キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年10月3日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンは、ここ1~2日、朝と夕は肌寒いぐらいの気温です。でも午後になるとからりと晴れて典型的な秋晴れ。過ごしやすいですが、日の出時間はじりじりと遅くなっています。夏時間が終わるまで1か月を切りました。日本は季節外れの暖かい気温の日が続いているようですが、日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
ワシントンは10月1日に、ついに連邦政府が一時閉鎖に。今回ばかりは民主党も妥協しないんじゃ・・・と言われていたので、驚きはないと言えばそうなのですが、前回と違うのは、妥協に向けた糸口すら、今回は見えないことです。たしか、前回、第1次トランプ政権時に連邦政府一時閉鎖に突入した時は、1か月ちょっと閉鎖期間が続きましたが、今回はいったい、いつになったら終わるのか未定。しかもこれを書いている今日(10月2日)は、ヨム・キプルというユダヤ教では最も神聖な祭日のため、日没までユダヤ系アメリカ人も一切仕事はせずお休み。というわけで、議会は開店休業状態です。明日、もう一度、上院では投票が予定されていますが、明日の投票で問題が解決するとはだれも期待していないので、ほぼ確実に連邦政府閉鎖は来週まで続くようです。「トランプ政権・議会共和党」対「民主党」のチキンゲームの火ぶたが切って落とされました。
ですが、ここで来年の中間選挙がひたひたと近づく議会共和党にとっては悩ましい状況が。というのも、トランプ大統領は、今回の連邦政府閉鎖をてこに、一部の連邦政府省庁を標的に大幅に人員削減をする計画がある模様。すでに「連邦政府が最も恐れるトランプ大統領側近ぶっちぎりナンバーワン」のラッセル・ボイト予算管理局長が、各省庁に対して連邦政府閉鎖期間に改めて人員整理について再検討することを指示するメモをすでに出しており、早ければ明日にも一部の省庁の職員の大規模解雇が始まる可能性があるといわれています。となると、共和党議員の多くが、トランプ大統領の決定のせいで失業してしまった元連邦政府職員を、自分の選挙区に抱えることになります。そういう人たちは、当然、トランプ大統領と自分の選挙区の共和党候補を同一視するわけで、これは共和党議員候補にとっては確実にマイナス。いまはまだ、ジョンソン下院議長も強気ですが、連邦政府一時閉鎖が2週間以上長引くようなことになると、さて今のような強気の姿勢を崩さずにいられるかどうか。
また、連邦政府一部閉鎖の余波は、政府職員を超え、連邦政府省庁と契約関係にある民間企業の社員にも及ぶ、つまり、契約元である連邦政府省庁からこれらの企業に対する支払いが行われないので、こういう契約社員の皆さんもレイオフ状態になる、というのはよく言われているところです。
が!なんと、今回の連邦政府閉鎖を機に、政府が閉鎖になってもレイオフされない契約企業の社員の皆さんがいることを、発見してしまいました。この状況下でも、国防省や各軍との契約で予算分析、調達プログラム管理、軍の教育訓練(同盟国との共同訓練を含む)支援などの仕事に従事することが業務内容になっている契約企業の社員は、普通に出勤しているのです。軍を退役してこのような企業に再就職している友達がなぜかとても多い私。この友達の何人かに「連邦政府閉鎖だと、仕事行かなくていいんでしょ?」とSMSを送った(今日は私が半日リモート勤務だったので、休みなら、お茶しよう、と誘うつもりでした)ら、秒速で「うちの契約は全部軍が前払いしているから、私、普通に出勤している」「シビリアンの政府職員は(政府一時閉鎖で)出勤できないから、いつもより忙しい」という返事が全員から帰ってきたことで判明したのですが、いわゆる「連邦政府との契約企業の社員」にもこういう人たちがいることなんて、メディアはどこも報じていません。アメリカに30年住んでいても、まだまだ知らないこと、いっぱいです・・・・
とはいえ、あまり政府閉鎖が長引けば、アメリカ経済に影響が出るのは必至。共和党と民主党、どちらかがどこかで妥協しないといけないわけですが、それがいったいいつになるのか。どちらも今回、引くに引けなさそうな感じなだけに、スリリングな毎日が当面の間、続きそうです。
が、アメリカが連邦政府一時閉鎖でショック状態になっている間も世界は動いています。中東では、人道支援物資をもってガザ地区に入ろうとした活動家のグループを乗せた船がイスラエル軍に拘束され、各国からイスラエルに対する猛烈な反発の声が上がっており、スペインのように、アメリカからのイスラエル軍への武器輸送の自国領通過を禁止するという発表を出す国も出てきました。そうかと思えば、英国ではマンチェスターで、ヨム・キプルの礼拝のためにシナゴーグを訪れるユダヤ人を狙ったテロ事件が発生。反ユダヤ主義の根深さを感じさせられます。今のイスラエル政権の対応は、かえって世界中で反ユダヤ主義をあおってしまっているのでは・・・というのは、素人考えにすぎないのだとは思いますが・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員