外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2026年5月29日(金)

デュポン・サークル便り(5月29日)

[ デュポン・サークル便り ]


「メモリアル・デー」の3連休が明けたあとも、今週のワシントンはにわか雨と雷雨。今日(5月28日)ぐらいから、ようやく天気は上向きになりそう。ちょうど湿度もまだなく、気持ちの良いお天気の恩恵を、1週間ぐらいは受けられる予定・・・・です。日本の皆さんは、いかがお過ごしでしょうか。

3連休後のワシントンは、内政がすごいことになっています。週明けの5月27日(火)、早速、ケンタッキー州で上院予備選の決選投票が行われました。3月の初戦で決着がつかず、現職のジョン・コーニン上院議員と、前回の「デュポン・サークル便り」でもご紹介したとおり、スキャンダルまみれのケン・パクストン・テキサス州検事総長が決選投票に臨んだ結果・・・直前で突然、「パクストン支持」という立場をトランプ大統領が明らかにしたこともあり、ふたを開けてみると、なんとパクストン州検事総長が6割以上の票を獲得。現職のコーニン上院議員は3割そこそこの支持しか集められないという衝撃の事態となり、「現職の上院議員が獲得した得票率としては史上最低」という不名誉な記録まで樹立して、コーニン議員は年末で失職することが決定しました。先週、ケンタッキー州やルイジアナ州で、キャシディ上院議員(ケンタッキー州)とマッシー下院議員(ルイジアナ州)それぞれ、コーニン議員と同じ命運をたどったのは記憶に新しいところですが、これで予備選ではトランプ大統領が支持した候補が3連勝。なんだかんだ言って、トランプ大統領が共和党のコアな支持層の間では、まだまだ甚大な影響力を持っていることが明らかになりました。

ですが・・・この動きを受けて、中間選挙に向けて戦意が俄然上がっているのが民主党。理由は、テキサス州上院選でパクストン州検事総長との決戦に民主党候補として挑むのが、聖職者の資格を持ち、聖書の教えを引きながら共和党批判を展開するユニークなジェームズ・タラリコ・テキサス州下院議員だからです。テキサス州は、これまでも共和党が「地盤」とみなしている州で、27日夜に行われた共和党の上院選決選投票について、投票率の低さがすでに話題になっていました。ですが、「パクストンVSタラリコ」が確定した今、「タラリコには投票したくない、でもパクストンも嫌い!」という共和党支持層が、選挙当日に投票に行かない可能性が俄然、高くなり、このため、タラリコ候補がもしかしたら勝てるかも・・・という空気になっているのです。

実は、民主党にとってはテキサス州上院議員の座は、「近いようで遠い橋」。なんといっても、最後にテキサス州から民主党の上院議員が出たのは、1993年。当時現職だったロイド・ベンツェン上院議員がクリントン政権で財務長官に指名されたために空席になった議席任期満了期間までの2年間、場つなぎとして当時空いた知事のポストに民主党のクリーガー議員が指名されて務めたのが最後です。2018年に現職テッド・クルーズ上院議員(共和党)が改選時期を迎えたときに、民主党のベト・オローク候補がかなり善戦しましたが、得票率にして3%差まで詰め寄ったものの、クルーズ議員から議席を奪うまでには至りませんでした。こうした経緯もあり、今回パクストン州検事総長という、州内の共和党支持者の間でも支持がイマイチな候補が対決相手、というのは、タラリコ陣営にとっては願ってもないチャンスなのです。

しかも、テキサス州は民主党にとって「議席がとれたらラッキー」程度の存在の州なのに対して、共和党にとっては「必勝州」。ですが、穏健な共和党支持層や無党派層へのアピール力を梃子に、着実に政治資金を集めているタラリコ候補に比べると、パクストン候補の資金集め能力は圧倒的に劣ります。このため、本来なら「楽勝州」だったテキサス州に共和党が巨額の選挙資金をつぎ込まざるを得なくなるのはほぼ確定。これでメーン州やノースカロライナ州など、本来、党を挙げて全力で共和党候補を勝たせなければいけない州に投入すべき選挙資金のかなりの部分がテキサス州に流れることになり、それだけ民主党にとっては共和党と勝負できる州が増えることを意味します。

さらに上院共和党にとって悩ましいのは、今回、コーニン上院議員も今季限りで失職が確定したことで、トランプ大統領に「No」をつきつけることを厭わない上院議員がまた一人増えてしまったことです。というのも、もともと上院は「共和党53議席、民主党47議席」ですが、ジョン・フェターマン上院議員を除けば、ほぼ毎回、一枚岩で投票行動をとる民主党と比較すると、共和党側は、あと半年以上残る会期を通じ

  1. 予備選で敗退したため、今季限りで失職が決定
    キャシディ上院議員(ルイジアナ州)、コーニン上院議員(テキサス州)
  2. 自分から今季限りでの引退を表明
    マコーネル上院議員(ケンタッキー州)、ティリス上院議員(ノースカロライナ州)
  3. 『トランプ寄り』とみられることがマイナスな選挙区で再選に向けて奮闘中
    コリンズ上院議員(メーン州)
  4. そもそもトランプ大統領とは是々非々の関係
    マカウスキー上院議員(アラスカ州)、ポール上院議員(ケンタッキー州)


という、トランプ大統領の言いなりにならない上院議員が7人もいる状態になります。この7人のうち3人が民主党と投票行動を共にすれば、下院でなんとか可決されて上がってきた法案も上院で止まってしまうリスクが飛躍的に増大します。これから来年度の連邦政府予算案の投票を控える上院でこの状況は大問題です。

さらにトランプ政権にとっての頭痛の種は、上院が政府高官の指名承認、という重要な責務を担っているということ。「トランプなんて怖くない」境地に達している上記7人の上院議員はいずれも、政府問題委員会、歳出委員会、司法委員会、外交委員会、財政委員会、特別情報委員会など、上院の委員会の中でも「重鎮のための委員会」的存在の重要委員会の委員に名を連ねているので、これらの委員会が管轄する政権高官の指名承認人事に待ったをかけることは簡単なのです。

例えば、先日、事実上更迭されたパム・ボンディ司法長官の後任に指名されているトッド・ブランチ現司法長官代行。彼の指名承認の行方を握る上院司法委員会には、上記7人のうちコーニン、ティリス両上院議員が委員として所属しています(最近、かなりトランプ批判を強めているクルーズ議員もこの委員会の委員です)。すでにトランプ政権は、上院司法委員会との関係では、まったく事前の根回しなしに「反兵器化基金(Anti-weaponization Fund)」という、どうみてもトランプ大統領が自分の支持者を救済するために思いついたとしか思えない基金の設置を発表して、ミソをつけてしまっています。ブランチ司法長官代行を正式に司法長官に就任させようとしても、もはやトランプ大統領の意向を気にする必要が1ミリもなくなったこのお二人の上院議員が「ノー」と言い続ければ、この指名承認人事が年内に承認され、本会議での投票に付されるのは絶望的。そうこうしている間に中間選挙で共和党が、現在の予想どおり下院で過半数を失い、上院でも万が一過半数を失えば、来年以降、トランプ政権の幹部人事は一切、前に進まなくなるだけでなく、あらゆる法案が事実上「Dead on Arrival (DOA)」、つまり審議をする前から「終わってる」状態となってしまいます。要は、中間選挙後、最悪の場合、トランプ政権は立法措置が必要な政策は何一つ実現できなくなってしまうわけです。

こんな国内の状況をよそに、トランプ大統領は連日、事態が膠着し続けるイラン情勢にブチ切れ、ホワイトハウス敷地内の宴会場建設をプッシュし、今年夏の建国250周年を記念してホワイトハウス敷地内で開催する格闘技イベントのリング建設に着手、など「オレ様好き」な動きが続いています。そればかりか、今日のニュースによれば、「存命中の大統領は貨幣の絵柄にはしない」という法律があるにも関わらず、建国250周年を記念して発行する(予定)の250ドル札に自分の顔を載せることを認める法案をごり押しする気が満々とか。さらに、2019年に第1次政権終了直後だったトランプ大統領を相手どってセクハラ裁判を起こし、のちに民事裁判で勝訴した女性ジャーナリストのE・ジーン・キャロルさんに対し、突然司法省が刑事捜査を開始する決定を下したそうです。ここまでくるともはや支離滅裂です。

「自分大好き」な番長が、自分のことが「大好き」すぎて、自分の手下の状況を不利にすることばかりしているのに、それを制御できずにオロオロするだけの手下・・・というのが現在の共和党のイメージでしょうか。選挙の洗礼を受けている共和党議員の皆さんには、もう少し、根性を見せていただきたいものですが・・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員