キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年12月22日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
感謝祭以降、極寒の日々が続いていたワシントン近郊。ここ数日はようやく少し寒さが和らぎましたが、週末にはまた寒さが戻ってくるとか。雪の予報がないだけ、まだましですが・・・日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
相変わらず話題を振りまき続けるトランプ政権のフォローに四苦八苦する毎日ですが、先週から今週にかけての1週間もその例外ではありませんでした。米議会では先週、過日ヴェネズエラ沖でトランプ政権が「麻薬密輸船だ」と主張する船舶を2度にわたり攻撃したことは違法ではないか、との疑惑についてヘグセス戦争(国防)長官を証人として呼びつけた公聴会が開催されました。同公聴会を開催した委員会に対しては、問題視されている攻撃の一部始終を撮影したビデオがリリースされましたが、そうしている間にも再び米軍が東太平洋沖でヴェネズエラ船舶を攻撃、議会からの反発は強まる一方です。
さらに、内政問題では、来年以降、公的年金制度の保険料に対する政府補助金が停止されることがほぼ確実になりました。その結果もあるのでしょうか、ここにきて、議会共和党内のまとまりに軋みが見え始めました。当初はトランプ大統領を断固支持するなど、「元祖MAGA」的な存在だったマジョリー・テイラー・グリーン下院議員が、CBSのインタビューでトランプ大統領批判を公然と展開、今会期限りで議員を引退する意向を発表したことはすでにお伝えしたとおりです。ところが先週は、こちらもトランプ大統領のコアな支持者として知られ、第2次政権発足当初には国連大使にまで指名されていたエリース・ステファニク下院議員が主役になりました。「ジョンソン下院議長は女性議員を軽視している」と突き上げるなど、議会共和党指導部との間で軋轢が生じていた彼女は、来年11月の中間選挙時に予定されているニューヨーク州知事選挙に出馬する意向を明らかにしたのですが、現職のホチュル知事との間には世論調査で20ポイント近い差があり、現時点では苦戦が見込まれていました。しかも、ここにきて知事本選に向けた共和党の予備選にバリバリのMAGA系対抗馬が出現。更に、一時はステファニク議員を国連大使にまで指名、関係が近かったはずのトランプ大統領はいつまでたっても彼女への支持を表明しようとしません。苦戦が予想される候補はあえて後押ししない、という「勝ち馬に乗る」的トランプ大統領らしいアプローチですね。これがきっかけになったのでしょうか、12月19日にステファニク議員は、知事選から撤退するだけでなく、今期限りで議員を引退する意向も表明したのです。つまり、ただでさえ民主党と共和党の議席が拮抗している下院で、共和党が持っていた議席がまた一議席、空いてしまうということ。民主党が来年、この議席を取りに来るのは確実で、ジョンソン下院議長にとっては、大きな頭痛の種がもう一つできてしまいました。
非常に興味深いことに、共和党内でトランプ大統領とその支持者に反発する声が表面化するきっかけになったのは、関税、経済、外交、安全保障といった大きな政策ではなく、いわゆる「エプスタイン・ファイル」の完全公開という極めてドメスティックな問題でした。この問題をめぐるパメラ・ボンディ司法長官の優柔不断な対応が、MAGA支持層が共有する大きな懸念の一つである「連邦政府の不透明性に対する不信感」を完全に増幅してしまったのです。不幸なことに、トランプ大統領がエプスタイン・ファイルで何らかの違法行為に関与していたら「即刻、2度目の弾劾裁判だ!」と意気込む民主党下院議員の意向と見事にマッチ。疑惑は「未成年に売春を強要」という「人としていかがなものか」レベルの話であり、今やこの文書公開問題は「超党派」で支持を集める問題となっているようです。
これだけではありません。先週は、ワシントンの芸術・文化の中心的存在のケネディ・センターの理事会が同センターを「トランプ-ケネディ・センター」に改名すると決定したことも議会で問題になりました。ケネディ・センターの命名は法律に基づくもので、理事会が勝手に名称を変えるのは違法だ、という議論がすでに出てきているからです。
極め付けはこれです。先週は、なんと、これまでひたすら裏方に徹し、インタビューなどを全く行ってこなかったスージー・ワイルズ大統領首席補佐官がファッション・情報誌の「バニティ・フェア」誌と行ったインタビューの中で「スージーおばちゃん節」を炸裂させたことが大きな話題を呼びました。なぜなら11回に分けて行われたといわれるインタビューの中で、ワイルズ首席補佐官は、
―トランプ大統領→「アル中患者みたいなパーソナリティ」
―バンス副大統領→「10年来の陰謀論者」
―イーロン・マスク→「天才だとは思うけど、変な奴(odd duck)」
―ラス・ボート行政予算局長官→「熱狂的な右翼」
などなど、あまりにも率直すぎる人物評を展開しているからです。週末の政治討論番組でも彼女のインタビューは大きく取り上げられていました。
それでも、実はトランプ大統領にとって先週は決して悪いニュースばかりではありませんでした。連邦政府閉鎖解除後初めて発表された経済指標では、ほんのわずかではありますが、インフレが鎮静化しているというデータが出ました(失業率が上がっているという悪いニュースと抱き合わせではあったのですが・・・)。さらに12月19日には大統領自ら、複数の大手製薬会社と米国内で販売する医薬品価格の大幅引き下げに合意したことを発表。軍人家族に「武人ボーナス(Warrior check)」と称する一時金を支給することも決めました。つまり、トランプにとって先週は、一生懸命、経済対策をしている姿勢を示すニュースがむしろ多かったほどなのです。それなのに、メディアの関心はもっぱら「エプスタイン・ファイル疑惑」や「スージーおばちゃんの率直すぎるインタビュー」に集中。なかなか思うようにはいかないようですね。
とはいえ、これまでメディアの関心を、自分が望む方向に向けることでは圧倒的なパワーを見せつけていたトランプ大統領。そのパワーに陰りが見え始めたこと自体が、中間選挙まで1年を切り、支持率低下に歯止めがかからないトランプ大統領の「レーム・ダック化」の前兆なのかもしれません。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員