キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年10月13日(火)
[ デュポン・サークル便り ]
先週末のアメリカは、コロンブスがアメリカ大陸を発見したことにちなんで名づけられた「コロンブス・デー(当日は10月12日)」の3連休でした。地域によっては、大陸を発見したコロンブスではなく、先住民に焦点を当てて「先住民の日」と呼ぶところもあります。第2次トランプ政権発足後、とにかく、これまでみんなが当たり前のように続けてきた呼び名などがどんどん大統領令によって変更されていますが、連邦の祝日までは変える気はなさそうです。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
ここアメリカは、中間選挙まで残すところ20日強。世論調査の結果が出るたびに共和党にとっては嬉しくないニュースが増える今回の選挙ですが、何とここにきて、トランプ政権による不審な動きが出てくるようになりました。その最たる例は10月12日にテレビ局各局がトップで報じたニュースで、「再選を目指して選挙活動を続ける現職民主党下院議員に対し、移民法違反容疑で同議員のワシントン自宅の家宅捜索が行われた」のです。特に、家宅捜索の対象がミネソタ州出身のソマリア系アメリカ人の女性議員のオマール議員だったことから、トランプ政権による意図的な嫌がらせではないか、という声が早速民主党から出てきています。確実に選挙後に禍根を残しそうなこの騒動、今後の展開が注目されます。
そうかと思えば、トランプ支持層からなる政治行動委員会(Political Action Committee, 略称PAC)が、メーン州で再選を目指して厳しい選挙運動を続けるスーザン・コリンズ上院議員を支持するためのはずのテレビ広告の放映権を、メーン州ポートランドではなく、オレゴン州ポートランドでゲットしてしまう、という何とも間が抜けた「ポートランド違い」事案も発生。早速SNSなどでは「これが今の共和党の知識レベル」と笑いの種になっています。そんな状態になっても、トランプ大統領の遊説先は共和党が伝統的に強い、いわゆる「レッド・ステート」で票の掘り起こしに限られているあたりが、現在の共和党が直面する極めて厳しい選挙見通しの象徴ともいえます。
トランプ大統領が心配するのも無理はありません。下院はもちろん、上院、しかもカンザス州、テキサス州、アイオワ州、サウスカロライナ州といった、通常の選挙サイクルであれば、基本的にどれだけ逆風の選挙でも共和党が強い州ですら、民主党の対立候補が下手すると勝ってしまいそうな勢いだからです。というのも、第2次トランプ政権発足後、トランプ大統領が繰り出す政策は、関税からイラン戦争の影響まで、どれもこのような共和党が伝統的に強い州の経済を直撃。しかも、下院では、共和党に有利になるように選挙区を引き直したのですが、不法移民対策が強引すぎたためか2024年大統領選挙でトランプ大統領に投票したヒスパニック系有権者が雪崩を打って共和党から離れ、かえって新しい区割りの選挙区が共和党に不利になるケースも出てきているようです。「身から出た錆」とは正にこのこと・・・
そんな中ヘグセス国防(戦争)長官も先週、実に間抜けな話題を提供していました。ヘグセス長官は、海外出張する先々で、その国に赴任する軍人(海外駐留する米軍や簿駐在武官など)を引き連れてドヤ顔でエクササイズすることで知られています。ところが何と!そのヘグセス長官が、7か月という長丁場の中東派遣を終えて米本土に戻ってきた空母「リンカーン」の乗組員を出迎えに赴いたサンディエゴで、海兵隊員と一緒に運動してみたら・・・・ランニングでは女性の海兵隊員に軽くおいていかれ、腕立て伏せを所定の回数こなした直後に何事もなかったかのように立ち上がって、2巡目のランニングに向けて颯爽と走り出す海兵隊員に完全に置いてけぼりを食らい、汗びっしょりで息も絶え絶えな姿がビデオにバッチリと収められてしまいました。当然、ネットであっという間にこの映像は拡散しています。数年前テキサス州フッド陸軍基地で起きた銃乱射事件の犯人で既に軍法会議で死刑となった元軍医を「銃殺(しかも、その様子をストリーミングする)」と誰にも相談せずに突然決めて全米を驚愕させたヘグセス長官ですが、いやはや、なんとまぁ。
国内はそんなこんなで大荒れですが、国外に目を転じても、サウジアラビアでは国際空港が攻撃され米国人を含む多数の犠牲者が出るなど、米国の数少ない湾岸地域の同盟国サウジアラビアとの関係が根底から揺らいでいます。一方、アメリカ国内の軽油価格を下げたいがためにロシアに課していた禁輸措置を一部緩和したため、欧州諸国だけでなく共和党内からも大ブーイングを受けるなど、最近、支離滅裂な感じに拍車がかかってきたトランプ大統領。先日は、突然、太平洋を「トランプ洋に名称変更したい」という仰天発言まで出ましたが、中間選挙以降、彼の言動に歯止めをかけることができる勢力は共和党の内外を問わず、出てくるのでしょうか・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員