キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年10月30日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
中間選挙投票日まで、泣いても笑ってもあと5日。全米各地でラストスパートを迎えた「最後のお願い」も、いよいよ気合が入ってきました。
前回の10月22日付「デュポンサークル便り」では、大手通信社の一つ、ロイターが発表した最新の世論調査で、トランプ大統領支持率が、第1次政権時代を合わせても、トランプ大統領にとっては最低の31%を記録したとお伝えしました。相変わらず精力的に固定支持層の投票率アップを目指した選挙集会を共和党岩盤支持者の多い州で続けていますが、先週あたりからバンス副大統領やケネディ保健衛生長官もこの「固定票掘り起こしローラー作戦」に参戦。
ですが、これが逆効果。民主党候補と接戦を繰り広げている選挙区では、固定支持層の集会で話す彼らの演説の録音や映像をメディアが流せば流すほど、当選に欠かせない無党派層の支持や共和党穏健支持層の気持ちが共和党候補から離れてしまう「負の無限ループ」に入ってしまったようです。しかも、最近ではテレビやラジオをつけるたびに、「え、ここって共和党の地盤じゃ?」と思うような選挙区の選挙予想が「共和党優位→接戦」「接戦→民主党やや優位」など、共和党候補者やその陣営の皆さんにとって悩みがすます深まる状態になっています。
トランプ大統領の強気な発言とは裏腹に、大統領や閣僚の応援演説出張先を見れば共和党がいかに切羽詰まっているかがわかります。10月20日から11月1日までにトランプ大統領が選挙集会に登場する州はノースカロライナ、サウスカロライナ、アイオワ、フロリダ、ジョージア、ミシガン、ミシシッピー、テキサス、オハイオ、カンザスの全部で10州。このうちサウスカロライナ州とフロリダ州は、この10日間で2回も訪れる予定ですし、テキサス州にも、夏休み明け以降、全部で4回も行っています。しかも、ミシガン州を除く残りの9州は、通常なら共和党が「楽勝州」認定している州ばかり。テキサス州が最後に民主党上院議員を輩出したのは1980年代だというお話は既にこの「デュポンサークル便り」でもお伝えしましたが、それ以外にも、サウスカロライナ州は、2005年に任期を終え引退したフリッツ・ホーリングス上院議員以降、民主党上院議員が生まれていない州(ちなみに、ホーリングス議員の上院議員初当選は1966年)。カンザス州に至っては、最後に民主党の上院議員が当選したのはなんと、1932年だそうです。つまり、共和党「牙城州」にまでトランプ大統領が応援に行く必要があるほど、今の共和党は本来なら楽々当選できるはずの州で議席を死守する必要性に迫られているということ。
トランプ大統領と対照的な動きを見せているのが民主党の「セレブ元大統領」、オバマ元大統領とクリントン元大統領です。オバマ元大統領はミシガン州、ジョージア州、オハイオ州という「接戦州」に、クリントン元大統領は共和党の「縄張り」であるフロリダ州に入っています。クリントン、オバマ・・といえば、いつもユーモアに富んだキレッキレの演説をすることで有名。この二人、演説が抜群に上手であることと、若くして大統領になったため2期を全うして「大統領経験者」の仲間入りをしても、他の「大統領経験者」の皆さんより圧倒的に若い、という共通点があります。このためでしょうか、民主党はこの二人の谷間の世代が完全に霞んでしまい、今でも「ポスト・オバマ」世代を担う政治家が台頭していません。でも、彼らのような「セレブ応援弁士」がミシガン、オハイオ、ジョージア、フロリダに登場しているということは、民主党には「地盤固め」ではなく「接戦州や共和党の地盤州の選挙区を取りに行く」、つまり「攻めの選挙戦」を展開する余裕があるということです。
さすがに、御年80歳のクリントン大統領の演説は、往年のころの勢いはありませんでした。が、心臓病を患ってからベジタリアンになり、すっきりと痩せてきれいな白髪の「ちょっとかっこいいおじいちゃん」になった彼の演説は、口調はのんびりしているものの、トランプ大統領の外交政策がどういう風に国内で物価上昇に影響しているのかなどを誰が聞いてもわかるような喩えでユーモアを交えながら繰り広げる、相変わらずとても味のあるもの。大統領時代には「あなたの痛みがわかります(I feel your pain)」というフレーズが普通の有権者に寄り添う姿勢を体現しているとして有名になったクリントン大統領らしい演説でした。
これとは対照的に、まだまだ元気一杯のオバマ元大統領のミシガン州やオハイオ州での演説は戦闘モード全開のキレッキレの演説でした。トランプ大統領がホワイトハウスを金ぴかに改修することにご執心なことに触れ、
「彼が作ろうとしているホワイトハウスの宴会場は、ホワイトハウスそのものより大きいんだよ!しかもいたるところに金!サダム・フセインがチーズケーキ・ファクトリーを開店したみたいだ!」
と、トランプ大統領の成金趣味をいじり倒す一方で、米軍兵士の見た目にうるさいヘグセス戦争長官を
「目に浮かぶようだね、毎朝、鏡の前に時間かけて丁寧に髪型セットしている彼が・・・。戦争の真っ最中だっていうのに!」
とおちょくり。「トランプ」や「ヘグセス」という名前が出るたびに聴衆からブーイングが起こると「野次ってないで投票するんだ(don’t boo, vote)!」と場内を合唱させます。演説が終わるころ会場は、政治演説の会場というより、宣教師のお話の場のような盛り上がりに。
ちなみに、現在の選挙結果の予想を平均すると、下院で民主党が多数党の座を奪回する確率は80%~93%の間、上院も民主党が過半数を取る確率は59%~68%の間。どうひいき目に見ても民主党が有利のようです。
しかも、テキサス州ではブッシュ元大統領の家族がなんと民主党のタラリコ候補を支持していることが明らかになるという驚きの展開に。ブッシュ元大統領次女のバーバラさんがタラリコ候補のためのPACに寄付したことが報じられるのとほぼ同時期に、ブッシュ元大統領の弟のニール・ブッシュさんも自分のフェイスブックで期日前投票でタラリコ候補に投票したことを公表したのです。いやぁ、ついに来ましたね。ブッシュ元大統領夫妻は沈黙を守っているものの、こういう一族内の動きをお二人が黙認しているというのも、古き良き時代の共和党員にとっては重いメッセージとなるでしょう。
いよいよ、来週は選挙当日ですが、いったいどんな展開になることか・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員