キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年12月12日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
感謝祭以降、ワシントン近郊は一気に寒くなりました。今週末はなんと、小雪がちらつくという予報で、場所によっては5~6センチ積もる場所もあるようです。この原稿を書いた今日(12月11日)も、木枯らしが吹いているおかげで、体感気温は零下に。出だしからこれでは、今年の冬の天気はいったい、どうなってしまうのでしょう。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
トランプ政権の早すぎる動きに付いていくために青息吐息の毎日が続きますが、相変わらずトランプ政権はやってくれます。先週は週末直前に「国家安全保障戦略」が突如発表されました。その仰天な内容の数々についてはまた次号できちんと書きたいと思いますが、一言でいうと「今回の国家安全保障戦略は、『戦略』として読んではいけないのではないか」ということ。つまりこの文書、第2次トランプ政権が政権期間中の国家安全保障戦略についてどう考えているか、という視点ではなく、「今、トランプ大統領の頭の中はどんなことでいっぱいなのか」という視点から読んだ方がしっくりくるのではないか、ということです。
さらに、今週に入ってからはベネズエラ情勢が一段とヒートアップ。昨日(12月10日)にはとうとう、ベネズエラの石油タンカーが米沿岸警備隊に差し押さえられる事態が発生しました。一方、米国内では、昨年9月に米中央軍が実施した、ベネズエラの「麻薬密輸船」と言われる船舶に対する攻撃の合法性をめぐる議会と政権のやり取りも続いています。現在の焦点は、攻撃の様子を撮影したビデオの全編を国防省が議会に対し開示するかどうか。この件については、先週カリフォルニアで開かれた国防関係者の集まる大きな会議「レーガン国防フォーラム」に登場したヘグセス国防長官がモデレーターの質問に答え、「今、国防省内で検討している。こうやってここで議論している間も、米軍の作戦行動は続いており、正直、現在進行中の作戦の安全性を確保することの方が自分にとっては大事だ」と繰り返すのみ。ですが、議会からのヘグセス国防長官に対する圧力は確実に強くなっています。今週、下院で可決された国防授権法案では、本件ビデオを開示するまでヘグセス国防長官の出張費の25%、つまり四分の一の執行を禁ずるという文言まで入ってしまったようです。そんな中、トランプ大統領は「(ビデオの開示は)ヘグセスが決める」と明言。この時点で、本問題の意思決定権者は国防長官と決まりました。これって、この問題で政権が炎上したら、責任を全部ヘグセス国防長官に「おっかぶせる」ってことですよね・・・・
トランプ大統領が、問題の全責任を国防長官に押し付ける気満々なのには理由があるようです。というのも、今月に入り、トランプ大統領への支持率が急落しているのです。先週、世論調査専門の「ギャロップ」社が発表した世論調査によれば、現在、トランプ大統領の支持率は36%まで落ちています。第一次政権の終盤、2021年1月6日の連邦政府襲撃事件直後には支持率が34%まで落ちていますので、第二次政権発足後1年もしないうちに、第一次政権の支持率最低レベルまで下がったことになります。また、トランプ大統領本人や周辺の人にとって気になるのは「不支持率」の高さでしょう。というのも、この世論調査によれば、トランプ大統領の「不支持率」はなんと60%まで行ってしまったからです。
しかも、ここにきて、これまでトランプ大統領のハードコア支持者だった下院共和党の女性議員が次々と、トランプ大統領や共和党の議会指導層に対し反対の声を上げ始めました。最初に口火を切ったのは、「元祖MAGA」と言っても過言ではないマジョリー・テイラー・グリーン下院議員。彼女は、数週間前からこの「デュポンサークルだより」でもお伝えしている「エプスタイン・ファイル」の公開をめぐってトランプ大統領と真っ向から対立。ついにトランプ大統領が彼女のことを「裏切者」と呼ぶ状態にまで関係が悪化、グリーン議員は今季限りで議員を引退する意向を明らかにしただけでなく、米地上波の有名なインタビュー番組「60 MINUTES」でトランプ大統領との関係悪化の原因なども激白しました。次は、こちらもトランプ大統領のコアな支持者として知られ、第二次政権発足当初には国連大使にまで指名されていたエリース・ステファニック下院議員。彼女は「ジョンソン下院議長は女性議員を軽視している」と突き上げ始めたのです。
このような現象は、いずれも、中間選挙まで1年を切り、トランプ大統領の支持率の下降傾向に歯止めがかからないことに焦りを感じ始めた議員が出てきていることの証左でもあります。これから年末まで、まだまだトランプ大統領の「お騒がせ」は続くと思いますので、頑張ってウォッチしていきたいと思います。
(了)
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員