キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年1月27日(火)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンの先週末は、10年ぶりの大雪。雪だけなら「犬は喜び、庭駆け回り、学校休みの子どもたちは、そり滑り」で済みますが、今回の最大の鬼門は、土曜日深夜頃から降り始めたふわふわしたスキーに最適な雪が日曜日のお昼すぎまでに10センチ近く積もったあとに、日曜の午後からは、少し湿った冷気が大気の流れで入ってきたため、夜になって霙や氷雨に変身したこと。月曜日の朝に起きた私達を待っていたのは、見た目はきれいな雪景色、でもその実体は、雪の上にガッチリと固まった雪氷の層・・・という、雪かきする人泣かせの最悪の組み合わせ。路面はツルツルで、当然、連邦政府は今日も明日も閉鎖、学校も休校。我が家の周りには、除雪車が、ようやく月曜夜9時になって登場、でも除雪車が頑張ったあとに残るのは、除雪車の頑張りの証拠でもある、新しくできた雪氷の山。これを明日、がんばって片付けなければ、買い物にもいけません。
それでも、「2,3日停電する可能性があります!」と言われていた当初の予想は、良い方向に外れ、ちょっとあった?らしい停電も、私が寝ている時に始まって終わり。実は、ネットが突然使えなくなることは断続的に続いたため、私は顔が青ざめましたが、それも月曜日の夕方には安定。英語には「神のお恵みを数えよう(count your blessing)」、つまり、どんな小さなことも感謝しよう、ということわざがありますが、まさにその心境です。しかし!雪が降っている最中に「霙になる前に一度雪かきをしなければ」と全身雪まみれになりながら雪かき、今日も雪氷と鉄製スコップと強化プラスチック製のシャベルを併用して数時間、雪氷かき・・・と連日、肉体作業を数時間通しで行ったため、私も息子も全身筋肉痛。日本でも大寒波だそうですが、みなさんがご無事に過ごされていることをお祈りしています。
こんなに大変なのに、私が密かに「ウイークエンド(バケーション)・クラッシャーズ(週末やバケーションを台無しにする人たち)」と命名したトランプ政権の皆様、またやってくれました。そうです、1月23日金曜日のしかも夕方近くなってから、ひっそりと公開されたのが・・米国防戦略。この政権の人たちに「ようやく金曜日(Thank God It's Friday, TGIF)」とか「花金」という概念はないのでしょうか。
しかし、国防戦略が出れば、これまでの政権では、ちゃんと記者ブリーフィングが行われ、その後に、実質的に報告書を取りまとめた高官が匿名でさらに記者ブリーフィングをしました。国防(戦争)省ときちんと関係を築いているシンクタンクに対して「国防戦略のPRイベントやろうよ、◯◯の講演とかどうよ」と打診があり・・という恒例行事のシークエンスがあったのです。ところが、今回は実質、記者クラブは閉鎖、さらに「シンクタンクで戦争省の人間が話すのは、基本、長官以外NG」という現状では、政権の人間から直接、国防戦略について聞くチャンスはほぼ皆無です。そのため、戦争省内と普段から良好な関係にないシンクタンクは、実質、何もできません。私の場合、昨年転職した新しい職場が、たまたま上司や同僚が戦争省との間で「友達の輪」を持っていたため、私自身もささやかではありますが、「なんちゃって友達の輪」があるので、それぞれがこっそり教えてもらった話を「業務参考用の背景知識として」という条件で静かに共有しています。ですが、そうじゃないシンクタンクも当然あるわけで・・・。毎日、仕事でも神のお恵みを数えています。
とはいえ、この新しい「国防戦略」、基本的には「国家安全保障戦略2025」を大筋なぞったもので、これに「同盟国のバードン・シェアリング」と「国防産業基盤の強化」、という要素が付加されたものになるだろう、というのが発表前からの下馬評でした。既に「国家安全保障戦略」で、そのあからさまな「アメリカは西半球のラスボスになる」「おいらが一番」路線(プラス「北朝鮮核問題完全スルー」)にショックを受けた私としては、あれ以上のショックはないだろう、と思って読み始めたら・・・ありました・・・・
「対中抑止」って書いてあるのに、台湾問題への言及が・・・・ない・・・・・
この「台湾を完全にスルーした国防戦略」が何を意味するかについては、既に議論が沸騰しています。この件といい、グリーンランド領有権問題でNATO加盟国、つまりお仲間のデンマークに喧嘩を売ってしまった件といい、どうやら、この政権はトランプ大統領の「西半球のラスボスになりたい」「ノーベル平和賞とりたい、だっておいらが一番だもん」を実現することが何をおいても至上命題のようです。あとはとにかく、中国が「のさばる」のは絶対気に入らない(一番は自分だけだ)から「対中抑止」の旗は絶対に降ろさないけれど、細かいところはまぁ、「その時々に対応しましょう」っていうのが基本路線なんだなぁ、ということが国防戦略を読んで、改めてよくわかりました。アメリカがこの感覚だと、日本や韓国、さらに太平洋島嶼国界隈で中国が活発になってきていることに影響をうけているオーストラリアやニュージーランドは、対中抑止の最前線も最前線、ということになりますよね。
こういう状態が現実だとすると、「古き良きアメリカ」の時代を懐かしんでいるフェーズはとっくに過ぎ去っているのです。むしろ日本は「同盟国としてのバードン・シェアリング」を増やすのがいいのか悪いのか、という以前に「アメリカがいざという時、頼りにならないかもしれないから、自分の国は自分で守るんだ、という方向に安保政策の軸足を本格的に移さないといけない」、でも、この「自分の国は自分で守るんだという覚悟」を日米同盟を堅持する前提で示すために何をしなければいけないのか、について日本の中で一刻も早く認識を共有しなければいけないフェーズに入っていると思います。
ただ、日本にとって1つの吉報は、ヘグセス戦争長官は「日本大好き」、ということ。陸軍時代に演習で富士山の麓の「キャンプ・富士」にいた時に彫った鳥居の入れ墨を誇らしそうにアピールしている写真もあったりする彼ですが、前任の中谷大臣も、自分と似たような経歴の年上の政治家として、とても尊敬していた、ということでした。今の小泉大臣とも、ざっくりいえば世代、お互い小さいお子さんのお父さんというプライベートな共通点もあってとても仲良し。しかも、ヘグセス長官、昨年の就任早々、「シグナルゲート」でミソをつけたものの、その後、イランの地下核施設への攻撃や、年明けのマドゥロ・ヴェネズエラ大統領夫妻拘束作戦を大成功させたことで、トランプ大統領のおぼえがめでたくなり、政権での「ヘグセス株」が急上昇中とか。
このため、前号でも紹介したように、コルビー国防次官は、日本以外の国に対しては「防衛費増◯%だっ!」と主張していますが、そのコルビー次官はバンス副大統領チームの人間とみなされているため、ヘグセス長官との関係はそもそも微妙なようです。そんな中、さすがのコルビー次官も日本に対しては、政権の中で存在感が増しているヘグセス長官の強い意向もあり、防衛費増の主張ができないようです。これは日本にとって朗報。「防衛費◯%」といった数字よりも、「日本が自分で自分の国を守るために本当に必要なもの」、例えば、重要インフラ安全管理強化、防災、サイバーセキュリティ、個人情報管理体制など、国防との関連性が分かり易いものから、産業競争力強化を始めとする、国家としての基礎体力の基本になるものまで、幅広い分野で国を上げて取り組める時期にある、とも言えます。
その意味でも、選挙期間に入ったばかりですが、来月8日の総選挙って、とても重要ですね。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員