外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年4月23日(木)

デュポン・サークル便り(4月23日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンDC近郊は、先週は・・・・暑かったです・・・・ほとんど夏を思わせるような気温の日が、特に週の中日では続きました。なのに、今週は、昨日も一昨日も、そして今日も、朝晩はジャケットが必要な寒さ。火曜日の朝なんて、霜が降りていました・・・・庭の植物たちはおかげで皆、「春なの?まだ冬?もしかしてもう夏?」と大混乱。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

先週の時点では、「週末にも米―イラン第2回交渉か?」という観測が流れており、停戦期限が火曜日に設定されていたため、せめて第2回交渉の雰囲気をつかんでからと思い、今週の「デュポンサークル便り」を出すのを待っていたのですが・・・これを書いている時点で、4月20日頃から始まることが予定されていた第2回交渉が実際に始まるめどはたっていません。唯一の救いは、火曜日に設定されていた停戦期限が、仲介役のパキスタンからの依頼でとりあえず延長されたことですが、相変わらずカオスは続いています。

ただ、第2回交渉再開に向けた暗雲は、週末から漂っていました。停戦成立後、「ホルムズ海峡が開いた~~~!」と世界がホッとしたのも束の間、4月19日にトランプ大統領が突如、米海軍がイランから出航したコンテナ船を拿捕したと発表、事後、米中央軍も経緯を撮影したビデオを一般公開しました。これに対してイランは「停戦違反だ」と反発、週明けには再びホルムズ海峡を閉鎖する旨発表しただけでなく、「イランはさらなる交渉に参加するとは言ってない」と、予定されていた(はず)の第2回直接交渉にも参加しない意思を明確に。結局、20日にワシントンを出発してパキスタン入りする予定だったバンス副大統領も予定を変更してワシントンにとどまり、現在に至ります。

「次の交渉でイランがディールに応じなかったら、今度こそ本当にイランにあるすべての橋、エネルギー施設、インフラ設備を攻撃する!いい奴を演ずるのは終わりだ(No More Mr. Nice Guy)!」と「トゥルース・ソーシャル」で威勢のいい啖呵を切ったトランプ大統領。最後の「No More Mr. Nice Guy!」のくだりは、映画「るろうに剣心」で、「不殺生」を誓った剣心が、戦いを挑んできた相手にとことん追い詰められて怒りのスイッチが入り、相手をにらみつけて「遊びは終わりだ。殺してやるからかかってこい」と一言放ったシーンを一瞬、イメージさせました(私だけか・・・)が、このセリフを吐いた後に、本当に相手をボコボコにした剣心とは対照的に、トランプ大統領は結局、21日(火)に「パキスタンからの依頼で停戦を延期する」を発表。これを書いている今日(22日)のメディアでは、「またトランプがTACO(Trump Always Chickens Out =トランプはいつも土壇場でビビってやめる)った!」という批判がメディアを席巻中です。

しかも、イランとの交渉がドン詰まりを続ける中、内政でもトランプにとっては頭の痛いニュースが続きます。まず、4月21日には、上院銀行・住宅・都市問題委員会(通称「上院銀行委員会」)で、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事長(FRB)の後任としてトランプ大統領が指名したケビン・ウォルシュ元FRB理事の指名承認公聴会が行われました。現職のパウエル議長に対してトランプ大統領が再三、利下げの圧力をかけたにも関わらず、これにパウエル議長が頑として応じない・・というやり取りが2往復ぐらい両者の間で交わされた後で、司法省が連銀ビルの建て替えが予算を大幅に超過している、ということを主な理由にパウエル議長を刑事告訴して現在に至ることもあり、ウォルシュ元FRB理事と上院銀行委員会の民主党委員の間でかなり緊張感のあるやり取りが行われました。象徴的だったのは同委員会の民主党筆頭委員を務めるエリザベス・ウォーレン上院議員とウォルシュ氏のやり取り。ウォーレン議員は、「靴下人形(sock puppet)(子供番組にたまに登場する、キャラクターを描いた靴下に手を突っ込んで操り人形のようにして使う人形)」というわかりやすすぎるたとえを使いながら、利下げ問題から2020年選挙の結果に至るまで、あらゆる種類の質問を使って、再三、ウォルシュ氏の政治的独立性を試す質問を繰り返しました。これに対し、ウォルシュ氏、かなり頑張って答えてはいたものの、「2020年大統領選挙でドナルド・トランプは負けましたか?」という明らかに「イエス」か「ノー」でのシンプルな答えが求められている質問に「その選挙については、すでに議会が選挙結果を認定しています」という奥歯にものが挟まったような答え方をして、ウォーレン議員に「私の質問に答えていない」と真正面から反論させてしまう局面もあり、なかなか辛い場面もありました。

しかし、ウォルシュ氏がパウエル議長の後任になるための最大の障害は、実は民主党上院議員の反対ではありません。彼の承認プロセスに敢然と立ちはだかっているのは・・・ノースカロライナ州選出の共和党のトム・ティリス上院議員なんです。このティリス議員、去年の夏、議会で「一つの大きな美しい予算法案(OBBB法案)」の成立をめぐり議会が大荒れに荒れたとき、共和党議員の中でOBBB法案に反対した数少ない共和党議員の一人。当時、彼はトランプ大統領に「トゥルース・ソーシャル」で罵倒し倒され、その後、ほどなく今季限りで議員引退を表明した議員です。

このティリス議員はパウエル議長が刑事告訴されたことについて「トランプ大統領による政治的報復」として強く反対していて、「パウエル議長に対する告訴状が取り下げられるまでは、後任の議長の議会承認は絶対に認めない」と意思表明していましたが、今回、まさにこの決意表明を「有言実行」している形になっています。昨日のウォルシュ元理事の指名承認公聴会で自分が質問する順番が来たときには、ウォルシュ元理事には「民主党からの厳しい質問に答えなければならないでしょうから、少しお席で一息ついていてください」といったあと、持ち時間5分のほとんど全部を使って、いかにパウエル議長に対する刑事告訴が間違っているかという持論を延々と展開、最後に「だから私は司法省には、ウォルシュ元理事というこの素晴らしい後任候補を迅速に上院で承認できるように、パウエル議長に対する告訴を取り下げることを期待します」と述べて発言を終える、という珍事が発生しました。しかも、ティリス議員は「すでに引退表明=再選運動なし=支持を求めてトランプにすり寄る必要がない=トランプなんて怖くない」という境地に至っているため、妥協の余地はゼロ。かたやトランプ大統領もパウエル議長の刑事訴追については、意固地ともいえるこだわりを見せているため、当面、ウォルシュ氏が承認される見通しが立たないまま、パウエル議長は、来月15日に任期満了となります。

しかも、大統領選挙のたびに「激戦州」認定されているノースカロライナ州でポコッとあいたティリス議員の議席をめぐっては現在、ノースカロライナ州では民主党のロイ・クーパー元同州知事と共和党のマイケル・ワトリー元共和党全国委員会委員長の間で熾烈な選挙戦が繰り広げられているわけですが・・・・なんと、

(1)    インフレ悪化
(2)    ガソリン価格急上昇
(3)    イラン戦争の不人気
(4)    ワトリー共和党候補の知名度不足
(5)    クーパー民主党候補の知事時代からの高い人気

というあらゆる条件がそろってしまっており、2008年以来、再び民主党上院議員がノースカロライナ州に誕生するか?というムードになっています。

このノースカロライナ州だけでなく、アラスカ州やメイン州でも、この秋、改選時期を迎える現職の共和党議員が厳しい戦いを強いられており、さらに、本来楽勝のはずのテキサス州でも、トランプ大統領やバンス副大統領がローマ教皇レオ14世を批判し続けていることもあり、聖職者の資格を持ち、聖書を引用しながら共和党の政策批判を展開するジェームズ・タラリコ氏が予想をはるかに超えて善戦している状況。今年の年明けには、「下院は民主党かもしれないけど、まぁ、上院は普通に考えて共和党が過半数維持できるでしょ」というのがコンセンサスだったのですが、その状況がかな~り微妙になってきているのです。

外交ではイラン戦争をやめたくてもやめられず、内政では、昨年の夏、身内の共和党議員のはずのティリス議員をボロカスにこき下ろしたことで、今回、連邦銀行総裁指名承認というかなり大事な局面で、見事にティリス議員に「江戸の仇を長崎で返す」状況を作られてしまったトランプ大統領。今回、イランとの関係でTACOってしまったことで、「もはやイランに完全に足元見られている」と指摘する人も出てくる中、いったいトランプ大統領はこの事態を打開することができるのでしょうか・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員