外交・安全保障グループ 公式ブログ

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2026年4月30日(木)

デュポン・サークル便り(4月30日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週、ようやく、気持ちの良い春らしいお天気が続いたとおもったら、週末からはずっと、再び暖房が我が家では活躍しています。これでは新しい芝の種もまけないし、前庭に移すタイミングを狙いつつでケアしている植物も、当分、室内ケアが続きそう。ですが、こちらでも「おばあちゃんの知恵袋」的な言い伝えだと、「花の種をまくのは、母の日が終わってから」なんだそう。「母の日」=5月第2週。これは確かに、昔の人の知恵ですね。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

先週は、閣僚がさらに2人更迭される、「もうすぐクビかも」と言われる閣僚の名前があと3人も出るなど、いよいよ「学級溶解」が始まったトランプ政権について書くつもりでいたのですが、4月25日(土)の夜、衝撃の事件が発生しました。なんと、ワシントン市内のワシントン・ヒルトン・ホテルで開催された、毎年恒例のホワイトハウス記者協会(日本でいうと内閣記者会みたいな団体)夕食会で発砲事件が発生、トランプ大統領をはじめ、出席していた閣僚は全員即時避難、夕食会は順延・・となったのです。現場で身柄を拘束された容疑者は、カリフォルニア在住の31歳の教師、コール・トーマス・アレン。発砲が起こったのは、ホテル内、会場に入るために出席者や関係者がすべて通過しなければいけない金属探知機の付近、とされており、これから容疑者の動機、当日の警備体制などの検証が始まります。

今回、事件が発生したのが、ちょうど45年前の1981年に、ロナルド・レーガン大統領襲撃事件が発生したのと同じホテルということもあり、これを書いている一夜明けた今日(4月26日)は、どこのメディアも「以前、大統領襲撃事件が発生した場所で、大統領が出席するようなイベントが開催されるべきなのか?」から「なぜ、容疑者がそもそも、会場にあそこまで接近できたのか?」まで、元シークレット・サービス警護官、元FBI捜査官、元DC警察署長まで、様々な人がメディアに登場して解説しています。

実は、昨晩の夕食会は、第1次政権時も含め、これまでの年次夕食会をすべてボイコットしてきたトランプ大統領が初めて登場するということでひときわ話題を集めていました。というのも、この夕食会は、もちろん、この1年で目覚ましい報道取材の成果を上げた記者を表彰する、という真面目な時間もありますが、基本的にはメディアから選ばれる司会者(通常はコメディアン)が夕食会の間、ひたすら大統領をイジり倒し、大統領もスピーチで出席者をおちょくり返す、というイベント。過去には、ブッシュ(子)大統領時代の夕食会で、ローラ・ブッシュ大統領夫人(当時)が、そのころメディアで「ブッシュ大統領は、就寝時間が早い」という報道を使って「ジョージ、世界の危機に立ち向かうなら、もっと夜遅くまでちゃんと起きてないとダメよ」と大統領を真正面からイジる冗談を交えたスピーチで大喝采を集めたことがありました。また、オバマ大統領のスピーチの際には「オバマ大統領の本音を話す『分身』」として一緒に壇上に上がったコメディアンがここで登場したことをきっかけに「オバマ大統領の『分身』だったあの人」ということで大ブレーク・・などのエピソードに事欠きません。

実は、トランプ大統領がこの夕食会をボイコットしてきたのには理由が。そもそも、この夕食会の趣旨は、大統領と、彼を24時間取材しているホワイトハウス担当記者が「取材し、される普段の関係を超えて、お互いをイジりあって、楽しいひと時を過ごす」というもの。トランプ大統領、遡ること15年前、2011年のこの夕食会に当時のオバマ政権大統領にゲストとして招待されて出席したことがあるのですが、その際にオバマ大統領に公衆の面前でイジり倒されたことがあるのです。その時のトラウマからなのか、政権発足後、基本的にメディアとは常に緊張関係、しかも、公衆の面前で自分に対してネガティブなことをいわれるのが基本的に許せない「オレ様体質」だからなのか、大統領になってからは常にこの夕食会をボイコットしてきた経緯があります。だからこそ、今年、大統領として初めて出席する、というニュースは、直近の世論調査でついに支持率が30%半ばを下回る数字が出始めたこともあり、「あのトランプが、『少しメディアとの関係を改善しないといけない』と思い始めたのか?!」と話題を呼んでいたのです。

これほど事前から注目されていた夕食会で、あろうことか発生した発砲事件。幸い、死傷者が出ることはなく、トランプ大統領夫妻をはじめ、出席していた閣僚や連邦議員も全員無事、その他の出席者も全員無事でした。事件発生直後は、夕食参加者の大半が、普段からホワイトハウス近辺で取材しているメディア各社のエース級の記者ということもあり、大混乱の現場からですら、携帯電話を使って混沌とする会場の映像を撮影、普段の取材対象に情報を取りに行くために動き回るなど、記者の本領を発揮する人がほとんど。たまたまトイレに行くために席を外していたため、発砲事件発生当時、事件発生場所から至近距離にいたCNNの超有名アンカーのウォルフ・ブリッツァー氏は、警護官が男性用トイレから出てきたばかりの彼を守るために取った行動などを、携帯電話の映像オンのビデオ通話で、明らかに動揺している様子を見せながらも実況中継していたのは、圧巻でした。「ディナー招待客」から瞬時に本業にスイッチを切り替える彼らのプロ意識の高さに脱帽。

ですが、そんな彼らを上回るメンタルの強さを見せたのは、ほかでもないトランプ大統領。実は、昨日のトランプ大統領の対応は、「危機的状況に置かれた政治家の危機対応」のお手本ともいえるものだったのです。自分の命が狙われた可能性が高い発砲事件だったというのに、事件発生後ほどなく、「トゥルース・ソーシャル」で「自分は無事。警備当局の素晴らしい働きにより容疑者は既に拘束された。私は、今晩の行事を予定どおり進めることをリコメンドしているが、最終的にどうするかは、警備当局の判断に従う」と、この危機的状況で、自分も会場に戻ることを前提に「予定どおり、行事続けようよ」と提案したことを明らかにする仰天のメッセージ。そのあと、結果的には警備当局の判断で夕食会は中止(当たり前ですよね・・・)という結論になりましたが、そのあと、ホワイトハウスのブリーフィング・ルームでなんと自らブランチ司法長官代行とパテルFBI長官を従えて記者会見。しかも記者会見の席上、その場ですでに取材する側に回っているホワイトハウス記者協会会長の女性記者に「会の素晴らしいアレンジをありがとう。絶対にもう一度、最初からやり直しましょう。私も、『これまでで一番キツい演説だった」と言われるぐらいすごいスピーチを準備して、楽しみにしていたので』」と微笑みながら語りかけ、そのあとの記者からの質問にも

「今日、我々は連帯感を共有している」
「(なんで身辺でこのような事件が発生すると思うか、という質問に対して)勇気をもって何かを変えようとする指導者は暗殺のリスクがある。リンカーンもそうだった」
「警備当局の働きは素晴らしかった。彼らはまさに、きちんと勤めを果たした」
「今回の事件を受けて、すべてのアメリカ人には、お互いの意見の違いを平和的に解決することを心から誓うことを求めたい」

などと、トランプ大統領にしては「マトモすぎる」受け答え。しかも最後にちゃっかり「こういうリスクがあるから、ホワイトハウスにきちんとしたパーティ会場(Ballroom)を作ることが必要なんだ」とさりげなく、ホワイトハウスの東側の建物をぶっ壊して巨大なパーティー会場を建設する自分の政権の方針の必要性をアピールしていました。つまり、事件発生後から自分で記者会見を開くまでのトランプ大統領の言動は

  1. 自分の安否や現状などの「正確な情報」SNSで発信
  2. 記者会見ではだれを批判することもなく、警備当局を褒め、夕食会主催者のホストに感謝を示すなど、超党派のメッセージを発信
  3. 「見解の違いは平和的に解決しよう」と、対立を煽るいつもの手法とは真逆のメッセージ
  4. 夕食会の「可能な限り30日以内」のリスケを公開で誓うことで、「政治的暴力には屈しない」姿勢をアピール
  5. おまけでホワイトハウス東側へのパーティー会場の増築の必要性と正当性をさりげなくアピール

と、まさに「お手本」ともいえる対応だったのです。最近は批判させるネタ「しか」なかったトランプ大統領ですが、メンタルの強さは、やはり只者ではありませんね。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員