キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年5月7日(木)
[ デュポン・サークル便り ]
先週のワシントンは季節らしくない肌寒さの1週間でした。日本は今週前半は、ゴールデンウィークでしたね。ワシントンには今年も、国会議員の訪米団がいくつか訪れています。その年のカレンダー次第で、4月29日~5月5日の間に、瞬間風速で最大60人近い国会議員が、いくつものグループに分かれてワシントンにドッと集まっていた年もありましたが、そんな風景はもはや一昔前の話。2月に総選挙も終わったし、今年はさぞかし大勢の国会議員が日本からくるのだろうと思いきや、実際は意外とそうでもなく、インドや東南アジア、オーストラリア、欧州など世界各地に訪問議員団は分散している模様。みんなが「ワシントン詣で」をしていた時代を覚えている私には、隔世の感があります。日本の皆さんはお休みで少しリラックスされましたでしょうか。
ワシントンは相変わらずてんやわんや。4月25日(土)夜に発生したホワイトハウス記者協会夕食会での発砲事件については、まだまだ連日、容疑者について報道が続いています。とはいえ、対外政策ではイラン情勢も待ったなし。先週は、上下両院の軍事委員会で来年度国防予算をめぐる公聴会が開催され、ヘグセス国防(戦争)長官とケイン統合参謀本部議長が揃って公聴会に出席、出席議員との間で、主にイラン情勢をめぐり、かなり厳しいやり取りが行われました。なんと、公聴会の際中には、ヘグセス長官から「イラン情勢の最大のリスクは野党(つまり民主党)」という、民主党に喧嘩を真正面から売るとんでもない発言まで飛び出す始末。イランでの軍事行動がずるずる続いているおかげで、今、上院も下院もかろうじて共和党が僅差で持っている過半数を、中間選挙後も維持できるかどうかについてはとっくの昔に黄信号が点火しているというのに。議会で喧嘩なんか売っちゃって、ヘグセス長官、大丈夫なんでしょうか・・・
そんな中、明るい話題もないことはありませんでした。なんといっても、先週、ワシントン、というより全米の関心を集めたのは、イギリス国王のチャールズ3世夫妻の訪米。チャールズ3世自身は、皇太子時代の1985年にダイアナ妃(当時)と一緒にアメリカを訪問したことはありますが、国王に就任してからの訪米は初めて。なにしろイギリス国王がアメリカを訪問するのは、1976年のエリザベス女王以来ですからなんと50年ぶりとあって、心が荒むニュースしかない最近のアメリカでは久しぶりに民主党支持者も共和党支持者も一緒に盛り上がることができる数少ないニュースとなりました。
正直、皇太子時代は、国際的セレブだったダイアナ妃の人気に完全にかすんでいたチャールズ3世。特に、皇太子時代に、今のカミラ妃との不倫が原因でダイアナ妃と離婚してからというもの、ダイアナ妃との間に生まれたウイリアム、ハリー両王子との確執が伝えられた時期もあり、かなり影が薄かったチャールズ国王。正直、私自身はチャールズ3世夫妻訪米、と聞いても、それほど心躍る感じではありませんでした。
ところがどっこい!ワシントンに到着してからのチャールズ3世は、「グッジョブ」モーメントを連発。連邦議会本会議での演説では、今年でアメリカが建国250周年を迎えることに触れ、「250年、イギリスでいうところの「ついこの前(just the other day)」とさりげなくイギリスの歴史の長さをアピール。現在、かなり緊張関係にある米英関係に間接的に触れたときは「作家オスカー・ワイルドも言っていましたが、アメリカとイギリスは「言語」以外のあらゆるものを共有しています」と米英の関係の深さにさりげなく触れました。さらに「アメリカ最高裁は1789年以来、判決文の中でマグナ・カルタを少なくとも160回は引用しています。もちろん、行政権は常に監視と均衡の対象になっていることについての言及もあります」と、第2次政権発足後、トランプ大統領が大統領としての権限がどこまで広がるかを試しているような言動を、さりげなく批判、出席していた両党の議員からスタンディング・オベーションを受けました。さらに、ホワイトハウスで開催された晩餐会では、今年の年頭、ダボス会議で並みいる出席者を前に第2次世界大戦に言及して「アメリカがいなかったら、あんたたちは今頃日本語かドイツ語を話していたはずだ」と「オラオラ感」全開のスピーチをしたトランプ大統領に向かって、「一言言わせていただけるなら、もしイギリスがいなければアメリカ人の皆さんは、今頃、フランス語を話しているはずですよ?」と7年戦争(1756~63年)に触れながら、かなりガチにトランプ大統領の発言を批判しました。
シャナンドア国立公園の視察など、つつがなく全日程を終えて国王夫妻が帰国された後は、「イギリス国王がアメリカにきて民主主義について講義して帰った」と大きな話題になりました。随所に、イギリス人独特のユーモアを炸裂させたチャールズ3世のスピーチは、「洗練されすぎてて、たぶんトランプ大統領には理解できてない」という人も。文字通り「生まれながらの王様」が醸し出す権力者としてのオーラを感じさせた訪米でした。でも、今回の訪米でカミラ王妃はともかく、チャールズ3世のファンは、アメリカでは確実に増えたのでは。
そんな明るい話題でホット一息付けたのも僅か数日間。そのあとはいつもどおり、トランプ大統領の深夜の「トゥルース・ソーシャル」投稿にワシントンが振り回される日々が戻ってきてしまいました・・・・ガソリンの値段は相変わらず上がり続けるし、いったいどうしたものでしょうか・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員