キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年10月20日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
前回から2週間も間が開いてしまい、申し訳ありません。10月9日に高市自民党総裁が誕生してからというもの、俄然、私の周りで日本の政治に対する関心が高まり、このため、「コーメイトーって何?」「イシンってどんな政党?」「タマキって誰?」、はては「コイズミ・ジュニアはこれからどうなるんだ?」という「日本政治101」のような質問が連日、怒涛のように入ってくるため、商売繁盛で嬉しい悲鳴を上げておりました(というか、おそらく、今週がクライマックスかと・・・・)
そんな中、私事で恐縮ですが、週末におかげさまで息子が16歳の誕生日を迎えました。アメリカでは16歳から運転免許が取得できるようになるなど、本格的に「大人への階段」を登り始める年、ということで、大変大事な節目の誕生日です。ご家庭によっては、クラス全員呼んで盛大なパーティをやったりしていますが、我が家はつつましく、母と息子の二人旅。車を7時間飛ばして、ニューヨーク州バッファローまで北上、車で国境をほいっとわたってナイアガラの滝周辺を散策したり、母子で好きなアメフトのチーム、バッファロー・ビルズのホームスタジアムを見に行ったり、スタジアムから車で5分の距離にある、選手ご用達のイタリアン・レストランでバースデー・ディナーをしたり・・・というわけで、これを書いているのはバッファローの宿泊先です。明日は、再び、車に乗り込み、7時間のロードが待っております。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
先週のワシントンは、中東に始まり、ロシア・ウクライナ情勢に終わった1週間でした。それにしても、トランプは、中東でやってくれました。歴代の大統領が何度となく失敗してきた中東和平への道のりが、なんと、つくかもしれない予感。イスラエルの議会(クネセット)での演説は、トランプらしかったですね。一般教書演説で民主党側から受けるようなブーイングもなく(一人だけ、『パレスチナの国家承認を!』と叫んでいた野党議員は、秒速で警備につまみ出されました・・・イスラエルの議会警察、すごい・・・)、彼の演説の前に「トランプ大統領を我々は、来年のノーベル平和賞に推挙します!」と宣言したイスラエル大統領の言葉にもニンマリ。終始ご満悦で1時間近い演説を終えました。
しかし、やはり、ここにきて登場しました、トランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー!彼は、第1期トランプ政権の時も「なんでも特使」で、アブラハム合意を成立させるために奔走。トランプ大統領が「彼があまりに素晴らしい男だから、彼とどうしても結婚したかった娘はユダヤ教に改宗した」と、クネセットでの演説で紹介した彼、昨年の大統領選挙中からいままで、ずっと表に出てきませんでしたが、今回、ウィトコフ中東問題担当大統領特使と一緒に、イスラエルとハマス、さらに周辺のアラブ諸国との調整に奔走した模様。先週のトランプ大統領の中東訪問にイバンカさんとともに同行したことで、第二次トランプ政権発足後、初めて、公の場に夫婦で姿を見せました。また、トランプ大統領は演説の中で、ウィトコフ特使、クシュナー氏と並んでルビオ国務長官のこともべた褒めしましたが、バンス副大統領への言及は一切なし。最近、特に外交・安全保障の重要な局面ではバンス副大統領の出番がほとんど回ってこない一方、国家安全保障担当大統領補佐官を兼務してはや3か月が過ぎたルビオ国務長官の存在感が急速に高まっている今日この頃。2028年大統領選挙がなんとなく見えてきた今、私としてはとても気になります・・・。
中東で停戦に向けた枠組み合意に署名、意気揚々と帰国したトランプ大統領はその勢いに乗って17日(金)にはワシントンを急遽訪問したウクライナのゼレンスキー大統領と会談。2月の会談は物別れ、前回の会談では180度方向転換して、非常に有効的な雰囲気の中で会談が行われましたが、今回、なんとトランプ大統領は、ゼレンスキー大統領と昼食を交えて議論するワーキング・ランチ。会うたびにゼレンスキー大統領へのおもてなしがグレードアップしています。思い返すと、今年4月、故フランシスコ前ローマ教皇の葬儀に参列するためにバチカンを訪問した2人が、聖ピエトロ大聖堂の中で簡素な椅子に腰かけて文字通り、ひざ詰めで向き合って対話した2人の姿は強烈でした。あれ以来、紆余曲折はありつつ、2月以降、トランプ大統領の「トリセツ」をスターマー英首相やマクロン仏大統領からしっかり伝授されたと思われるゼレンスキーの賢い立ち回りもあり、トランプ大統領のロシア・ウクライナ戦争に対する立ち位置は変わってきているようです。
そんな中、連邦政府一時閉鎖は相変わらず続くワシントン。10月11日には、予算のふり替えなどの努力で開館する努力を続けてきたスミソニアン博物館も、ついに万策尽き、全部が一時閉館に。おかげで、モールは閑散としています。観光客もいない、出勤する連邦政府職員もほぼゼロ、ということもあり、ワシントン市内への行き来が、議会が閉会する8月と同じぐらい楽になっており、仕事で市内に行かなければいけない時は、とても複雑な気分です。しかも、先月末には、ついに、私の友人の中でもレイオフされる人が出始め、いよいよこの話、他人事ではなくなってきました。
そして土曜日には、トランプ政権による不法移民に対する強引な逮捕・拘留や、連邦政府一時閉鎖などに対する「王はいらない(No Kings)」抗議集会が全米各地で行われました。報道によれば全米50州のすべてで2500以上の集会が行われているようなのですが、ここニューヨーク州北西部ではそれらしき集会は全く見かけませんでした。報道されている集会も、シカゴやロサンゼルス、サンフランシスコといった、リベラル色が強いことで知られる都市のものばかり。しかもロサンゼルスでの抗議集会の報道では「抗議集会というより近所の人が集まったパーティーみたい」という見出しまで。抗議集会なのか、「抗議活動」を理由に集まってどんちゃん騒ぎしているだけなのか・・・と思われても仕方ない状態のようです。
さすがに2週間このおたよりを書かないと、カバーしないといけないイベントが多すぎます。来週以降は、また元のペースに戻して発信していきますので、お付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員