外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年1月20日(火)

デュポン・サークル便り(1月19日)

[ デュポン・サークル便り ]


日本では、いよいよ、高市総理が衆議院解散の意向を記者会見で正式表明。先週は公明党と立憲民主党が合流して統一政党を作るという仰天の展開もあり、大学院卒業後、30年近く日本政治を見てきた中で、今が一番面白い時期といっても過言ではありません。とはいえ、外野で見ているから気楽に「面白い」と言っていられますが、突如「選挙」が降ってきた衆議院議員の先生方は、大忙しでしょう。

そんな中、先週は、日米関係ウォッチャーの間では、小泉防衛大臣の訪米が話題になっていました。ホノルル・ディフェンス・フォーラム、という国防関係者が多く集まる、我々の業界ではちょっと知られている会議で、日本の防衛大臣として初めて基調講演をしたあと、休むまもなくロサンゼルスに移動して、無人機の企業などを視察。そのあと、夜行便でロサンゼルスを出発し、14日早朝にワシントンに到着したと思ったら、休むまもなく連邦議会でなんとハガティ上院議員(元駐日大使)をはじめ6人の議員と相次いで懇談。ようやく一晩、ホテルの部屋でちゃんとベッドで寝た翌朝、いよいよ、今回の訪米の一番の目的だったヘグセス国防(戦争)長官との会談に臨みました。

・・・とはいえ、会談にたどり着くまでにまずは、朝一番でヘグセス長官と5種目で文字通り「体力勝負」。常日頃から体を鍛えている「健康オタク」のヘグセス長官は、海外出張の際は、出張先で、駐在武官を従えてワークアウトで汗を流すことで知られていますが、さすがに外国の防衛大臣でヘグセス長官と一緒に汗を流す!と受けて立ったのは、小泉大臣が初めてだそう。事後、公開された写真を見ると、さすがに小泉大臣、体力の限界に来ている雰囲気が漂っていますが、そもそも「一緒にワークアウトするよ!」と言った時点で、様子を見守っていた米軍人は尊敬の眼差し。当然、ヘグセス長官にも「バディ認定」された小泉大臣。防衛省のホームページや小泉大臣自身のSNSでも公開されている情報ですが、「体力勝負」のために自分とおそろいのTシャツを用意したり、会談のときには前回、東京で初めて顔を合わせた時の写真を会談場所の入口に飾っておいたり、さらに、会談終了後、小泉大臣が国防省を出発するまでに、汗を流したあとに二人で「お疲れ様」握手をした写真を現像、立派な額におさめてプレゼントする、などなど、ヘグセスのイメージに似合わない気配りが全開。そんな中、個人的に一番気になったのは、事後に公開された会談時の写真。ヘグセス長官の両脇はファインバーグ副長官とケイン統合参謀本部議長が固め、本来ならヘグセス長官かケイン統合参謀本部議長のすぐ隣でもおかしくないコルビー国防次官は、なんと一番端っこ。日本に具体的な数字を出して防衛費の増額を求めたいコルビー次官をヘグセス長官が完全にブロックしている、という話も聞きますが、それの現れなのでしょうか。小泉(父)内閣時代は、ブッシュ大統領ととても仲良しだった小泉総理(当時)を思いやって、ブッシュ大統領が政権内で「絶対に公の場でコイズミの政策を批判しないように」というお触れを出した、という話がありました。小泉防衛大臣とヘグセス長官の間でも、似たような力学が働いているのかもしれません。

ですが、極めて和やかに終わった日米防衛相会談をよそに、アメリカは相変わらず内政も外交も大揺れです。内政ではミネアポリスで相変わらず、ノーム国土安全保障長官の指示により派遣された移民・関税執行局(ICE)捜査官と地域住民の間で小競り合いが続いており、再び、市民がICE捜査官によって足を撃たれる事件が発生しました。このような事態を受けて、ウォルツ・ミネソタ州知事はついに、ミネソタ州の法執行当局を支援するため、州軍の派遣を決定。というのも、ICEと住民の間で小競り合いが続けば、再び深刻な事態が発生する前に誰かが間に入って両者を引き離さないといけないからです。事態がここまで深刻化したのを受け、1月16日には、ミネソタ州の連邦地裁が、ミネアポリスで現在活動しているICE捜査官に対し

・平和的に抗議活動をしている市民を逮捕・身柄拘束したり、彼らに対して胡椒スプレーをかけるなどの対抗措置をとってはならない

・連邦政府の職務を明らかに妨害している判断するに至る「合理的な疑惑」がない限り、市民が運転する車両を止めようとしたり、運転している市民を拘束したりしてはならない

という命令を出しました。また、議会では、このような事態になってもICE捜査官の活動の正当性を主張し続けるノーム国土安全保障長官の弾劾を真剣に検討する動きが、下院民主党議員の間で広がっています。ですが、トランプ大統領は、ミネソタ州住民の抗議活動が収まらない場合は、「謀反罪」を適用する可能性を示唆。さらに、司法省がウォルツ知事とフレイ・ミネアポリス市長に対する捜査を開始するなど、「トランプVSミネソタ州」のバトルは、もはや双方の沽券をかけたガチンコチ対決になってしまっており、収束する気配は見えません。

加えて、年明け早々に、ジェローム・パウエル連邦銀行議長を「連銀のビルの改築の状況に関する虚偽の証言を議会で行った」という理由で司法省が起訴したことが明らかになって以降、議会では超党派でこの問題を巡るトランプ政権への反発が広がっています。今回起訴されたパウエル議長は、トランプ大統領からの「さっさと利下げしろ」圧力に対し、「経済の実体が追いつかない」ことを理由にトランプ政権発足後一貫して抵抗し続けています。トランプ大統領は、パウエル議長を馘にして、自分の意向に沿った形で利下げの判断をしてくれそうな人を理事として送り込む気マンマンだ、というのは周知の事実。このため今回の起訴は大統領の政治的報復措置だと受け止められています。アメリカ政府の各組織の中で最も政治的中立性が保たれなければならない連銀に対し、今回トランプ大統領からこのような圧力が掛ったのですから、これまで目立った抵抗をしてこなかった共和党の議員たちもさすがに堪忍袋の尾が切れた形です。既に、トランプ大統領が新しく連銀理事を指名した場合、その指名について検討する責任を持つ上院銀行・住宅・都市開発委員会に所属する共和党のティリス上院議員は、「パウエル議長起訴案件についての捜査が終了するまでは、いかなる連銀理事の指名を検討することにも同意しない」という決意表明をしているため、トランプ大統領が誰を指名しても、当面、上院での指名承認プロセスが進む可能性はゼロになりました。

外交案件では、トランプ大統領の「アメリカはグリーンランドを絶対にゲットしなければいけない」発言から始まった、グリーンランド領有権を巡るアメリカとヨーロッパの関係がますます緊張しています。1月14日に、ホワイトハウスを訪問したラスムセン・デンマーク首相と、バンス副大統領・ルビオ国務長官との間で行われた会談は、お互いの議論が平行線のまま終了。「議論を継続するための作業部会を設置することで合意した」と一応、体裁を繕ってはみたものの、デンマーク首相は会談後に「基本的な立場に大きな隔たりがある」と発言。さらに、EU側が米側の強引な態度を理由に欧通商合意の履行一時停止を示唆したのに対抗し、トランプ大統領は欧州各国に対し追加関税発動をちらつかせるなど、こちらも袋小路に入っています。しかも、今日(19日)になって、トランプ大統領がグリーンランド領有権獲得で意固地になっている原因の一つが、去年、ノーベル平和賞を取りそこねたことらしい、という仰天報道が。事実だとすれば、逆恨みというか、「いちゃもん」もいいところですが・・・この件をめぐっては、これまでチャールズ国王を担ぎ出してまで、トランプ大統領と良好な関係を築くことに努めていたスターマー英首相も「間違っている」と宣言。戦後の米欧関係に最大の危機が訪れていますが、いったいどうなってしまうのでしょうか・・

気持ちが暗くなるニュースばかりだった先週から今週末にかけての動きですが、その一方、とてもローカルな話題ですが、バージニア州では1月17日、歴史的出来事がありました。昨年11月のオフイヤー選挙で共和党候補に圧勝し、バージニア州知事の座を巡る「女性候補対決」を制したアビゲイル・スパムバーガー元下院議員が、バージニア州史上、初の女性知事として就任したのです。女性の投票権運動のシンボルカラーである白を意識してか、全身白の洋服で登場したスパムバーガー知事、就任演説の中で任期中は「手頃な価格(affordability)の実現」を最優先に取り組む決意を表明しました。テレビをつければ殺伐としたニュースしかやっていない中で唯一の明るいニュースと言っても良いこのニュースが、自分の住む州の出来事だったことは、ほんの僅かですが、救いでした。

実はアメリカは今週末、マーティン・ルーサー・キング・デーの今日が連邦の祭日なので3連休です。公民権運動の中心人物の一人だったキング牧師は、1964年にノーベル平和賞を受賞したものの、1968年に暗殺されました。ですが、全米が公民権運動で揺れていた1963年、リンカーン大統領による奴隷解放宣言100周年記念大会での演説の中でキング牧師が使った「私には夢がある」というフレーズは今でも伝えられています。混迷を続ける今のアメリカを故キング牧師は、天国からどのような気持ちで見ているのでしょう。

(了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員