キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年11月4日(火)
[ デュポン・サークル便り ]
先週は、ワシントンでもトランプ大統領のアジア歴訪が大きな話題となりました。本丸とみられていた習近平主席との米中首脳会談もさることながら、高市総理との初の日米首脳会談も、やはり「日本初の女性総理との会談」ということで通常の日米首脳会談よりもずっと注目度が高かったように思います。メディアからの問い合わせも会談の前後、これまでになく「ちょこちょこ」とあり、なんと私も先週は、日米首脳会談の翌日、ちょっと(かなり?)トランプ大統領に寄ってる感じの右派メディアNewsMaxのデビューまでしてしまいました。このインタビューの時に、おそらくほとんど日本のことなど知らないであろう女性アナウンサーが、高市総理とトランプ大統領が一緒にいる映像を見て「この二人は真に(genuinely)仲良くなったみたいに見えますね」とコメントをしていたのが印象的でした。こちらは先週の金曜日にハロウィンも終わり、これを書いている今日(11月2日)で夏時間もおしまい、いよいよ冬の足音が近づいてきました。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
ワシントンは現在、連邦政府一時閉鎖が1か月を超え、史上最長記録を更新中です。先週の金曜日を境に、全米各地の空港で飛行機の便の数を制限したり、キャンセルしたりしなければならなくなる事態が目立ち始めました。先週あたりから主要航空会社のハブ空港であるアトランタ、ロサンゼルス、ニューアーク、シカゴ、ニューヨークのJFK空港などでじわじわと増えてきていましたが、この週末にかけて、ついにワシントンのナショナル空港でも、航空管制官の人手不足が原因として90分間の離着陸停止措置が発動されました。感謝祭の休日の里帰りの移動を空路から陸路(車)に切り替える人も出てくるかもしれません。かくいう私も、毎年、感謝祭を一緒に過ごすフロリダ州の友人のところに、今年は車で移動かな・・・と考え始めています。
しかも、最近、近所のいろいろな「フードバンク」、そうです、食料品の配給をするセンターからの「寄付を募っています」というお知らせが、これまでになく自宅に届くようになりました。その多くは、留守中に家の玄関に「保存がきくパスタなどの乾燥食品を中心とした食料の寄付を募っています。〇月〇日に回収に来ますので、もし寄付していただけるものがある場合は、回収日の朝8時までに正面のドアの前に出しておいてください」という趣旨のシールを貼っていくのです。連邦政府が1か月以上閉鎖しているため、このあたりでは連邦政府職員や関係者の中で無収入になっている世帯が爆発的に増えています。しかも、11月1日付で低所得者層を対象にした食料購入の補助金を、支給されたデビッドカートの口座に振り込むという「21世紀版フードスタンプ」であるSNAPという連邦政府のプログラムの執行が、執行可能な予算が底をついてしまったという理由で停止。裁判所はトランプ大統領に対して、緊急事態用予算を放出してこのプログラムを継続しなければいけない、という判決を先週の金曜日に出しました。ということで、週明けにはプログラムが再開されることになってはいるものの、実際に口座に補助金を振り込む手続きをとるのは・・・そうです、現在、連邦政府閉鎖に伴い出勤できない状態になっている保健福祉省付の契約社員です。つまり、手続き作業をする人が出勤できない状態のため、理論的に予算は復活しても、実際にいつ振込が行われるのかは不明なのです。このような事態になってしまったため、全米各州で、緊急事態宣言を出し、州政府の責任で同様の食料支給プログラムの継続をする動きが出ています。
一般有権者の悲鳴をよそに、議会での予算交渉は一向に打開への道のりが描けません。が、11月4日にバージニア州やニュージャージー州での知事選をはじめとするいくつかの地方選挙が終了すれば、両党の中で「そろそろ交渉だけは再開してもいいんじゃないのか」という機運が高まってくるのではないか、という観測が飛び交い始めています。ですが、こちらもどうなることやら。
そんな中、全米三大ニュースネットワークの一つであるCBSニュースでは、冠番組の一つである「60ミニッツ」というインタビュー番組でトランプ大統領へのインタビューを放映しました。ウクライナ情勢、ベネズエラとの緊張の高まり、中東情勢、さらには米中関係といった外交問題から、不法移民取締り、連邦政府一時閉鎖、さらには2028年大統領選といった内政問題などの多岐にわたる問題について次々と質問されたトランプ大統領でしたが、
(ウクライナ情勢に関して、なぜロシアは戦闘をやめようとしないのかと問われ)「あれはジョー・バイデンの戦争だ。あのバカげた戦争はあいつの戦争だ」
(核実験再開の指示を出したことについて)「アメリカだけが核実験をしないなんてありえない」
(中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは台湾を防衛するのかと問われ)「ここではそのことについては何も言わないよ。習近平だって、そんなことをしたらアメリカがどう対応するかどうかはよくわかっている。そもそも、彼との会談ではこの話について彼は一言も触れなかった。」
(2028年大統領選挙に出馬する意思はあるのかと問われ)「考えたこともないな。民主党と違って、我々はたくさん、優秀な候補者がいるから」
など、よどみなく「トランプ節」を炸裂させていました。
しかしまぁ、いつになったら、連邦政府の一時閉鎖は終わるのでしょう・・・次なる「Xデー」は現役の軍人への給与の支払いがいよいよ停止する11月15日だそうですが・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員