キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年11月6日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
遂に11月4日、アメリカで中間選挙が行われました。
それにしても、今回も直前まで色々なことがありました・・・全体の流れでいうと、投票前最後の1週間で、選挙結果予測がどんどん民主党寄りに。また、ミシガン州の上院議員選挙では、民主党予備選で泥沼の戦いをして負けた現職下院議員のヘイリー・スティーブンス候補が、選挙直前の11月2日になんと、ついこの前まで「トランプのやることを追認してただけ」とXなどでもこき下ろしていた共和党のマイク・ロジャース候補に支持表明をするという「え?!」という展開に。さらに、「最終弁論」のためにわざわざワシントンでリフレクティング・プールをバックに演説をしたトランプ大統領は、「最後のお願い」はどこへやら、ご自分が執心の「勝利の門」や「リフレクティング・プールをきれいにするプロジェクト」のブリーフに終始するという、こちらも「変すぎる」演説で選挙戦を締めくくっていました。
最後まで驚きの連続だった中間選挙戦。ふたを開けてみると、2008年以来の民主党の圧勝。「民主党の大勝」を指す「Blue wave (青い波)」とtsunamiを足した「Blue-nami」という新造語が生まれるほどの圧倒的な勝利を上院でも下院でも民主党が収める結果に。現時点で、民主党は過半数充足に必要な議席数はあっさりとクリア、下院では253議席、上院でも54議席をゲット、当初の「下院は過半数行けるけど、上院はムリだよね」という予想はどこへやら、という結果です。
といっても実はまだ、両党の獲得議席数は確定していません。下院も上院も、まだ選挙結果が確定していない州がかなりあるのです。特に上院選は、残る2議席の行方を決めるミシシッピー州とアラスカ州が異次元の接戦のため、結果が確定できない状態が、この原稿を書いている今日(11月5日)も続いています。このため、ミシシッピー州やアラスカ州、というかなりマイナーな州の特殊な選挙制度事情をアメリカ全体が学習する羽目に。2000年大統領選挙の時も、超接戦で2回も票を集計し直したフロリダ州の選挙制度事情が俄然クローズアップされましたが、あの時を彷彿とさせます。例えば、ミシシッピー州では、投票所に来た人がちゃんとした身分証明書を持っておらず身元確認ができない場合、とりあえず投票してもらい後で身元確認をする「仮投票用紙(provisional ballot)」というシステムがあります。ところが今年は投票率が俄然アップして「仮投票用紙」が万単位で存在するため、これらの投票用紙のすべてを身元確認して一票として数えるのか、破棄するのかを判断しないといけないのだとか。しかも、身元確認にクレジット・カードや銀行口座の履歴を使おうとしたところ、なんと!ミシシッピー州の人口の9%の人が銀行口座を持っていない・・・そうです。日本風に言えば「箪笥の引き出しに現金」で生活をしている人がまだまだたくさんいるというのです。アラスカ州も、「投票用紙に記載された名前の一人に投票」するのではなく、候補者に順位付けをして投票するため、集計がかな~り複雑。しかも今回は、現職の「ダン・S・サリバン氏」に対抗して出馬した候補三人のうち一人が「ダン・J・サリバン」、つまりミドルネームが違うだけという実に紛らわしい名前で、ただでさえ複雑な票の集計を余計複雑にしています。
とはいえ、そもそも、この2州、特にミシシッピー州は普通の選挙の年は何もしなくても共和党候補が楽勝していた州。ここで大接戦になること自体、今回共和党に対して吹いた大逆風のすごさをよく表しています。ロン・デサントス・フロリダ州知事は、今回の選挙結果について「(共和党)絶滅レベル出来事(extinction-level event)」という表現で評し、彼がこの時使ったフレーズも「ELE」という新たな略語を生んでいます。
10月30日付「デュポンサークル便り」で、民主党はオバマ元大統領とクリントン元大統領という「2大セレブ応援弁士」をミシガン、オハイオ、ジョージア、フロリダ、といった接戦州に登場させ、「攻めの選挙戦」を展開しているとお伝えしました。結果的に最も注目されていたテキサスは、タラリコ候補が「大接戦」の予想を覆し10ポイント近い大差で共和党のパクストン候補に勝利。テキサスでは、知事としてそれなりに人気があったはずの共和党のアボット知事まで道連れになって再選の道を阻まれ、テキサス州では初のヒスパニック系女性知事が誕生しました。テキサス州以外にも、ジョージア州、ミシガン州、ノースカロライナ州といった接戦州はもちろん、アイオワ州、カンザス州、サウスカロライナ州といった共和党の地盤州でも民主党議員が次々に誕生。しかも、ほとんどの州で民主党候補に負けた議員は、トランプ大統領の「推し」候補でした・・・。
共和党が壊滅的敗北を経験した今、関心は2028年大統領選挙。共和党側では「バンス、終わったな」説がすでにまことしやかに流れはじめ、「ELE」という新語を発明(?)し、民主党が気合を入れて選挙資金を投入しなかったためと言えなくもないものの、フロリダ州で一応「共和党王国を守った」という体裁は整えたデサントスは、早くも大統領選に向けた意欲が言葉の端々からにじみ出ています。ヘグセス戦争長官の弾劾決議も、早ければ下院で来週にも成立してしまうという噂です。
更に、選挙が終わって3日も経ってないのに、「ルビオ、いよいよ辞めるらしいよ」という報道まで・・・そうです、今回の選挙戦、ほとんど応援演説にもいかず、予定されていたオハイオ州の選挙集会登場はドタキャン、アメリカのメディアの関心が100%、選挙に向けられている最中に、静かにG20外相会合にせっせといそしみ、日米韓外相会合で北極海協力についての合意文書に署名してスマイル全開でカメラに収まり、選挙戦と一番距離をとっていたのは、ほかでもないルビオ国務長官でした・・・。
これから、いよいよ「敗戦の総括」がホワイトハウス内で始まるわけですが、誰も大手を振って「トランプ大統領のせいだ~!」といえない今のホワイトハウス、誰が生贄になるのでしょうか・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員