キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年2月27日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
2月23日付でお届けしたばかりの「デュポンサークル便り」ですが、今週は「一般教書演説スペシャル」を出さないわけにはいきません!
今回の一般教書演説は、演説前から話題に事欠きませんでした。なにより注目を集めていたのは、現時点でのトランプ大統領支持率の低さです。というのも一般教書演説の直前にリリースされたワシントンポスト紙・ABCニュース・世論調査専門会社イプソスの3社合同世論調査の結果によると、トランプ大統領の支持率はわずか39%。中でも支持率が落ち込んでいるのは無党派層で、昨年2月の世論調査と比較すると、無党派層のトランプ支持率は、たった1年の間に15%も減っている、という調査結果だったのです。さらに、CNNの世論調査によれば、共和党支持層によるトランプ支持率も、この1年で8%も減っているという結果。これは、何があってもマイペースなトランプ大統領はともかく、今年の中間選挙の結果に議席がかかっている連邦議員にとっては、かなり気になる数字です。しかも、こんな世論調査の結果に加えて、先週の金曜日には、最高裁が「トランプ関税は違法」判決というスマッシュヒットをかっ飛ばしたばかり。就任1年で超逆風になった状態で一般教書演説に臨むトランプ大統領が、いったい、何を話すのか・・が関心の的でした。
しかも今回の一般教書演説は、いろいろな意味で異例。国土安全保障省予算が凍結されたままの状態なのに演説を強行するのも異例ですが、民主党議員40人余りが演説をボイコット、そのうち15人弱が、同じ時間帯にナショナル・モールでリベラル系市民団体が主催した「国民の一般教書演説」と銘打った「裏番組」に登場したのも異例。実は、このボイコットが民主党にとってよかったのかどうかについては、民主党内で意見が分かれるところもあるようですが・・・・さらに、議場内でもこれまでとは少し違う風景が。そもそも、民主党議員が40人近く、ボイコットしているので、議場内の、特に民主党サイドがなんとなく空席が目立っていたのはもちろん、議場の前列付近でもこれまでとはちょっと違う光景が。そうです、最高裁判事9人のうち、一般教書演説に出席した判事は、たったの4人!出席率が50%を切ったのです。最高裁判事は司法の長、つまり行政府の長たる大統領とは対等な立場、ということで、全員出席が義務付けられているわけでは決してないのですが、それでも、9人中半数以上が欠席、なんていう風景、今回が初めてかもしれません。ともかく、これまで聞いたこともない状況の中で強行された一般教書演説だったことは確かです。
そんな中登場したトランプ大統領でしたが、一般教書演説は・・・長かったです・・・・昨年、「一般教書」的演説を1時間40分も延々と自画自賛で続けたトランプ大統領でしたが、今年はそのロングラン記録を自ら更新。歴代大統領では最長の1時間40分弱も、とにかくシャベり続けました。ただ、その内容は、一部、共和党ベースにアピールするような内容もありましたが、基本的にはトランプ大統領がどの選挙集会でもぶち上げる内容。つまり、「自分が大統領になってから、いかにアメリカは前政権が生んだひどい状況から抜け出して『イケイケ』な国として立ち直っているか」ということを、経済、不法移民取り締まり、外交・安全保障などあらゆる角度からとにかく話し続けるものでした。しかも、うまくいったことは全部自分の手柄、うまくいっていないことはバイデン前政権の「負の遺産」が大きすぎるから・・・という華麗な責任転嫁のオンパレード。私の周りの民主党系の友人には、「トランプがバイデンの悪口を言うたびにワインをグイっと一口飲む」というゲーム(?)をしながら一般教書演説をテレビで見ていた人もいたのですが、彼ら、演説が終わるまでに相当、酔っぱらっただろうなぁ・・と思わずにはいられない内容でした。
この演説について今朝のニュース番組で聞かれたラーム・エマニュエル前駐日大使。2028年大統領選出馬も噂されている彼は、最近、全国区メディアの露出が増えています。この方は、まぁ、好き嫌いが分かれるタイプではありますが、「ある現象を、わかりやすく語る」能力はピカイチなので、彼が話していると思わず聞いてしまいます。そんなエマニュエル前大使曰く、今年の一般教書演説は、チャールズ・ディケンズの古典的名作「二都物語」のようなもの、だそう。つまり、トランプ大統領が話し続けた「アメリカ経済最高!明るい未来はすぐそこ!」というアメリカと、依然として「一般有権者がインフレに苦しむ暗い」アメリカ、という二つの現実があることが改めてはっきりした演説で、トランプ大統領は一般教書演説で、暗いアメリカでもがいている有権者に明るいアメリカがあることを納得させるのが最大の目標だったはずだが、「それには残念ながら失敗したんじゃなかろうか」とコメントしていて、なるほど、そういう言い方もあるねぇ、と納得。
ちなみに、エマニュエル前大使は、民主党議員の一般教書ボイコットにも否定的で、「(前述の「裏番組」に登壇した議員を意識しているのだと思いますが)Bチームの会合に出ている場合じゃない。きちんと議場で彼の演説を最後まで聞いた後に、反対意見があるならどうどうと反論すればいい。」と批判していました。ただ、彼は、自分を裏切った相手に、映画の「ゴッドファーザー」よろしく腐った魚を送り付けたエピソードが今でも語り継がれるなど、民主党の中でも「武闘派」の地位を確立していますので、「敵前逃亡してどうする!」という感じなのだろうと思います。
このようにいろいろな話題を呼んだ一般教書演説でしたが、今回の演説で中間選挙に向けて共和党にとって明るい材料ができたか?というと、それはなかったねぇ、というのが全体の印象です。さて、これを受けて、これからアメリカ政治、どのような動きを見せるでしょうか。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員