台湾の大陸委員会(陸委会)は20日、中国で可決された「民族団結進歩促進法」をめぐり、学者や専門家を招いた座談会を開催した。会議では、この法律を単なる少数民族政策ではなく、中国共産党による統治強化と対台湾戦略の一環として捉える見方が相次いだ。以下、議論の主なポイントを整理する。
出席者は、この法律について単なる対台湾工作の手段ではないと指摘した。経済成長の鈍化や政治的合法性への不安が広がるなか、習近平政権が新たな統治基盤を築くための法制度だという見方である。法案では、「民族団結の促進」を「中華民族の偉大な復興」を実現する核心理念として位置づけており、「共同体意識」の形成から実際の社会統合までを包括的に管理する枠組みが整備されている。専門家らは、党の指導による統治の正当性を補完するイデオロギー装置として機能していると分析した。
会議では、この法律が中国共産党の歴史観や民族観を法制度として固定化する試みだとの指摘もあった。中国は長年、「中華民族」という統合概念を強調してきたが、今回の法制化によって、「国家統一」と「民族団結」がさらに強く結びつけられた。専門家らは、民族自治の余地を縮小し、各民族に党の歴史観・文化観・政治観への従属を求める内容であると分析。排他的な「中国観」を制度として定着させようとしているとの見方を示した。
中国は2010年前後から民族融合政策を積極的に推進してきたが、今回の法律はそれを法制化したものだと指摘された。中国人口の大半を漢民族が占める一方、この法律の主な対象は、辺境地域の少数民族や海外華人コミュニティーとみられている。専門家らは、名目上の民族自治を縮小し、最終的には“強制的な漢化”を進めることが目的であると分析した。
会議では、65条ある法文のうち、「〜すべき(應當)」という義務規定が53回も使われている点にも注目が集まった。対象は政府機関だけでなく、教育機関、宗教団体、企業、さらには保護者にまで及ぶ。専門家は、行政処分から治安処罰、刑事責任に至るまで、非常に広範な責任体系が構築されていると指摘。党への従属を拒む行為に対し、あらゆる法的手段を適用できる構造になっていると警鐘を鳴らした。
法案に登場する「互嵌式社区環境建設(異なる民族が入り混じって居住するコミュニティーの建設)」についても議論が及んだ。専門家は、これは単なる民族共生政策ではなく、戦略的価値の高い辺境地域への支配強化を意味すると分析。対象地域には豊富な鉱物資源が存在しており、「人口の同化と資源吸収を同時に進めるモデルである」と指摘した。さらに、この論理を台湾に当てはめれば、中国が台湾の地政学的位置や資源をどう見ているかも理解できるとの見解も示された。
座談会では、この法律が「統一を支持しない者」を潜在的な「独立派」として扱う方向へ進んでいるとの懸念も共有された。従来、中国側は「台湾独立」を明確な対象としてきた。しかし今回の法制度では、「統一を支持しない」「共同体理念を認めない」だけで問題視される可能性があるという。専門家は、これは「独立反対」から、「統一への忠誠要求」へと論理が変化していると指摘。「現状維持を望む台湾市民の立場そのものが圧迫されかねない」と懸念を示した。
この法律は、「民族団結」や「国家統一」を法的義務として位置づけているため、「沈黙する自由」が認められない構造だという指摘もあった。専門家らは、これでは作品や教育活動の中で「忠誠表明」を求められる空気が強まり、自己検閲が常態化すると懸念。不明確な基準が、「現代版紅衛兵」的な相互監視文化を生む可能性があると警告した。
会議では、AI技術との関係にも議論が及んだ。現在、多くの中国語AIモデルは簡体字圏のデータに大きく依存しており、その歴史観や価値観には中国共産党のナラティブが反映されやすい。専門家は、人々がAIを通じて情報を得る時代になるほど、「中華民族共同体」の価値観が無意識に浸透するリスクがあると指摘した。そのうえで、台湾は独自のAI基盤や知識体系を整備しなければ、将来的に深刻な認知戦に直面すると警戒感を示した。
この法律では、「民族団結」と「国家統一」の推進が、党機関や統一戦線組織の責務として明記されている。そのため今後、中国側の地方政府や関連団体が、文化・宗教・学術・経済交流などを通じて、台湾側に「統一支持」の姿勢表明を求める圧力を強める可能性があるとの見方が示された。専門家は、交流そのものが「統一戦線工作」として制度化される危険があると指摘し、両岸交流の自由な空間がさらに狭まる恐れがあると述べた。
最後に、出席者らは中国の域外管轄強化に対し、台湾政府が引き続き具体的な事例やリスク情報を公開すべきだと提言した。また、中国の法律や政治環境と比較することで、台湾社会が持つ多元性や表現の自由の価値を再認識する必要があるとの意見も出た。中国を訪問・交流する際には、台湾の主権や尊厳を矮小化する言動に安易に同調すべきではないとし、中国側が求める政治的立場表明への慎重な対応を呼びかけた。