を改めて強調し、権威主義的な勢力による各国の外交選択への干渉は受け入れられないと表明した。そのうえで、台湾は今後もリトアニアを含む理念を共有するパートナーと協力し、地域の平和と安定の維持に貢献すると述べた。
また、中華民国台湾は主権を有する独立した国家であり、中華人民共和国とは相互に隷属関係にないと重ねて強調した。中国側の主張は客観的事実や現状を変更するものではなく、いわゆる「『一つの中国』原則」も中国の一方的な立場にすぎないと指摘。国際社会の多くの国がこれを全面的に承認しているわけではないにもかかわらず、中国がそれを既成事実のように扱うことは現実と乖離していると批判した。
この問題に関し、リトアニア議会の対台湾議連(友好議連)議長であり、与党社会民主党所属のバラノヴァス(Ruslanas Baranovas)議員は、台湾代表処の設置をめぐり、戦術面では判断や調整に課題があった可能性を指摘した。その背景として、当時の意思決定過程において十分な情報共有が行われず、一部の米国政府関係者も急な政策転換に驚きを示していたとされる。他方で同議員は、台湾との協力関係という戦略的な方向性は現在も変わっておらず、代表処の名称変更や閉鎖の予定はなく、両国間の友好関係は継続していると強調した。
リトアニアは、現時点ではEUおよびNATO加盟国の中で唯一、中国大使が常駐しない国となっている。このような特殊な外交環境は、リトアニアの対台湾政策が他国にとって一般的なモデルケースとして機能しにくい要因になっているとの見方もある。
これに対し、野党「祖国連盟―キリスト教民主党」のランズベルギス系(*注)のパヴェリオニス(Žygimantas Pavilionis)議員は、現在、リトアニア外務省は米国と協議を進めているが、その目的の一つはレアアース分野を含む中国依存からの脱却にあると指摘した。リトアニア自身も過去にロシア依存からの脱却を進めてきた経験を持つ。台湾との関係はその延長線上にあると述べ、欧州各国に対しても中国依存の見直しを促す事例となり得るとした。
同議員はさらに、リトアニアと台湾の間には正式な外交関係は存在しないものの、代表処は大使館ではなく、台湾も独立を宣言していないため、実務的には他国の台湾関連機関と本質的な違いはないとの見解を示した。また、名称の決定はあくまでリトアニア側の主権事項であると強調した。
一方で同議員は、リトアニアは中国と外交関係および貿易関係を維持しており、将来的には争点の調整と関係改善が可能であるとの期待も示した。その際、「リトアニアは自由な国家(Free Country)であり、代表処の名称を決める権利も我々にある」と述べている。
*注
「ランズベルギス系」とは、祖国連盟(TSLKD)前党首・前外相ガブリエリウス・ランズベルギスが主導した、対中強硬・台湾重視の価値外交路線に近い立場の議員を指す非公式な呼称。