キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年2月24日(火)
[ デュポン・サークル便り ]
ようやく、暖かくなり、例の「snowcrete」も溶けてくれて・・・と思っていたら、本稿を書いている今日(2月22日)はなんと再び雪!しかも、日中こそは、気温が氷点下を数度上回っているため、空から降ってくるのは雪とみぞれの混成チームなのですが、日没後気温が氷点下になった後には、この混成チームが「オール雪」となり、夜半過ぎまで勢いよく降り続けるという最悪の予報です。ニューヨーク、ボストンなど北東部の大都市は、いずれも今年2度目の大吹雪に襲われる見込みで、空の便は軒並みキャンセル。ニューヨークのマムダニ市長は、「降雪中外出禁止令」を出しました。ワシントン近郊も場所によっては20センチ近い降雪が予想される地域があるため、近郊の学校は明日、軒並み、始業を2時間遅らせています。寝坊できる息子は、ガッツポーズですが・・・日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
それにしても、先週は、外交に内政に、いつも以上のハイペースでいろいろなことが起こったアメリカでした。「トランプ国連」と揶揄されることもある「ガザ平和理事会」が週の前半はにぎにぎしく開かれ、そのおかげ(?)で、同理事会に出席するためワシントンを訪問した元外交官の友人と、かれこれ10年ぶり(それ以上かも・・・)で再会することができました。アラビア語の使い手、当然専門は中東情勢・・・ということで、こういうことでもないと、そもそも北米に出張がないんですよね。でも、友人に会えたのは嬉しかったのですが、この和平理事会、ワシントンで話題になったのは、実は実は、当日だけ。なぜなら同理事会の冒頭で「平和より高い価値があるものはない」などと「オレ様」感全開で自画自賛の演説をしていたトランプ大統領は、その裏で、着々とペルシャ湾沖に米軍を終結させ、核兵器プログラムをめぐる交渉でイランに譲歩を迫っているからです。交渉で相手が思い通りにならないとすぐ軍を動かすって、もうこれ、典型的な「砲艦外交」なのですが、まさか「22世紀版砲艦外交 by トランプ」を見せ続けられることになるとは・・・
という訳で、当初今週の「デュポン・サークル便り」は中東を一番のトピックに取り上げるつもりだったのですが、先週金曜日になって最高裁判事の皆さんによるスマッシュヒットがありました!その経緯は次の通りです。
そもそもトランプ大統領は、去年の4月から国別に出しまくっている高率関税を「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく合法措置と主張していました。しかし、これは「関税も税金の1種。課税の権限を持っているのは議会」という伝統的解釈を真っ向から否定するものでした。一部の州は「トランプ関税が企業や国内消費者に不利益をもたらしている」としてトランプ政権を訴える「法廷闘争」を展開していましたが、これまで連邦地裁や控訴審は、「関税は議会の権限」との立場を支持し「トランプ関税は違法」との判決を下していました。これを不服とするトランプ政権側が最高裁に上告したため、最高裁の判決が待たれていたのです。
1月からずっと「出る、出る」と言われ続けてきたこの判決について、当初の予想から1か月以上遅れて最高裁が下した判断は・・・なんと6対3で「トランプ関税は違法」というものでした。しかも、「違法」とした判事が6人もいるということは、共和党政権時に判事に就任した6人のうち3人が「トランプ関税は違法」と判断したということです。では、その判事3人は誰なのか、というと・・・トランプ政権発足以来「最高裁の良心」として、保守でもリベラルでもなく、「ど真ん中」の判断を下し続けるロバーツ首席判事に加え、なんとトランプ大統領が第1次政権で最高裁判事に任命した保守系と思われる3人のうち、ニール・ゴーセッチ判事とエイミー・コーリー-バレット判事の2人だったのです。
特に、ゴーセッチ判事は、判断に付随して公開された判事自身の「意見」の中で「IEEPAについての議会の対応に関する意見はともかく、(議会が)関税を課す権限を大統領に譲渡すべきでないことは明確」「本件の中核的問題は、行政府が、議会の有する関税を課す権利を侵すような緊急性があるか否か」であるが、今回のケースは「それに当たらない」と書きました。ちなみに、このゴーセッチ判事の「意見」は、ロバーツ首席判事が書いた「主文」に比べ、2倍近い46ページもの「力作」です。特に、この中の「立法プロセスは困難を伴うことがある。問題が生じた際、議会を迂回したくなる誘惑に駆られることもあるだろう。しかし、立法プロセスが求める審議そのものが美徳なのである。それは国家が、個人や一会派の見解ではなく、国民の代表者たちの集合的な英知の恩恵を受けることを可能にするのだ。“The legislative process can be hard. Sometimes, when problems arise, it may be tempting to bypass Congress. But the deliberation the legislative process demands is itself a virtue. It allows the Nation to benefit from the collective wisdom of the people’s representatives rather than the views of a single person or faction.”」という一節は保守派SNSの中で大量拡散され、バズりまくっているとか。
とはいえ、自分が任命した判事3人のうち2人が自分の意見を支持しなかったのですから、トランプ大統領が冷静でいられる訳はありません。予想通り、同大統領は完全に逆ギレし、「トランプ関税違法判決」に与した保守系判事を「左派の犬に成り下がった」とこき下ろし、ついでに通商法第122条に基づき全世界の米国の通商相手国に対し一律「10%」の関税を課す、と発表。それでも怒りが収まらないのか、わずか数時間後にこの関税率を「15%」に引き上げるという「おまけ」まで付きました。
でも、この「15%」関税の有効期間は150日間だけ。その後は議会が立法措置により関税発動を行政府に認めなければなりません。しかし、「関税=税金」である以上、中間選挙の真っただ中の150日後に、議会の共和党議員が「新しい税金」を支持する可能性はほぼ皆無。これまでの通商交渉で「言うことを聞かない」国に対しIEEPA法を根拠に高関税かけるぞ!と恫喝してきたトランプ政権にとっては、交渉上の最大の武器を奪われたも同然です。4月に訪中を控えるトランプ大統領がキレまくるのも、まぁ、良し悪しは別にして、理解できない訳ではありません。
更に、2月24日(火)には一般教書演説があります。現在、国土安全保障省(DHS)予算をめぐる議会での対立により、ワシントンは「プチ連邦政府一時閉鎖」中なのですが、そんな状況でも一般教書演説を強行するトランプ大統領。当然こんなこと「史上初」ですが、これに対抗してか、一般教書演説出席をボイコットする10数人の民主党議員が、別途ナショナル・モールで「人々の一般教書」演説なる「裏番組」を決行するのも、これまた史上初です。しかも、この一般教書演説では最前列に最高裁判事7名が座るのが慣例ですが、一般教書直前に自分に不利な判決を出した最高裁判事7人が最前列にドーンと座るシチュエーションで、トランプ大統領は一体何を話すのでしょうか・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員