キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年8月21日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンはここのところ、夕方になると突然ゲリラ豪雨がやってくる日が増えていますが、今日もそんな一日でした。ただ、そういう日が訪れるたびに少しずつ、涼しくなって来るあたりに秋の気配を感じるようになりました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
アメリカはなんだか、外交も内政も、中間選挙が近づいてきているというのに、どんどん制御不能な状態に近づきつつあるような・・・・
イラン情勢をめぐって、今日、注目されたのは、「経済版D-Day(Economic D-Day)」。トランプ大統領が、軍事攻撃をいくらちらつかせても、すでに「アメリカ、弾薬不足らしいよ」「空母リンカーンの乗組員のメンタルが大変なことになってるらしいよ」と、大統領や国防長官が威勢よく切る啖呵のはしごがガッツリ外れてしまうような話が、すでに報道ベースで拡散されてしまっているため、アングルを変える狙いがあるのでしょうか。
でも、これ、よく聞いてみると、「イランと経済的取引をしている国のすべてに、アメリカからシビアな経済制裁をかす」ことをちらつかせて同盟国やパートナー国に「協力しろ、おらぁ!」と迫ることで、結果として、強力な「対イラン経済包囲網」ができあがる「はず」・・・という、突っ込みどころ満載のプラン。そもそも、イランに対しては(まぁ、ロシアや北朝鮮に対してもそうですが)、経済制裁を弱体化させている元凶は、中国やロシアなど「ダークサイド」の国々です。この国に無理やりいうこと聞かせるため彼らに経済制裁をちらつかせながら迫るならまだしも、その逆・・・つい先週、これまで「忍」の一字で米―イラン交渉の仲介を辛抱強くしてきたオマーンに対して「アメリカの邪魔するならふっとばしてやる」とトランプ大統領が発言してハレーションが起きたばかりなのに・・・・
さらに、それだけじゃ、「なんで同盟国、助けてくれないの」の怒りが収まらないのか、なんの前触れもなく、「金正恩と年内に直接会談するから」という「あの・・・会談が成立する根拠は・・・」と突っ込みたくなるような理由をこじつけて、まさに始まろうとしていた米韓軍事演習の規模を「縮小する」と突然発表。さらに、乗組員のメンタルや居住環境が壮絶な感じになってきているらしい空母リンカーンの交代要員として派遣されることになったのは・・・・あろうことか、横須賀を母港にする米海軍第7艦隊隷下の空母ジョージ・ワシントン。「インド太平洋の守護神」なのに・・・・・
これだけ同盟国のはしごを外しまくっているのに、8月10日、マニラでエルブリッジ・コルビー戦争次官は、インド太平洋地域のアメリカの同盟国やパートナーが「アメリカ抜きのプランB」を模索する動きをディスりまくり、中国の南シナ海や台湾周辺での挑発行動に一言も触れてない割に、「アメリカはインド太平洋への関与はやめない」と強気な姿勢を崩していませんでしたが・・・あの演説は、実は、ワシントンの私の周りでも「ブリッジに何があったの」と心配する声が上がっています・・。そんな中、これを書いている今日(20日)はアメリカ経済界を「アメリカの債務がついに40兆ドルごえ!」という衝撃のニュースが駆け巡りました。あまりの衝撃に株価は数百ポイント下落。もはや想像することが不可能なスケールまで債務が膨らんだアメリカの国家財政ですが、これについて問われたベッセント財務長官、「経済が成長すれば、それで債務は帳消しになる」という、ほとんど支離滅裂な応答。ベッセント財務長官って、今の政権の中で数少ない、「仕事そこそこできて、人としても、まぁ、普通」な人だったはずなのですが。
これだけでもかなり、おなか一杯ですが、今日、さらにダメ押しのニュースが。長年トランプ大統領の個人弁護士を務め、2016年大統領選挙の際の選挙資金にまつわる疑惑で特別捜査官の捜査対象となり、議会で宣誓証言までして、トランプ大統領が愛人に払った現金を届けるなど仰天行動をしていたことを認め、裁判で有罪判決を受けて「塀の中の住人」になった元弁護士のマイケル・コーエン氏。この事案をきっかけにトランプ大統領とは犬猿の仲になり、懺悔本を2冊も出版したのに・・・・なんと、トランプ大統領と仲直り、ラジオのトークショーでトランプ大統領を三顧の礼をもって迎えて単独インタビューするという、仰天行動に出たのです。公然とメディアの前でお互いの悪口を言いまくっていた二人が、仲良くラジオのトークショーに出演したことへの衝撃は大きく、今日の夜のCNNやMSNBCなどはこの話題で持ち切りでした。
理解不能な事案が多すぎて飽和状態なのに、中間選挙まであと2か月半もあります・・・・これからどうなるんでしょう・・・・。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員