外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年9月8日(月)

デュポン・サークル便り(9月8日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、先週、レーバー・デーの週末を終え、いよいよ、夏休みも終わり。昨日、今日と、夏日が続いていましたが、明日からは再び、初秋を感じさせる天気になるという予報がすでにでています。日本は、相変わらず暑い日が続く中、週末は石破総理の辞意表明に揺れているようですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけて、今のワシントンを包む奇妙な雰囲気を実感する日が続きました。一言でいうと、「パラレルワールド」。

というのも、先週は、第2次トランプ政権発足以降の各種政策に対するアプローチの影響が最も感じられた週だったからです。例えば、外交・安全保障政策面では、第2次トランプ政権の外交・安全保障政策における「アメリカ・ファースト」的アプローチの結果、インドをみすみす中ロ陣営に追いやってしまったのではないか、という危機感が強く感じられる週となりました。友好ムードをアピールするパフォーマンスとはいえ、プーチン大統領と手をつなぐモディ首相の姿が強烈過ぎました。しかも、第2次世界大戦後「戦争省」から改称、戦後70年以上親しまれていた「国防省」という名称を「戦争省」に戻すという大統領令にトランプが署名する、というおまけまで(正式名称は、法律を修正しなければダメなため、あくまで通称ですが・・・)。

ですが、そんなすごいことが国外で起こっていたというのに、先週のワシントンの最大の話題はワシントンDC市内への州軍派遣。さらにトランプ大統領がシカゴやロサンゼルス、ニューオーリンズなどの都市への州軍動員もにおわせ、これらの都市を抱える州知事との対決姿勢を強めるなど、緊張と混乱は高まるなか、世間の関心の9割は内政問題に集中。

中間選挙がひたひたと近づく中、実績作りに焦るトランプ大統領と、彼に振り回されるアメリカ、そしてそんなアメリカが「世界の指導者」としての役割を果たせない間に、着々と中ロを軸にしたアメリカに対抗する軸が世界で構築されつつあることがほぼ同時に明らかになる、という「盛沢山」という言葉ではとても言い表せない1週間でした。

ただ、そんなめちゃくちゃな内政ではありますが、少なくともDC市内への州軍や不法移民取締り官の増派などをめぐるドタバタについては、先週の終わりぐらいから少しずつではありますが収束モードです。以前の「デュポン・サークル便り」でもお伝えしたとおり、大統領が、大統領令でDC警察を司法省直轄下に収めることができるのは30日までで、それを過ぎると議会から承認を得る必要があります。また、連邦議会側も、上下両院で共和党議員が、トランプ大統領に、実質期限を切らずにDC警察を司法省傘下に移管することができる権限を付与する法案の準備をしていました。

ですが、ここにきてDCのバウアー市長が、議会の動きをけん制するかのように、さっさと「DC警察が無期限で、連邦政府の法執行当局と協力し、必要な支援を提供することを認める」という市長令に署名。この市長による動きを見て、共和党議員の間に「市長が無期限に協力するって意思表明しているのだから、わざわざ法案通す必要はないのでは?そもそも、今のままでは絶対法案成立に必要な票をとれないし、騒ぎが長引けばかえって自分たちにマイナス」という空気が広がり始め、先週には、ジョンソン下院議長も「トランプ大統領に(DCの行政に関して)新たに権限を付与する法案を審議にかける予定はない」と発言するに至りました。

当のバウアー市長は、「DC市議会に相談なく、勝手に市長令に署名した」と大ブーイングを浴びています。が、先んじてトランプ政権に協力する姿勢を見せたことで、下手すれば年末までDC市内を軍の制服を着た州軍兵が市内を闊歩する、という状況を未然に防いだとも言えます。苦汁の決断だったことは間違いありません。このバウアー市長、第2次トランプ政権発足以降、「トランプの『トリセツ』マスター」ともいえる動きを見せていますが、それについては、また別の日に書きたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員