キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年4月6日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
アメリカはこの週末は復活祭(イースター)。ワシントン近郊の公立学校は先週が春休み、カトリック系私立学校は先週の木曜日の「聖なる木曜日(Holy Thursday)」から今週いっぱいにかけてお休み、というところも多数。気温は相変わらず上がったり下がったりが続いていますが、4月3~5日まで、ここワシントンにドジャースがナショナルズとの3連戦で降臨!私も3連戦最終日の5日(日)の試合を息子と一緒に見に行ってきました。遠目にしか見えませんでしたが、生で見る大谷は、アメリカ人の選手よりもがっしりとした体格なのに改めてびっくり!先発は佐々木投手で、大谷選手のホームランも見ることができ、大満足で帰宅しました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
先週のアメリカは本当にいろいろなことがありすぎて、何について書いたらいいのかいつも以上に悩んだ1週間でした。1969年にアポロ11号が月面着陸して以来初の月への飛行となる「アルテミス2号」の発射は、どのテレビ局も生中継、全米が興奮の渦に包まれました。分断が叫ばれがちなアメリカ社会が一つにまとまった数少ない瞬間の一つだったといってもいいでしょう。私も家で、発射を生中継で息子と一緒に興奮しながら見ていました。
ですが、そんな素晴らしい瞬間を経験できたのもつかの間。イラン情勢はどんどん泥沼化の様相を呈し始めています。トランプ大統領は4月1日にイラン情勢に関する国民に向けての演説を初めて行いましたが、期待されていたような「終戦に向けたシナリオ」や「武力行使終了後のホルムズ海峡の安全」などに関するメッセージはゼロ。米軍が挙げた戦果を誇示し、「戦闘は2~3週間後で集結する」と、これまでの発言を基本、繰り返すのみ。しかも、全世界が注目していたホルムズ海峡の安全保障については「戦闘が終われば、自然とホルムズ海峡は開くだろう」という、「イラン攻撃が終わったあとのことは、俺、知らないもんね~」と言っているに等しい発言。当然、これに対して翌日以降、原油市場は敏感に反応し、結果、原油価格は跳ね上がり、ガソリンの店頭価格も上がり続ける・・・という最悪の状態に。
それだけではありません。なんと、4月2日(木)には、ランディ・ジョージ陸軍参謀総長が、なんの説明もなく、突然、「退官」をヘグセス国防長官に命じられたという衝撃的なニュースが全米を走りました。強制退官の対象になったのは、ジョージ陸軍参謀総長に加えてホドネ陸軍訓練変革司令部司令官と、グリーン陸軍司教長(米軍をはじめとする欧米の軍隊には、聖職者の資格を持つ軍人、つまり軍牧師がいますが、彼らを束ねる存在)の2人です。戦闘が行われている最中に突然、これだけ軍の幹部の交代が行われるのは普通ではありません。このため、4月2日に国防省がこの人事を発表して以降、ジョージ参謀総長他計3名の将官は、ヘグセス長官との路線対立により更迭された、という見方が定着しつつあります。思えば、ブッシュ(子)政権時代に、米軍のイラク侵攻をめぐり、「shock and awe」、つまり空爆を先行することで最低限の地上兵力のみを投入すれば目標を達成できると考えたラムズフェルド国防長官(当時)に、「イラク侵攻には40万人規模の米軍投入が必要」と異を唱えたエリック・シンセキ陸軍参謀総長(当時)が半ば強制的に退官に追い込まれたことが約20年前にありましたが、まさにそれを彷彿とさせるエピソードです。そのあと、シンセキ参謀総長が予見したとおり、必要最低限の地上兵力投入でなんとかしようとした米軍がイラクで足を取られて泥沼化への道を進み現在に至っているのは周知のとおりです。そんな中で唯一報じられた米軍がらみの明るい話題は、イラン領内で撃墜されたF-15戦闘機パイロットが無事に救出された、というニュース。映画「セイビング・プライベート・ライアン」にも描かれているとおり、米軍は、「敵地に仲間は絶対に取り残さない」がモットー。CIAの情報力に支えられた特殊部隊の活躍により、イランのかなり奥まで潜入して見事実現させたこの救出作戦は、まさにこのモットーを地でいくもの。さすが米軍!と感動した瞬間でした。
他方、内政に目を移せば、クリスティ・ノーム国土安全保障長官に続き、ついに4月2日にパム・ボンディ司法長官が更迭されました。いわゆる「エプスタイン・ファイル」の取り扱いをめぐり議会から厳しい批判を受け、かつ、トランプ大統領の政敵を刑事告訴しようとするも、手続き上の不備や証拠不十分などで連邦裁判所に却下されるエピソードが続いたことで、トランプ大統領がボンディ司法長官に不満を持っていたことが報じられてはいました。ですが、ノーム国土安全保障長官の更迭から1か月足らずで2人目の閣僚が更迭された形となり、第1次政権の時のような「学級崩壊」の様相をジワリと呈し始めたトランプ政権。イラン情勢打開の見通しが全く見えないまま、国内でガソリン価格をはじめ物価が軒並み上昇を続け、中間選挙に向けて共和党にとって不利な状況が深まる中、手詰まり感が出てきたトランプ政権。あまり不吉なことは言いたくありませんが、トランプ大統領が苦し紛れにキューバに突然攻め込み、ヴェネズエラの時と同じようにカストロ首相を拘束、のようなとんでもないことをしでかさないといいのですが・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員