キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年3月2日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
2月27日付で一般教書演説特別号を出したばかりなのに・・・「ウイークエンド・クラッシャー」、もとい「トランプ大統領」がやってしまいました・・・・米国東部時間2月28日午前2時過ぎ、米軍とイスラエル軍がイランに対する合同作戦を開始、中東の将来がかかった大一番の火ぶたが切って落とされました。
当然、この話はアメリカの9割以上の人にとっては「寝耳に水」。それもそのはず、2月27日(金)の時点では、どのメディアも核兵器プログラムをめぐる米・イラン交渉第3回目の終了と、「合意になんとか到達できそう」的な報道を流していたのです。もちろん、先週あたりから、中東に米軍が兵力を集めているという報道や、トランプ大統領が「2週間ぐらいは武力攻撃しない」とはいったものの「トランプのことだからわからないよね」という識者コメントは認識されていました。が!まさか3回目の交渉が終わって間もなく、空爆を始めるとは・・・
というわけで、攻撃開始が報じられた2月28日早朝以降、一般教書演説への反応も、「トランプの支持率、ダダ落ち」報道も、最高裁による「トランプ関税」違法判決も、はたまた「国土安全保障省の閉鎖継続」事案も、マスコミ的にはすべてが吹っ飛ばされてしまいました。CNN湾岸戦争当時を彷彿とさせる「24時間戦えますか」の報道体制を敷き、抜群の存在感をここで発揮しています。
それにしても、攻撃開始24時間足らずで、最高指導者のハメネイ師はじめ、共和国警備隊司令官とする多数の幹部の爆死が確認されるというこのスピード感。報道によれば、トランプ大統領は、米軍による対イラン攻撃の進捗状況は「予定より早く進んでいる」とのたまっておられるようですが、問題はこの次です。なぜなら、イランは革命後イスラム共和国制に移行して以来、47~8年の長きにわたり圧政が敷かれてきた国。ヴェネズエラのように、国内外で組織だった反政府組織活動などがあるわけではありません。ニューヨーク・タイムズ紙で長年安全保障問題について報じてきたベテランジャーナリストのロビン・ライト女史が、イランの現状を称して「理想に燃えたたくさんの若きネルソン・マンデラはいるかもしれないが、アフリカ国民会議(ANC)のような組織は確立されていない」と説明していましたが、まさにそのとおり。ハメネイ師率いる体制が崩れたあと、穏健な政治体制に移る保証も、そこまでの道のりも、不透明なままなのです。トランプ大統領は「誇り高きイランの人々よ、いまこそ立ち上がれ」と演説してましたが、中世じゃあるまいし、トランプの応援演説(?)に鼓舞されて武器を手にとり立ち上がるイラン人が、イラン国内で果たしてどれだけいるのでしょうか・・・。
アメリカ国内に目を移せば、米議会、特に民主党議員はトランプ大統領が勝手に戦争を始めた、宣戦布告をする権限は「戦争権限法」に基づき、議会にしか認められていない、と大騒ぎ、共和党議員の中にも同調する動きが少し出てきています。上下両院の情報委員会や軍事委員会、外交委員会など、グイグイと軍事力行使に邁進するトランプ政権を指をくわえて見ているわけにはいかない委員会は、週明けにも非公開の戦況ブリーフィングをトランプ政権に対して求める構えです。
また、今こそ、瞬間風速的に、米国内に点在する、反イラン体制派の人々が「ありがとうトランプ!」と感謝集会を各地で開催していますが、今後、実質的にホルムズ海峡が封鎖されている状態が続き、石油価格が上昇し始めれば、ガソリン価格が上がり始め、米国民のお財布を直撃するのは確実。すでに我が家の周りでは、この数日でガソリン価格が1ガロンあたり5セント近く上がっています(上がり始まる前に満タンにしといてよかった・・・)。今回の事態の収束が遅れれば、中間選挙で共和党にとって超逆風になることは必至です。
トランプ大統領にしてみれば、イランを攻撃してかっこよく勝利宣言に持って行って、中間選挙に向けて得点を稼ぎたかったのかもしれませんが、そんな単純に物事解決するんだったら、とっくの昔に解決策が見いだせていますよね。今後12~24時間の動向がカギを握るともいわれる今回の事態、いやはや、いったいどうなるのでしょうか・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員