外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年3月6日(金)

デュポン・サークル便り(3月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


中東では米軍とイスラエル軍による対イラン攻撃、これに対するイランによる報復攻撃が早くも6日目に入ろうとしています。当初から懸念されていたことではありましたが、1週間足らずの間で私の住んでいるあたりでもガソリンの値段は、絶賛上昇中。また、「軍事攻撃が終わったあとのイラン」像も描けないままズルズルとここまで来てしまっており、ついに今日は、爆死したイランの最高指導者ハメネイ師の後継に、彼の息子が選ばれそうだ、というニュースを受けてトランプ大統領が「あんなやつじゃだめだ。俺が次の指導者を決めるプロセスにはかかわらないとな」と言ったとか言わないとかで、昼過ぎからニュースが大炎上中。こんな中、あと2週間もすると、高市総理がワシントンの土を踏む予定になっていますが、いったいどんな首脳会談になるのでしょうか・・・

というわけで、前回の「デュポン・サークル便り」でほんの触りだけお伝えしましたが、イラン情勢は今週に入っていよいよ、ルビオ国務長官が議会で議員から質問攻めにされ、民主党議員からの「戦争権限決議」提出があり、トランプ大統領やヘグセス戦争長官が「弾薬は無尽蔵にある」発言をプレスに対してした直後に、テレビ各局のコメンテーターなどから「そんなわけないっしょ」と一斉に反論があったり・・と目まぐるしく事態が展開しています。その中でもやはり一番の注目は、ホルムズ海峡が実質的に封鎖されてしまった結果、アメリカ国内で値段が上がり続ける燃料価格。すでにこれを書いている今(米国東部時間3月5日)の段階で、1ガロンあたりのガソリン価格が、この1年で最も高くなった、というニュースが大々的に報じられています。私の住んでいるバージニア州北部でも、1ガロン当たりの値段が10セント近く値上がりしてしまったところがほとんどで、これが下がってくる気配は全くありません。ガソリンの値段がこれだけ一気に上がると、全米の貨物輸送を担うトラックの燃料供給価格も圧迫することになり、これが店頭に並ぶ商品の価格に反映され始めるのは時間の問題。これから中間選挙に向けた動きがいよいよ本格化しようかという今の時期にこんな状況、これは共和党候補にとって深刻な事態です。しかも、すでに米軍兵士の死者も6名となり、選挙を考えると、ますます共和党には嫌な材料ばかりが出てきてしまいした。

しかも、イラン情勢だけでも盛り沢山すぎるというのに、今週は、内政でも大きな事件が!ミネアポリス州で不法移民取り締まりを強引な捜査手法で行っていたICE捜査官が地元在住の2名の白人アメリカ人を射殺してしまって以来、クリスティ・ノーム国土安全保障長官は更迭される日も近いんじゃないか、という「更迭までのカウントダウン」が静かに始まっていました。遂にそれが現実のものとなり、ノーム国土安全保障長官は、第2次トランプ政権初の更迭された閣僚、という不名誉な称号を担うことになったのです。

そもそも、国土安全保障長官に指名されたときから、自伝で「しつけるのが大変だった子犬を射殺した」と堂々と描いて大ブーイングが巻き起こった彼女。長官就任後も、「愛人」と噂されるトランプ大統領の元選挙参謀のコリン・ランダウスキーを国土安全保障省の要職につけたり、国土安全保障省の広報と自分自身のPRを取り違えたような「勘違いビデオ」の撮影に多大な予算を費やしたり・・・とお騒がせ行動が続いていました。ただでさえ支持率低下に苦しむ中、次から次に問題行動や発言で顰蹙を買い続けるノーム長官に、さすがのトランプ大統領も堪忍袋の緒が切れた模様。

しかも、ノーム長官の更迭が本人に伝えられたのは、彼女が警察官組合の全米大会でスピーチをする直前。CNNなどの報道によれば、彼女が演説をはじめてすぐに、演説を会場で聞いていた人の携帯には「ノーム更迭」の号外メッセージが流れ始めたとか。会場がかなり微妙な雰囲気になったことは容易に想像できます。。。

すでに、トランプ大統領は後任の国土安全保障長官にはマークウェイン・マレン上院議員を指名する意向を明らかにしています。このマレン議員、オクラホマ州出身のチェロキー族。ネイティブ・アメリカンとしてはコロラド州選出のベン・ナイトホース・キャンベル上院議員に次ぐ2人目の共和党議員です。この人選は、上院ではかなり高評価で(ノーム氏の評判がそもそも悪すぎたという噂も・・・)、正式に指名されれば、承認までの道のりはスムーズだろうと言われています。さすがに支持率がダダ落ち傾向の時の閣僚による問題発言は看過できないということでしょう。逆に言えば、それだけ、トランプ大統領が実は支持率低下を気にしているという現実の現れでもあります。

というのも、実は、今週は、3月3日にテキサス、ノース・カロライナ、アーカンソー各州で11月の中間選挙に向けた予備選が開始され、中間選挙がぐっと、現実味を増してきたからです。特にテキサス州上院選予備選では同州史上最多の約430万人近い有権者が投票し、民主党支持者の投票率が共和党支持者の投票率を上回るという極めてレアな事態が発生、国内の「反トランプ」の空気を象徴する現象として関心を集めました。一方共和党予備選では、現職のコーニン上院議員他計3名の候補者が出馬しましたが、いずれの候補者も50%以上の得票を得られなかったため、コーニン上院議員とパクストン・テキサス州司法長官の間で5月26日に決選投票が行われることに。民主党と対峙する本選ではなく、「身内争い」でしかない決選投票に多額の資金が費やされることに、すでに議会共和党指導部の間では不安がささやかれている模様。対する民主党は、「白人男性の敬虔なキリスト教信者」という、民主党候補らしからぬ(?)スペックのジェームズ・タラリコ・テキサス州議会議員が予備選で勝利、11月の本選で共和党から議席を奪回することを目指し、本選に焦点を定めた運動が早速、始動することになりました。

ただでさえ国内でガソリン価格が上がり始め、MAGA支持層の中からも反発が出てき始めたトランプ大統領。11月の選挙に向けた動きがこんな感じでは、支持率を気にせざるを得ないのかもしれません。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員