キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年1月13日(火)
[ デュポン・サークル便り ]
日本では年明け早々、「衆院早期解散説」が流れ始めましたね。何の前触れもなくいきなり政局がやってきそうな気配ですが、日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
年明けからヴェネズエラでマデゥロ大統領夫妻を拘束したトランプ政権、何やら今年も我々を内政と外交で引きずり回しそうな予感がムンムンとしていますが、先週ももれなく、内政から外交まで、「てんこ盛り」の一週間となりました。
ヴェネズエラ情勢については、とりあえずロドリゲス副大統領が暫定大統領に就任、トランプ大統領はこれからアメリカの石油企業にヴェネズエラに投資させる気満々で、今週中にも米大手石油会社幹部がホワイトハウスで大統領と面会の予定とか。とは言いつつ、内政事情が不安定な現状に変わりがないため、実はさすがの石油企業も若干腰が引けているという話も流れてきており、どうなることやら・・・。
何より、この件については、トランプ大統領が議会に何の事前通知もせずに軍事行動に出たことの合法性を問う声が議会内で日毎に高まっており、これまでほぼトランプ大統領に盲従してきた共和党議員の間でも、ついに抵抗の兆しが見え始めました。8日(木)には、5人の共和党上院議員が、「これ以上ヴェネズエラに対する軍事行動を行う場合には議会の事前承認を義務付ける」趣旨の法案を本会議で議論することに賛成したため、同法案は上院本会議で議論されることとなりました。当然、トランプ大統領は「トゥルース・ソーシャル」で切れまくっていますが、造反した5名の上院議員は、これまでも造反歴がある、いわば「造反→トランプ大統領に叩かれまくる」というパターンに慣れている議員がほとんどで、彼らには全く動じる気配がありません。特に、造反議員の中にはMAGA支持層が大半を占めるミシシッピー州選出の上院議員も含まれています。今関係者の間では、下院だけでなく上院でも、MAGA系議員の間でトランプ大統領に対するいらだちが募り始めているのでは?と言われています。
更にトランプ大統領は、ヴェネズエラだけでは「本土防衛」が不安なのか、ついに「グリーンランドが欲しい」レトリックをヒートアップさせ始めました。しかし、そうは言っても、「国家主権」を盾に国内の選挙結果を反故にして権力の座に居座り続けていたマドゥロ大統領がいたヴェネズエラと、れっきとしたNATO加盟国の一員であるデンマークの自治領のグリーンランドでは、全く状況が違います。週末の政治討論番組では、こんなことでもなければCNNやABCなどの主要メディアからお声がかかることはまずないと思われるデンマークの元外務大臣や、国務省の元デンマーク大使などがひっきりなしにメディアに登場。彼らは、万が一トランプ大統領がグリーンランドに手を出せば「NATOは事実上終わる」と警鐘を鳴らしています。そりゃそうですよね、冷戦以来80年近く続いてきた集団的安全保障体制の実質上の親分格であるアメリカが、子分たるデンマークに喧嘩を吹っ掛ける・・・という構図になってしまう訳ですから。
そんな中、何とイランまでが年明け早々から不安定に・・・。もともとはイランの水不足、電力不足、インフレ、貨幣価値の下落などによる経済的苦境がきっかけで始まった民衆デモは収束の気配を見せていません。それどころか、最近では「王よ、永遠なれ(Long Live the King)と、パハレビー王朝の復活を願う落書きが街頭で見つかったなどの報道が流れ、インターネットが体制側により遮断されたはずのイランから混乱した国内状況を撮影したビデオの流出が続くなど、イランはこれまでの民衆デモとは少し違う様相を呈しつつあります。ちなみに、世界の事件に首を突っ込まないと気が済まないトランプ大統領は、イラン情勢についても「民衆を殺害したら、イラン政府に対して何らかの措置を取る」などと軍事行動をちらつかせてイランを牽制。たしか先月に発表された「国家安全保障戦略」では、アメリカはもう体制転覆やネーション・ビルディングには与しない、と言っていたはずだと思うのですが・・・・
おかげで、ウクライナにロシアが新型の極超音速ミサイルを使って攻撃をしたというニュースは、非常に重要なニュースであるにも関わらず、完全にニュースの波に呑み込まれ、ほとんど話題にならないという悲劇まで生まれています。ニュースになっていない、という点では、1月4日の北朝鮮による弾道ミサイル発射も同じですが・・・
これだけ外交問題で動いている中、国内ではもっと大変な事態が発生しています。先週、ミネソタ州ミネアポリスで、ミネアポリス在住の一般女性が、不法移民取締活動をしていた移民・関税執行局(ICE)捜査官に銃で打たれ、命を落とすという痛ましい事件が起きたからです。日本のテレビドラマ「西部警察」も真っ青になるような、アメリカのICE捜査官の強引な捜査手法には、かねてより批判が集まっていました。派遣されたICE捜査官と地元住民の間で緊張が高まっていた中で起きたこの事件、起こるべくして起きたと言っても良いでしょう。さらにミネアポリスで事件が起きたわずか数日後、今度はオレゴン州ポートランドでも同様の事件が。しかも、これらの事件について詳細が明らかになっていない初動の段階で、クリスティ・ノーム国土安全保障長官が犠牲になった民間人を「国内テロ実行犯」呼ばわりしてしまったから、さあ大変。反ICE抗議デモの輪が日々、全米に広がっています。
事態がここに及んでも、普段なら「トランプ大統領礼賛」一辺倒のはずの共和党上下両院の議員も、ほぼ全員、沈黙を守っています。何らかの発言をした議員も、「疑義ある点は多々ある」「透明性のある形で全容が解明されなければならない」などと発言しており、さすがにここにきて、「トランプ政権、調子に乗ってやり過ぎたのでは・・・」という雰囲気が漂い始めています。
さて、このような一連の動きが、これから本格化してくる中間選挙に向けた動きにどのような影響を与えるでしょうか・・・
(了)
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員