外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年11月14日(金)

デュポン・サークル便り(11月14日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は、今週は秋を飛び越して冬の陽気。風が強い日も多く、体感気温が朝晩は摂氏でマイナスを記録した日もありました。週末にかけて少し気温が上がりそうですが、来週はまた冷え込みそう。夏時間が終わったため、夕方も5時半を過ぎるとあたりは真っ暗、「気が滅入るねぇ」などと友人とは話しています。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

さて、空の便の大混乱まで始まり、出口のないトンネルを歩いているような気持ちで民主党と共和党のガチンコ対決を見せられて一か月余り。1112日夕方、ついに40日以上続いた史上最長の連邦政府閉鎖が終わりを告げました。といっても、「つなぎ予算」が認められたのは来年の1月末まで。ということは、感謝祭が終われば、再び、クリスマスと年末年始を挟んでガチンコ対決が再開するということ。これじゃ、「やってらんないよ、もう」と転職を真剣に考える公務員の方がいたとしても、「だよねぇ、頑張って」と背中を押してあげたくなってしまいます。

この一連の騒動を見ていて、民主党は非常に危ない橋を渡っているなぁと個人的には感じました。117日付の「デュポンサークル便り」で、114日のオフイヤー選挙で起きた「青(すなわち民主党)の波」をどう解釈し、民主党は今後、方向性を見出すのか・・ということについて少し触れました。私は何となく、114日の選挙で大勝したことが、「俺たちはこのまま、トランプに反対して突っ張り続けていればいいんだ」という誤解を民主党議員に生じさないだろうか、と懸念していました。ところが、この1週間の民主党議員の言動を見る限り、その懸念は現実になりつつあるような気がします。

というのも、「21世紀版フードスタンプ」のSNAPプログラムの執行停止、空の便の大混乱・・・など、日常生活で人々が受けるダメージがどんどん広がってきているにも関拘わらず、大多数の民主党議員は口を開けば「公的健康保険制度を利用する人への補助金を守る」としか言いませんでした。民主党議員はこの問題を最大かつ唯一の争点にすると決め、この一点における共和党との差別化を浮き彫りにすることで「普通の人の生活を守るために頑張る民主党」VS「トランプの言いなりになる共和党」の構図を描き出すことに決めたのでしょう。この手法はまさに、争点にすると決めた一つの政策にのみ狙いを定め、相手との違いを際立たることで優位に立とうとする「シングル・イシュー・ポリティックス」。これは、うまくいけば支持を大幅に増やすことにつながりますが、妥協のタイミングを間違えるとかえってブーメラン効果で支持を失いかねない、両刃の剣です。

なぜなら・・・「公的保険制度への補助金を守れ!」と叫んでかたくなに連邦政府の業務再開を民主党が拒んでいる間に連邦政府職員は1か月以上、お給料が入ってこない状態になり、軍人に対する給料の支払いまでストップするかもしれないという「崖っぷち」に追い込まれ、感謝祭の休みは刻一刻と近づいているというのに、空の便は、日々大混乱。でも、そんな状況を横目に自分たちの争点にだけこだわる民主党議員の中で、「連邦政府が閉鎖している間は、自分たちも無給で働く!」と宣言した議員は・・・ゼロ。

その一方で、共和党はトランプ大統領以下、「連邦政府閉鎖を回避するために種々の条件を付けないすっきりした継続審議決議を下院で可決した。公的年金制度への補助金についても別途交渉に応じると言っている。なのに、自分たちの政策にだけこだわって政府閉鎖を選んでいるのは民主党」というメッセージを一貫して発し続けました。

正直、私などは「自分たちは『普通の人』のために断固、戦うんだ」とメディアで発言している民主党の議員の言葉を聞いて「じゃ、自分たちの歳費を、今中断しているSNAPプログラムに振り替えなよ」と思ってしまいました。

ようやく、連邦政府再開になんとかこぎつけたものの、政府を再開させ、日々の生活の安定をまず取り戻すことを優先させ、「共和党案に賛成票を投じる」という苦渋の選択をした民主党上院議員には、案の定党内からブーイングの嵐。上下両院で少数党である以上、どこかで多数党と妥協しなければいけないのは、悲しいかな野党の必然。その必然を乗り越えて、なんとか自分たちの意思を反映させるようにあれこれ工夫するのが、本来の「責任ある野党」なんじゃなかろうか、などと思ってしまったこの1週間でした。

                                                                                                                              (了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員